語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】2012年利益増の原因は円安でなく震災要因 ~円安のマイナス要因~

2013年02月17日 | ●野口悠紀雄
 (1)2012年12月期決算の利益が、対前年比で増加する企業が多い、と報道されている。
 安倍晋三政権の金融緩和政策によって円安が進み、これが輸出関連企業の業績を好転させている・・・・という説明は誤りだ。
 2012年の利益増加は、2011年において東日本大震災による輸出減とタイ洪水による工場浸水という特殊事情があったからだ。その証拠に、利益が増加するのは自動車関連企業が中心だ。2011年の特殊要因で最も大きな影響を受けたのがこの分野だからだ。

 (2)しかも、乗用車について、最近の円安による輸出増大効果は認められない。円安の始まった秋以降は、2012年前半に比べれば減少している。生産指数でみても、円安効果は見られない。

 (3)製造業全体では、東日本大震災やタイ洪水の影響はあまり高くなかった。輸出総額は、2011年から2012年にかけて増加しなかった。逆に、減少した。
 輸出減少が特に顕著なのは、一般機械だ。そのうち荷役機械とベアリングなどの減少が顕著だ。
 輸出減少に伴って、鉱工業全体の生産指数も低下している。
 つまり、製造業全体で見ると、輸出についても生産についても、2012年は2011年より低下している。よって、2012年の製造業全体の利益は、2011年に比べて減少する可能性が高い。

 (4)国別に見ると、輸出の減少が特に顕著なのは対中国輸出だ。建設用・鉱山用機械の2012年12月の輸出額は、2010年から2011年前半ごろに比べると、実に10分の1に落ちている。
 現在の輸出減少は、中国の景気刺激策の終了や、欧州の経済混乱といった特殊要因によって引き起こされているからだ。こうした要因によって引き起こされる輸出減は、円安による効果をはるかに凌駕している。

 (5)円安は、円建て輸入額を増大させる。
  (a)円安は輸入価格を上昇させるので、コストアップ要因になる。・・・・ガソリン価格への影響は、すでに生じている。これはいずれ電気料金に自動的に転嫁される。そして、製造業のコストを上昇させる。
  (b)貿易赤字の拡大は、マクロ的に見て総需要を減少させる。つまり、GDP成長率を引き下げる。 

 (6)円安は、日本経済にとってプラスではなく、マイナス要因に作用している。とりわけ、地方や中小企業の状況は厳しいものとなるだろう。
 仮に今後、さらに円安が進んでも、事態は改善されないだろう。なぜなら、現地通貨建ての価格は引き下げられないだろうから。となれば、輸出数量は増えない。よって、実質GDPを増大させる効果はない。
 また、国内生産が増えないから、下請けに対する注文が増大することもない。

□野口悠紀雄「12年利益増の原因は円安でなく震災要因 ~「超」整理日記No.648~」(「週刊ダイヤモンド」2013年2月23日号)
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