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語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】増税も嫌、円高も嫌、ということなら消費者が復興の費用を負担することになる

2011年04月04日 | ●野口悠紀雄
(1)震災による変化 ~経済~
 国内生産(GDP)+輸入=国内支出(=投資+消費)+輸出
 経済全体として、需要と供給は等しくならなければならない。この式の左辺と右辺は、事後的には必ず等しくならなければならない。
 今回の大震災によって、この式を構成する項目に大きな変化が生じた(今後生じる)。
 (a)投資が増える。災害で失われた資産を復旧するためのものだ。社会インフラや住宅の復旧は迅速に行う必要があるので、損害額(推定20兆円)のかなりの部分に対応する投資を、今後1、2年のうちに行う必要がある。そうだとすると、災害のなかった場合に比べて投資が10兆円程度増加する可能性がある。民間住宅投資、民間企業設備投資、公的資本形成の合計額98兆円(2009年度)の10.2%だ。かなり大きな変化だ。
 (b)災害によって生産設備が損傷したため、国内生産が減少する。もっとも深刻なボトルネックは、電力供給能力の大幅な低下だ。

(2)復興財源は増税で
 (1)の左辺と右辺で変化が生じたことに伴い、利子率や為替レートが変化し、さまざまな項目に影響を与えて最終的な均衡が決まる。この過程に対して政策的な介入が行われると、そうでなかった場合に比べて最終的な均衡のかたちが異なるものとなる。
 (a)格別の政策がとられない場合・・・・国内投資の増大は、クラウディングアウトを引き起こす。→利子率上昇。→海外から資金が流入(海外への資金流出が減少)。→純輸出(輸出-輸入)が減少。
 つまり、①GDPを変化させずに、需要項目を輸出から投資に入れ替える変化だ。②国内投資の増加に対して供給(海外生産=輸入)を増やす変化だ。
 (b)実際には円高を嫌う政治的バイアスがあるので、円高阻止のための政策がとられる。実際、すでに3月18日に介入が行われた。しかし、円ドルレートは、介入後も震災前より円高になっている。マクロ的バランスを達成するために円高は不可避なのだ。にもかかわらず、今後も円高阻止の政策が取られるだろう。→金融緩和。→純輸出の減少が介入のない場合より圧縮される。
 しかし、それでは経済全体の受給が均衡しない。純輸出が減らない分、国内支出が減少する必要がある。利子率がさらに上昇して国内の復興が阻害されるか、金融緩和に伴うインフレによって消費支出が減少する。
 増税によって消費支出を減少させれば、この変化は相殺される(復興予算の財源を考えるポイント)。国債を増発すれば問題が深刻化する。
 なお、対外資産の取り崩しや国債の海外消化も、海外からの資金流入をもたらし、円高を引き起こす。

(3)換言すれば
 国内生産(GDP)=投資+消費+純輸出
 左辺のGDPが電力制約などのボトルネックによって減少するので、右辺が減少しなければならない。どの項目が減少するかは、政策いかんによって異なる。経済の自然な動きは純輸出減少だが、円高阻止政策が行われると、それが実現しない。円高阻止政策が行われると、それが行われない場合に比べて、復興投資と消費の資源の奪い合いが激しくなるのだ。
 円高を阻止せず、増税によって消費を抑制すれば、それだけ復興投資が促進される。
 復興財源として国債が用いられると、上記の歪みは大きくなる。→インフレ→消費が強制的に抑制される(インフレというかたちで明示的な増税よりも不公平な税が降りかかってくる)。
 震災が経済に与えた影響は、①ボトルネックのため国内生産が減少する。②それにもかかわらず復興のために投資を増大しなければならない。
 その負担を誰がどのように負うべきか。その判断が、最終的な資源配分のパターンを決める。

【参考】野口悠紀雄「増税も円高も拒否なら消費者が負担を負う ~「超」整理日記No.556~」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月9日号)
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【震災】統制経済の復活を許してはならない+「役所より役所的」な日本の電力会社

