語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【片山義博】民主党大敗とその教訓 ~政治の最低限の責任~

2013年01月16日 | 批評・思想
 「世界」2月号で片山義博・慶應義塾大学法学部教授/元総務大臣は、民主党大敗の原因を3つ挙げている。
 (1)消費増税という公約違反。
 (2)東日本大震災への対応の遅れ。
 (3)政治主導の失敗。

 いずれも国民の大多数がそう感じ、同じように考えている、と思う。その意味では国民の大多数の意見を集約したものであり、独自の指摘とはいえない。
 しかし、「診断」の結論より、「診断」に至るまでの民主党政権の具体的な「病状」を剔抉することで、どの政党が政権をとろうが、政治が果たすべき最低限の責任を「教訓」として総括することが、実はこの論文の眼目だ。

 (1)嘘をつくな。
 消費税を絶対上げない、と公言して2009年の総選挙を大勝しながら、嘘をついた。嘘をつく「作法」すら守らなかった。つまり、どうして約束を守れなくなったのか、その理由を言い募るわけでもなく、これだけ努力したけれど結果として約束が守れなかった、と縷々言い訳すらしなかった。野田総理(当時)は、単に、<消費税引上げは大義だと言い放ったのである>。
 民主党は「能天気」に過ぎた。野田政権のある閣僚は、消費増税について言及した上で代表者選に野田が選出されたから、消費増税は承認された、とテレビ番組で述べた。この閣僚は、代表者選はあくまで民主党内の国会議員団の議論であって、党内外の有権者には関係ないことが分かっていなかった。
 また、閣僚経験者のある実力者は、別のテレビ番組で、他の出演者からやはり公約違反を指摘されたところ、「だったら、どうやってこの財政危機を乗り越えることができるのか、教えてもらいたい。もし消費税を引き上げなくても財政運営が可能だと考えているとしたら、それは素人だ」などと見下すような態度を示していた。多くの視聴者は、そこに民主党の能天気さと傲慢を見たことだろう。
 政治の世界でも嘘はいけない。
 むろん、事情の変更は生じ得る。<ただ、その際にはその事情の変更につき有権者の理解を得るための最善の努力が求められる。それを欠いたままでやり過ごそうとしたり、まして居直ったりしてはいけない。それは政治への信頼を著しく毀損する。現に民主党は有権者の信頼を失ってしまった。のみならず、政策へのニヒリズムを生んでしまった。このたびの総選挙において、政策を二の次にした政党の野合が見られた背景にはこのニヒリズムが横たわっていると思えるのである。>

 (2)ミッションを失ってはいけない。
 補正予算で肝心なことは、千年に一度の大震災の復興に必要な予算として新たな財政支援制度を設け、それを被災地の自治体にできる限り速やかに示す必要があった。
 片山総務大臣(当時)は、地震発生後4月の段階から、復興のための本格的補正予算を早期に編成するよう、閣議や閣議後の閣僚懇談会でたびたび訴えた。しかし、その主張は日の目を見なかった。<財源のめどが立たないのに補正予算を組むことは無責任だというのが当時の野田財務大臣の主張で、それを菅総理(当時)は否定しなかったからだ。>
 野田財務大臣(当時)は「増税なくして復興なし」と主張した。<本来、災害復旧や復興のための事業は財政運営上国債を財源とするに最もふさわしい費目とされているにのもかかわらず、まるで復興を人質にとるかの如く増税を補正予算編成の条件としてしまったのである。>
 増税が決まらなければ補正予算を組まない、という主張は、救急病院に重篤な患者が担ぎこまれてきても、治療費の返済計画を提出しなければ手術にとりかからないようなものではないか、と閣僚懇談会で質すと、ある大臣は「アメリカの病院はそんなものですよ」と混ぜ返した。わが日本政府はそんなアメリカのようなことでいいのか、と駁したら、反論はなかったが、だからと言って補正予算を組もうということには至らなかった。
 ある時には、増税が国会で認められない場合には東北の復興を断念するつもりか、と問いただしたら、うつ向いたままで返事がなかった。
 別のある時は、どこかの国が攻めてきたとき、わが国は前年度剰余金と予備費の範囲内でまず応戦を試みるが、それを費消してしまったら戦費調達増税が決まるまで休戦にしてくれと交戦国に頼みに行くのか、と言ったら、一堂、大笑いしたが、それきりだった。
 結局、復興予算ができたのは、野田内閣で復興増税が決まった11月のことだった。雪深い東北では春までその予算を使った事業は執行しづらい。震災発生後ほぼ1年間、復興は足踏みを余儀なくされたことになる。民主党政権は、被災地の一日も早い復興を二の次にし、財源の確保(増税)を優先してしまった。そして、その復興予算は、成立が遅れただけではなく、使い勝手が悪かった。
 <政治はミッションを誤ってはいけない。これが民主党政権が残した貴重な教訓である。>

 (3)政治主導には人材が不可欠だ。
 復興予算がいざ成立してみると、復興とはまるで関係ないところに使い回されている。
 調査捕鯨にも支出された。グリーンピースなどによる反捕鯨活動の執拗な妨害行為に対し、敢然と立ち向かう姿勢が被災地の皆さんを励ますことになるから、復興予算を充ててもいい、という理屈だ。<よくもこんな屁理屈を素面で言えるものだと呆れかえるほかない。>
 被災地とは関係のないある国立大学に、国から復興予算が配分された。学長が文部科学省に、復興予算の趣旨とは違うのではないか、と問い合わせたら、大丈夫だから気にしないで使え、と指示が入った。
 霞が関の各省は、フック予算は被災地以外のところでも使えることになっているから問題はない、と言い張っていた。ことの発端はそうではなく、震災・原発事故への対応で使った装備の補償を想定して被災地以外にも例外的に使えるというのが出だしだった。しかるに、いつの間にか、屁理屈を捏ねて、何にでも使えるような仕掛けにしてしまったのだ。
 <あれほど財源がなければ復興のためであっても予算を組まないと言い張っていたのに、いざ増税して予算ができると、復興であろうとなかろうと、ルーズな使い方に歯止めがきかない。政府の退廃はここに極まってしまった。>
 この退廃を閣僚たちも承知の上なら、野田政権は国民・納税者と被災者を愚弄していたことになる(閣僚失格)。それとも、閣僚たちが知らないところで財務省や各省のお役人たちが勝手に使い回す仕組みをこしらえたのなら、閣僚たちは官僚になめられていたのだ(これまた閣僚失格)。
 <真の政治主導には政治家の力量とゆるぎない誠実さが不可欠という教訓ではある。>

□片山義博「民主党大敗とその教訓 ~片山義博の「日本を診る」第40回 特別版~」(「世界」2013年2月号)
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