(1)名護市長選挙(1月19日)では、米海兵隊普天間飛行場の同市辺野古への移設阻止を掲げた現職が再選された。
(a)無所属の稲嶺進(68歳、社民・共産・沖縄社会大衆党(革新系地域政党)・生活推薦)が、
(b)辺野古への海兵隊吉建設による経済活性化を公約に掲げた末松文信・前沖縄県議会議員との一騎打ちを
4,155票差で制した。
(2)首相官邸や防衛省は、仲井眞弘多・沖縄県知事が辺野古沿岸の埋め立てを承認したので、移設工事を淡々と進めていく、という見解を繰り返し表明しているが、内心では事態をそう楽観視していない。
稲嶺市長は、市長権限を最大限に行使して辺野古移設計画を阻止する、と表明しているので、移設計画の実現は著しく困難になった。
(3)稲嶺圧勝の要因は2つ。
(a)仲井眞県政与党である公明党沖縄県本部が米海兵隊普天間飛行場の県外移設を断固支持するという立場から、末松を支持せず、自主投票を貫いたからだ。公明党の支持母体=創価学会も、自民党からの働きかけを拒否し、末松候補に投票せよ、という指示をしなかった。
(b)沖縄を選挙基盤とする国会議員の一部と自民党沖縄県連の相当部分が消極的に抵抗したからだ。自民党沖縄県連の普天間問題に関する方針は、「辺野古を含むあらゆる可能性を排除しない」ということだ。「あらゆる可能性」の中には、沖縄県外も含まれる。
県外移設を依然、堅持している自民党国会議員(<例>國場幸之助・衆議院議員)がいることの意味を過小評価してはならない。自民党沖縄県連は、辺野古移設をめぐって事実上、分裂状態にある。
現在は無所属だが、沖縄自民党の重鎮で、保守、革新を超えて強い求心力を持つ翁長雄志・那覇市長は、一貫して辺野古反対を表明し、首相官邸、自民党本部からの圧力を跳ね返す姿勢を示している。
(4)むろん、今後、中央政府が仲井眞知事に圧力をかけて、機動隊を導入し、力によって辺野古移設を強行するシナリオも想定される。
沖縄県警の機動隊員の大多数は沖縄人青年だ。
辺野古埋め立てを阻止するピケを張る圧倒的多数は沖縄人だ。その中には80代、90代の沖縄戦経験者も含まれる。
機動隊が抗議行動をする人々を力で排除するようなことになれば、流血の事態に至る。死者が発生する事態さえ排除されない。
機動隊導入を決定した瞬間に、仲井眞知事は完全に指導力を失う。
沖縄県庁や沖縄県警で、不服従運動が展開される可能性さえ排除されない。
それにもかかわらず、首相官邸と自民党本部に、ピケを張るのは本土からの「外人部隊」であって、地元の人々はほとんどないので、機動隊を導入しても沖縄人は抵抗しない、という間違った情報が入っているようだ。
(5)沖縄戦で、日本軍に脅かされ、あるいは日本に過剰同化し、「スパイ狩り」の名目で同胞殺しをしてしまったことが沖縄人共同体の深い心の傷になっている。
「われわれは二度と同胞殺しをしない」というのが、沖縄人の共通認識になっている。
不正確な情報に基づいて首相官邸や自民党本部が誤った判断をすると、沖縄における日本からの分離気運が拡大する。沖縄で生じている事態が、国際基準で観た場合、民族問題であることを日本人は等身大で理解すべきだ。
(6)名護市長選挙の結果について、朝日新聞社が1月25~26日、電話で全国世論調査を行った。
<沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場を同県名護市辺野古に移設することの賛否を尋ねたところ、「賛成」は36%、「反対」は34%と拮抗した。昨年12月中旬に行った沖縄県民調査(同)で「賛成」は22%で、「反対」は3倍の66%にのぼったのと比べると、全国と沖縄の意識の差が際立った>【注】
<19日に投開票された名護市長選では辺野古移設に反対する現職が再選したが、安倍政権は移設を進める方針を変えていない。こうした政権の姿勢について全国調査で聞いたところ、「評価する」は33%で、「評価しない」の46%の方が多かった。移設に「賛成」する層でも21%が「評価しない」と答えた>【注】