2011年04月02日 | ●野口悠紀雄
 業界ごとの「節電の自主行動計画」や「輪番休止」(交代休業)は、一見、計画停電方式の不都合を取り除き、秩序だった電力節約を実現するための望ましい方式であるように見える。しかし、ここには、経済運営の基幹に関わる重大な問題が隠されている。

(1)現代の複雑な経済で輪番休止は不可能
 現代の複雑な経済では、輪番休止の実施は、きわめて困難だ。強行すれば、経済活動に大きな混乱が生じる。
 現代の経済活動は、個々の活動が孤立して並列しているのではなく、さまざまな活動が複雑に絡み合い、相互依存しながら成立しているのだ。それらは、単に連関しているだけでなく、「同時に」操業していなければならない。事業所ごとに時間を区切って操業することなど、不可能に近い。
 もし「輪番休止制」が強行されれば、各事業所は、自分より「上流」(アップストリーム)にある産業活動の操業状態を事前に正確に把握しなければならない。しかし、それはきわめて困難だ。
 しかも、あらかじめ決めた休業のスケジュールどおりに事態が進展する保証もない。<例>工場で部品が故障→部品生産工場が休業中のため交換不可→生産がストップ→その工場の製品を必要とする事業所の生産も大きな影響を被る。
 かくして、日本経済は大混乱に陥り、麻痺してしまう。
 同時性を期待できなければ、個別の事業所がバッファーとして大量の在庫を抱えていなければならない。効率は著しく低下する。商品によっては長期間の在庫保有が不可能なものもある(生鮮食料など)。同様の事態は、ほとんどの経済活動において生じる。

(2)重要度の恣意的判定こそ統制権力の源
 (a)きわめて重要で、常時供給されていなければならない財やサービスは、「輪番休止」からは除外せざるをえない。<例>消防、警察、ごみ処理などの公共サービス、鉄道などの公共交通機関など。
 (b)技術的理由から除外されるものもある。<例>製鉄所の高炉を止めてしまうと、生産再開に非常に時間がかかる。一貫製鉄所は「輪番休止」からは除外されるだろう。
 (c)(a)や(b)を支える活動も除外しなければならない。
 (d)境界的な分野で「重要性の線引き」を行なうのは、実際には非常に微妙だ。価格メカニズムが用いられる経済では、重要性の判断は個々の経済主体が行なう。しかし、統制経済では、重要性の判断は統制当局が行なう。そして、恣意的な部分や境界領域があるので、裁量の余地が大きい。したがって、統制官庁に権力が集中することになる。
 こうした判断の恣意性は、きわめて重大な問題を引き起こす。<例>新聞用紙は重要、週刊誌用紙は不要不急、といった判断がなされると、強力無比な言論統制が可能となる。
 この問題は、計画停電ですでに生じている。一部の医療機関は、すでに例外扱いされているようだ。しかし、例外と決めるのは、統制官庁だ。そして、除外と認めてもらうには、陳情が必要だ。
「自主的計画」というが、これほど欺瞞に満ちた言葉はない。各団体の自主計画が、中央官庁の「調整」なしにそのまま認められることなど、絶対にないはずだ。

