語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~

2017年09月11日 | 批評・思想
★スコット・セーガン、ケネス・ウォルツ(川上高司・監修、斎藤剛・訳)『核兵器の拡散 終わりなき論争』(勁草書房 3,500円)

 (1)トランプ米大統領の一連のツイッター発言から、東アジアにおける緊張が高まっている。むろん、直近の問題は、北朝鮮に対する米国の攻撃があるかどうかだ。しかし、その背後に国際的にも非常に重くて深刻な問題が横たわる。核兵器の存在だ。

 (2)1945年夏、広島と長崎で使われた核兵器は数多くの議論を巻き起こした。幸運にもその後使われないまま東西冷戦は幕を降ろした。ところが、冷戦後に新たに浮上したのが、核兵器の「拡散」という問題だ。
 これについて国際政治学の泰斗の2人が真正面からディベートを行い、それをまとめたのが本書だ。
 著者は、次の二人。
  (a)「核拡散は抑止論の論理から安定に寄与する」という立場で、国際関係の理論家として名高い故ケネス・ウォルツ(米カリフォルニア大学バークレー校の元教授)
  (b)「国家は組織的に合理的に動けないので核拡散は危険だ」という立場のスコット・セーガン(米スタンフォード大学教授)

 (3)本書の特徴を三つ挙げてみたい。
   ①当然だが、ここで交わされている議論が、現在の北朝鮮をめぐる情勢にもそのまま当てはまる。〈例〉核拡散に楽観的な立場を取るウォルツ氏によれば、米ソ両国の冷戦時代の経験から、「核武装国家は双方いずれかの主要な価値に関わる問題がある場合には最大限の慎重さを見せた」と主張する。言い換えれば、米朝対立の安定の鍵は、双方が何を「自国にとって死活問題か」と感じるかによる。
   ②国際社会をめぐる問題の核心には心理面が大きく作用していることを実感させてくれる。日本のメディアで何げなく使われる「抑止力」という概念は、実はかなりあやふやな人間の感情に立脚したものであり、決して理性的な計算ではない。そのことが議論から浮かび上がる。逆に言えば、このような大量破壊兵器の破壊力に対する「恐怖」という感情によって世界の平和が成り立っている「逆説」に気付けるところが本書の利点であろう。
   ③日本にはほとんどない、学者同士の正面からの本気のディベートが見られる。日本の学者の間には、相手を批判することが即、人格否定につながるという意識があり、専門誌では議論になることは(でき)ないが、本書は論点に対する議論の応酬が明快であるため読みやすい。

 (4)やや残念なのが、訳文に硬さが感じられ、専門用語が多い点だ。
 ただし、英語圏の安全保障関係の学生たちが授業で読まされる副読本となっていることからも分かるように、高度で本気の知的な議論が味わえる良書である。

□奥山真司(IGIJ(国際地政学研究所)上席研究員)「核兵器は世界を平和にするか/著名学者2人がガチンコ対決  ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月16日号)
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