語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【レイテ戦記】鎮魂歌

2018年08月16日 | ●大岡昇平
 死んだ兵士の霊を慰めるためには、多分遺族の涙もウォー・レクエムも十分ではない。

   家畜のように死ぬ者のために、どんな弔いの鐘がある?
   大砲の化物じみた怒りだけだ。
   どもりのライフルの早口のお喋りだけが、
   おお急ぎでお祈りをとなえてくれるだろう。

 これは第一次世界大戦で戦死したイギリスの詩人オーウェンの詩「悲運に倒れた青年たちへの賛歌」の一節である。私はこれからレイテ島上の戦闘について、私が事実と判断したものを、出来るだけ詳しく書くつもりである。75ミリ野砲の砲声と38銃の響きを再現したいと思っている。それが戦って死んだ者の霊を慰める唯一のものだと思っている。それが私に出来る唯一のことだからである。

□大岡昇平『レイテ戦記(1)』(中公文庫、2018)の「5 陸軍」から一部引用

 


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