語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~

2014年03月17日 | ●佐藤優
 (1)ウクライナ情勢が緊迫している。
  (a)ロシアは、自国民保護を口実に今後、ウクライナ情勢が悪化すれば軍事介入を行う意向を表明した。既にクリミア自治共和国には「自警団」という形でロシア軍が介入している。
  (b)米国とEUは、ロシアの姿勢に反発を強め、対露制裁を導入した。
    ①3月6日、オバマ米大統領は、露政府関係者らへのビザ発給制限、ウクライナの平和を脅かす個人や機関の米国内の資産凍結を表明した。
    ②同日、EU首脳会議(於ブラッセル、ベルギー)の結果EUは、露政府とのビザなし渡航交渉中断や資産凍結を表明した。さらに、ロシアが譲歩しない場合、EUは、EU・ロシア首脳会議の中止、具体的品目を定めて禁輸措置を取るなど広範囲な制裁を検討する意向を表明した。

 (2)米国・EU対ロシアの緊張がかつてなく高まっている。
 今般の事態を新冷戦と見ると事柄の本質を捉え損ねる。冷戦はイデオロギー対立(共産主義vs.反共主義)によって起きた。今般、米国、EU、ロシアはいずれも資本主義国で、民主的手続きによって政治指導者が選ばれる体制になっている。今回の米国・EU対ロシアの対立は、ウクライナへの影響圏をめぐる帝国主義的抗争だ。
  (a)ウクライナのヤヌコビッチ前政権・・・・ロシアの傀儡
  (b)火焔瓶と銃によって権力を奪取した現政権・・・・新欧米の民主主義政権
と見なすと、事柄の本質を見失う。ヤヌコビッチが、不正蓄財を行い、権力を濫用して国民を弾圧したことは間違いない。しかし、同人が親露派であった、というわけではない。同人はEUとロシアを天秤にかけて、自己の利権の極大化を図っていたにすぎない。
 2月23日、ウクライナ議会はヤヌコビッチ大統領を解任し、トゥルチノフ議会議長を大統領代行に指名した。同人は反ヤヌコビッチ派政党「祖国」に属するが、カリスマ性を持たない。
 この前日22日、「祖国」に属するティモシェンコ前大統領が刑務所から釈放され、車いす姿で集会に参加し、前倒し選挙に出馬する意向を表明した。
 欧米のマスメディアは、ティモシェンコがウクライナの親欧米的な民主派を代表するがごとくに報じた。彼女はしかし、国民の支持を得ずに政治舞台から消えた人だ。
   ①ティモシェンコがヤヌコビッチの政敵で、それ故に法規を特に厳格に適用され、投獄されたことは間違いない。
   ②同時に、彼女が公権力を利用して不正蓄財に手を染めたことも間違いない。
   ③また、ユチシェンコ大統領の下で首相を務めたときの彼女は、大統領が親欧米的路線をとったのに対抗し、親露路線を鮮明にした(彼女に明確な政治哲学はない)。

□佐藤優「ウクライナ緊迫でロシアが危惧する軍産技術の米流出 ~佐藤優の飛耳長目 93~」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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 【参考】
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~
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