僕は海が大好きだ。
人工の世界から完全に開放される身近な世界は、海しかない。
人は、なぜ海に魅せられるのか?
母なる大地という言葉があるが、それ以上に、
海は、母親の懐に抱かれているような心地よさを感じられる、
唯一の場所なのかもしれない。
海で危険な目にあったことは何回もあるが、
それでも、性懲りもなく海に行く。
今回も、弟の琢磨との釣りに行った時の体験だ。
硫黄島の釣り場の岩礁に瀬渡しされたのは、
まだ明けやらぬ早朝5時過ぎだった。
二人がやっと乗れるくらいの岩場に下ろしてもらった。
瀬の下3メートルくらいの所に波が打ち寄せ泡立っている。
絶好の黒鯛ポイントだ。
撒き餌をして、竿を出した。
すぐに竿がしなった。
大きな尾長黒鯛だ。
立て続けに5匹ほど吊り上げた。
入れ食いだ。
興奮して、無我夢中だった。
釣り針に餌をつけようと、下を見た瞬間だった。
突然の大波が、僕を襲った。
体が宙に浮いたかと思ったら、
そのまま3メートル下の海の中に飲み込まれてしまった。
ゴムの磯靴と寒さよけのズボンが重くて、泳げない。
真っ白で何も見えない。
もがくと、岩に叩きつけられる。
すぐに、意識的に海の中に潜って、岩から離れた。
ゴム靴は脱ぎ捨てた。
釣り場から少し離れた場所で、海面に浮かび上がったら、
岩の上から、弟が、僕の名前を呼び続けているのが聞こえた。
大丈夫だと手を振って、大きな波が静まってから、長い竿を下に下ろすように指示した。
波が収まった頃を見計らって、岩の近くまで泳いで帰り、
竿の先を掴んで、小さな波が来るのを待った。
波に乗って少しずつ上のほうに這い上がった。
竿を強く引くと竿が折れる。
波と竿の力のバランスを考えながら、三回ほどの波に乗り、
岸に這い上がった。
竿の先は折れたが、命には代えられない。
もしこの時に、僕をさらったような大波がまた襲ったら、
今、僕はここには存在していないかもしれない。
釣れた獲物も、クーラーボックスも、僕の竿も、着替えも
全部流れていった。
海面を流れるたくさんの漂流物を見つけて、
漁船が慌てて走ってきた。
情けない姿のまま、漁船に乗りこんだ。
でも、このまま帰るのはしゃくだから、
今度は、大きな広い岩瀬に下ろしてもらい、
ずぶ濡れのズボンとシャツを脱いで、よく絞って、
乾いた岩の上に干しながら、濡れたパンツ姿で、
弟の折れた竿と船頭から分けてもらった餌をつけて、
苦笑いでごまかしながら、また釣りを始めた。
今度は、一匹も釣れなかった。
まさに、釣りバカだ。
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