<一方、沖縄の米軍基地が減らないのは、本土による沖縄への差別だという意見がある。全国調査では、こうした意見について「その通りだと思う」と答えたのは26%にとどまり、「そうは思わない」は59%にのぼった。年代が若いほど「そうは思わない」が多く、20~30代では7割を超えた。これに対し、沖縄県民調査では「その通りだ」は49%で、「そうは思わない」の44%の方が少なかった>【注】
(7)この数字が、構造的沖縄差別を端的に物語っている。差別が構造化している場合、差別する側が自らを差別者として認識していない、というのが常態だ。よって、全国調査で59%が差別ではない、と回答していることは意外ではない。
それに対して、沖縄差別でない、と答えている人が44%もいるというのは、高すぎる数値だ。差別されている、という現状を認めると、惨めな思いをするとか、この問題に焦点をあてることで、より差別が強まることを懸念して「そうは思わない」と回答する人がいるからだ。
このあたりの心情が、朝日新聞には読み解けていないようだ。
谷津憲郎・朝日新聞那覇総局長は、<政府・自民党は、辺野古容認に党県連を転じさせ>(1月28日付け朝日新聞デジタル)と述べているが、この認識は間違いだ。構造的弱者が面従腹背の戦いを展開していることが、谷津局長には見えていない。だから、「辺野古への移設計画がついえたとは、残念ながら私には思えない」と沖縄の底力を過小評価した見解を朝日新聞の読者に伝えるのだ。
【注】記事「辺野古移設、賛否は二分 沖縄と意識の差 朝日新聞社全国世論調査」(朝日新聞デジタル 2014年1月28日05時00分)
□佐藤優「流血恐れず辺野古強行と話す沖縄選出国会議員 ~佐藤優の飛耳長目 92~」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
↓クリック、プリーズ。↓
(a)無所属の稲嶺進(68歳、社民・共産・沖縄社会大衆党(革新系地域政党)・生活推薦)が、
(b)辺野古への海兵隊吉建設による経済活性化を公約に掲げた末松文信・前沖縄県議会議員との一騎打ちを
4,155票差で制した。
(2)首相官邸や防衛省は、仲井眞弘多・沖縄県知事が辺野古沿岸の埋め立てを承認したので、移設工事を淡々と進めていく、という見解を繰り返し表明しているが、内心では事態をそう楽観視していない。
稲嶺市長は、市長権限を最大限に行使して辺野古移設計画を阻止する、と表明しているので、移設計画の実現は著しく困難になった。
(3)稲嶺圧勝の要因は2つ。
(a)仲井眞県政与党である公明党沖縄県本部が米海兵隊普天間飛行場の県外移設を断固支持するという立場から、末松を支持せず、自主投票を貫いたからだ。公明党の支持母体=創価学会も、自民党からの働きかけを拒否し、末松候補に投票せよ、という指示をしなかった。
(b)沖縄を選挙基盤とする国会議員の一部と自民党沖縄県連の相当部分が消極的に抵抗したからだ。自民党沖縄県連の普天間問題に関する方針は、「辺野古を含むあらゆる可能性を排除しない」ということだ。「あらゆる可能性」の中には、沖縄県外も含まれる。
県外移設を依然、堅持している自民党国会議員(<例>國場幸之助・衆議院議員)がいることの意味を過小評価してはならない。自民党沖縄県連は、辺野古移設をめぐって事実上、分裂状態にある。
現在は無所属だが、沖縄自民党の重鎮で、保守、革新を超えて強い求心力を持つ翁長雄志・那覇市長は、一貫して辺野古反対を表明し、首相官邸、自民党本部からの圧力を跳ね返す姿勢を示している。
(4)むろん、今後、中央政府が仲井眞知事に圧力をかけて、機動隊を導入し、力によって辺野古移設を強行するシナリオも想定される。
沖縄県警の機動隊員の大多数は沖縄人青年だ。
