語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】国家戦略特区で起きた肝移植問題 ~神戸~

2015年10月24日 | 社会
 (1)国家戦略特別区域諮問会議(議長:安倍晋三・首相)が東京圏、関西圏など6区域を国家戦略特区に指定したのは昨年3月だ。を
 「関西圏」に属する神戸市は、さっそく資料「神戸市の国家戦略特区事業について」を発表し、まだ開院していない民間病院「神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)」を紹介している。
 <世界的な生体肝移植の権威である田中紘一郎先生が理事長を務める「神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)」病院(26年10月開院予定)において外国人医師を受け入れ、神戸周辺で働く外国人研究者・ビジネスマンなどに対して医療を提供する>。
 理事長兼院長に就任する田中医師が「元京都大学病院長」として写真入りで紹介されていた。

 (2)2014年11月に開院すると、KIFMECは積極的に生体肝移植手術を実施した。健康な人を臓器提供者(ドナー)とし、肝臓が悪い患者に肝臓の一部を移植する手術だ。
 ところが、わずか半年足らずの2015年4月、専門医らをメンバーとする日本肝移植研究会から手術中止を求められる事態に立ち至った。
 この時点でKIFMECは、8人に移植手術をしたが、このうち4人(2人は子ども)が術後わずか1ヶ月程度で死亡した。
 日本肝移植研究会は、医療体制が十分でない、と調査報告書で警告し、3人の死亡患者は究明できた可能性がある、とも指摘した。
 KIFMEC側は、「最善の努力を尽くして診察を行ってきた」と反発。逆に調査の手法を批判した。
 専門医同士の対立が解けないまま、KIFMECは一時中断した生体肝移植手術を6月3日に再開し、翌々日に患者が死亡する、という経緯もあった。

 (3)一方、この過程でKIFMECの別の顔が浮かびあがった。
 KIFMECがインドネシアの病院で関わった生体肝移植でも3人が術後1ヶ月程度で死亡したことが判明。この手術は、「医療の海外展開」を掲げる経済産業省が支援する事業の一環だった。
 事業費5,900万円のうち3,300万円がすでに支払われていた。じつは、KIFMECの日本での手術後に死亡した患者4人(のちに5人)のうち2人がインドネシア人で、この経産省支援事業で来日した患者だった。【5月9日付け「読売新聞」夕刊】。

 (4)そもそもKIFMECが病院を開設する際、費用の4割を出資したのは三井物産だ。同社は、当初はシンガポールの三井物産関連の生体肝移植専門病院から患者を紹介する計画があった(実際には行われなかった)【「週刊朝日」6月12日号】。
 要するに、KIFMECの移植手術は「ビジネスとしての医療」を推進する国家と企業丸抱えの“事業”なのだ。

 (5)長らく手術中断を余儀なくされたKIFMECは、9月24日、田中理事長が会見し、今後も生体肝手術を継続する方針を明らかにした。
 もはや問題は田中医師個人の力量などではない。医療をビジネスとみなし、国際展開する医療政策そのものの正当性が問われている。

□佐々木実「国家戦略特区で起きた肝移植問題 正当性問われる“国策手術事業”」(「週刊金曜日」2015年10月9日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。