古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。
(1)本書で言及される「アブラハムの不安」は、注釈によればキェルケゴール『恐怖と戦慄』に出てくる考え。要するに、天使がアブラハムに自分の息子を犠牲に捧げよ、と命令するが、あれは確かに天使なのか、自分は確かにアブラハムなのか、何がそれを証明するのか、幻覚ではないか、と疑う不安のことだ。
<一つの声が私に語るとすれば、その声が天使の声であると決定するのは常に私である>
<それは、責任を負ったことのある人ならばみんな知っている単純な不安なのである>
(2)「アブラハムの不安」は、実存主義が(一見)過去のものとなった今日でも生きている。
メンタルヘルスの分野において特にそうだが、それはそれとして、情報化社会において、その情報の真偽は多くの場合根拠を確認できない。調査して(ある程度)確認できるが、決断を急ぐ緊急事態には、不確かな情報に基づいて決定的な行動を選択しなくてはならない。これも「アブラハムの不安」の一変種だ。
<不安はわれわれを行動から距てるカーテンではなく、行動そのものの一部なのである>
□ジャン=ポール・サルトル(伊吹武彦・訳)『実存主義とは何か』(人文書院、1955)
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【参考】
「【本】サルトル『悪魔と神』」