辺野古埋め立てを阻止するピケを張る圧倒的多数は沖縄人だ。その中には80代、90代の沖縄戦経験者も含まれる。
機動隊が抗議行動をする人々を力で排除するようなことになれば、流血の事態に至る。死者が発生する事態さえ排除されない。
機動隊導入を決定した瞬間に、仲井眞知事は完全に指導力を失う。
沖縄県庁や沖縄県警で、不服従運動が展開される可能性さえ排除されない。
それにもかかわらず、首相官邸と自民党本部に、ピケを張るのは本土からの「外人部隊」であって、地元の人々はほとんどないので、機動隊を導入しても沖縄人は抵抗しない、という間違った情報が入っているようだ。
(5)沖縄戦で、日本軍に脅かされ、あるいは日本に過剰同化し、「スパイ狩り」の名目で同胞殺しをしてしまったことが沖縄人共同体の深い心の傷になっている。
「われわれは二度と同胞殺しをしない」というのが、沖縄人の共通認識になっている。
不正確な情報に基づいて首相官邸や自民党本部が誤った判断をすると、沖縄における日本からの分離気運が拡大する。沖縄で生じている事態が、国際基準で観た場合、民族問題であることを日本人は等身大で理解すべきだ。
(6)名護市長選挙の結果について、朝日新聞社が1月25~26日、電話で全国世論調査を行った。
<沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場を同県名護市辺野古に移設することの賛否を尋ねたところ、「賛成」は36%、「反対」は34%と拮抗した。昨年12月中旬に行った沖縄県民調査(同)で「賛成」は22%で、「反対」は3倍の66%にのぼったのと比べると、全国と沖縄の意識の差が際立った>【注】
<19日に投開票された名護市長選では辺野古移設に反対する現職が再選したが、安倍政権は移設を進める方針を変えていない。こうした政権の姿勢について全国調査で聞いたところ、「評価する」は33%で、「評価しない」の46%の方が多かった。移設に「賛成」する層でも21%が「評価しない」と答えた>【注】
<一方、沖縄の米軍基地が減らないのは、本土による沖縄への差別だという意見がある。全国調査では、こうした意見について「その通りだと思う」と答えたのは26%にとどまり、「そうは思わない」は59%にのぼった。年代が若いほど「そうは思わない」が多く、20~30代では7割を超えた。これに対し、沖縄県民調査では「その通りだ」は49%で、「そうは思わない」の44%の方が少なかった>【注】
(7)この数字が、構造的沖縄差別を端的に物語っている。差別が構造化している場合、差別する側が自らを差別者として認識していない、というのが常態だ。よって、全国調査で59%が差別ではない、と回答していることは意外ではない。
それに対して、沖縄差別でない、と答えている人が44%もいるというのは、高すぎる数値だ。差別されている、という現状を認めると、惨めな思いをするとか、この問題に焦点をあてることで、より差別が強まることを懸念して「そうは思わない」と回答する人がいるからだ。
このあたりの心情が、朝日新聞には読み解けていないようだ。
谷津憲郎・朝日新聞那覇総局長は、<政府・自民党は、辺野古容認に党県連を転じさせ>(1月28日付け朝日新聞デジタル)と述べているが、この認識は間違いだ。構造的弱者が面従腹背の戦いを展開していることが、谷津局長には見えていない。だから、「辺野古への移設計画がついえたとは、残念ながら私には思えない」と沖縄の底力を過小評価した見解を朝日新聞の読者に伝えるのだ。
【注】記事「辺野古移設、賛否は二分 沖縄と意識の差 朝日新聞社全国世論調査」(朝日新聞デジタル 2014年1月28日05時00分)
□佐藤優「流血恐れず辺野古強行と話す沖縄選出国会議員 ~佐藤優の飛耳長目 92~」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
↓クリック、プリーズ。↓