語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】自分の権限を確認せよ ~『武器を磨け』~

2018年02月03日 | ●佐藤優
 <取引先との値引き交渉や無理な納期を飲んでもらう交渉。あるいはクレーム対応など、面倒なこと、嫌なことを上司から押し付けられるのは、仕事の場においては避けられないことだ。
 こうした交渉を自分に有利に進めるためには、自分がどれだけの権限を持っているかが重要だ。こちらに権限がなければ相手から軽く見られるだけ。権限がない交渉事などは本来しなくてもいい仕事なので、他の人にやってもらうのが正解だ。もし、自分がやるのなら自分がどこまでやっていいのかを明示的に決めておく必要がある。
 そうはいっても面倒くさい仕事、無理難題が降ってくるのは組織人の常。それをまともに受けていては自分の身が持たない。うまくかわしていくには知恵を働かせることだ。
 筆者が外務省で働いていたとき、ロシアから要人を非公式に日本に招いたことがあった。エリツィン政権前期の国務長官を務めていたゲンナジー・ブルブリス氏である。
 ところが当時の外務省にはブルブリス氏に直接働きかけるルートがなかった。そこで私も動いて、ある人物S氏を介してもらったのだが、S氏を当時の細川護煕(もりひろ)総理との会談に同席させることに横やりがはいったのだ。S氏は、陸軍中野学校出身のロビイストで安全保障問題や沖縄返還問題などでも重要な役割を果たした重鎮。
 こういったときに嫌な役回りをさせられるのは下の人間である。私の後輩が当時の首席事務官から「S氏に、お前の判断で『今回の会談に出席しないでください』と言ってこい」と命じられ、困り果てた彼は私のところに「どうしたらいいでしょうか?」と相談に来たのである。そのような無理難題を聞く必要はない。私は後輩にこう言った。
 「簡単だよ。首席事務官から言われたと前置きしたあとで、君の判断だと言って以下のことを伝えるよう言われましたと全部S氏に話してこい。そして首席には『言われたとおり全部伝えました』と答えろ」
 S氏も海千山千の人物。明らかに言わされているのだな、とわかる。そうすれば矛先は後輩ではなく首席事務官に向くし、事実として何も嘘はないわけだ。このような知恵を働かせてうまくかわしていくことも立派なサバイバルである。
 一見「煙に巻いている」ように思われるかもしれないが、組織で生き延びるには、何でもかんでもまともに受け取らないことも必要。誰かがやらないと、と考えるのは権限を持った役職になってからでいい。それより下の立場はまず自分のことを考える。組織への妙な忠誠心は自分の身も滅ぼし、結果的に組織も混乱させる元だ。>

□佐藤優/原泰久・原作『武器を磨け 弱者の戦略教科書『キングダム』』 (SB新書、2018)の「第3章 掛け合う」の「欲しがっているものを与える」の「自分の権限を確認せよ」から一部を引用
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 【参考】
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