(3)「1940年体制」の亡霊が復活した
 「1940年体制」の中核の一つは、統制経済だ。いま一つが電力国有化だ。
 戦前の日本では、多数の民間企業によって電気事業が運営されていた。しかし、1939年、各地の電力会社を統合して国策会社「日本発送電」が設立され、自由な電力産業は消滅した。さらに、既存の電力会社を解散させて9つの配電会社が作られ、これが戦後の9電力体制の原点になった。「役所より役所的」な日本の電力会社は、このように設立された。
 戦後、1950年代前半までは、通産省による外貨割り当てが行なわれ、これが企業に対して強い影響力を持った(特に鉄鋼や石油化学など)。これらの企業の人々が割り当てを獲得するために並んだ通産省の廊下は、「虎ノ門銀座」と呼ばれた。電力制約は、原子力発電の新設が難しくなったため、長期にわたる。電力割り当てが恒常化すれば、21世紀の日本に「虎ノ門銀座」が復活するだろう。
 戦時経済統制のために作られた「統制会」は、戦後、業界団体となった。統制会の上部機構「重要産業協議会」が、戦後の「経済団体連合会」になった。だから、業界団体や経団連は、商工省を中核とする統制経済体制の一部だ。
 「総力をあげて」「官民一体となって」「国家存亡の危機を乗り切る」といった言葉が、いま日本の新聞に、ゾンビのごとく復活している。これこそ40年体制の基本思想なのだ。被災地の救援や原発事故に対処するために、官民一体となり、総力を挙げて国難に当たるのは当然のことだ。しかし、それをその後の経済運営に延長しようというのは、危険な思想だ。統制割り当て経済が続けば、日本の産業構造は、これまでのまま継続する。そして、電力コストの上昇によって疲弊してゆくだろう。
 いま本当に必要なことは、価格メカニズムを働かせて、日本の産業構造を省電力型のものに変えてゆくことだ。いま、われわれが選択する方向は、日本経済の重大なターニングポイントを決める。

【参考】野口悠紀雄「統制経済の復活を許してはならない ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第6回】2011年4月1日~」(DIAMOND online)
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【震災】厳しい供給制約に直面する日本

2011年04月01日 | ●野口悠紀雄
 以下は、被害地救済や原発事故対処が一段落した後の中長期的な観点から日本経済を論じる。

 復興のため、投資が必要になる。まず公共主体による社会資本施設の再建が必要だ。起業は工場などの生産設備の復旧を進める。加えて、一般家計による住宅投資が必要だ。総額はどの程度か。
 被災者の総数は、総人口の1%に達した可能性がある。日本の実物資産総額2,536兆円(2007年末の数字)の1%を喪失したとすれば、25兆円だ。
 投資額は、どの程度の期間をかけて復興を行うかによる。完全な復旧はさておき、主要な投資は早急に行われなければならない。今後1~2年の年間投資額は10兆円程度となる可能性がある。総固定資本形成112兆円(08年度)のおよそ1割だ。年間投資額が1割増えるわけだ。
 供給力が十分あるにもかかわらず需要が不足している経済では、総生産が拡大する。経済危機後の日本は、こうした状態にあった。エコポイントなどの需要喚起策が効果を発揮したのは、このためだ。
 復興投資は、同じ効果をあげない。震災後の日本では、供給能力に深刻なボトルネックが生じているからだ。電力をみれば明らかだ。これだけ見ても、需要の増大に応じて自動的に生産が拡大することはない。
 通常の財なら、輸入によって国内生産の減少を補うことができる。しかし、電力は輸入できない。西日本から東日本へ電力を融通することさえできない。かくて、東日本ではすでに深刻な電力不足に陥っている。電力不足は、長期的に継続する可能性がある。
 供給不足は、東京電力と東北電力で生じている。したがって、生産活動を西日本にシフトさせることで、需給のバランスはある程度は緩和される。しかし、かかる再編成を短期間のうちに実現するのは困難だ。
 原子力発電一般に地する社会的反応が強まると、新規建設はおろか、現在稼働中の原発も止めざるをえない。原発はすでに日本の発電総量の約3割を占め、19年までに4割超にまで高めることが計画されていた。今後に計画されている原発比率の上昇が実現できないだけで、日本の発電総量は1割程度不足してしまう。
 電力制約による生産減少を前提として、経済全体の需給をバランスさせるためには、総需要が減少しなければならない。さもなくばインフレが発生して、強制的に需要が削減されることになる。

 以上、マクロ的資源配分を物財の需給バランスの観点から見たが、同じことを資金循環の観点から見ると次のようになる。
 これまで民間資金需要が低迷してきたから国債が順調に消化されてきた。この状態は、今後は続かない。復旧のための投資資金需要が増大するからだ。つまり、クラウディングアウトが発生する。金利上昇の可能性が高い。
 円高の効果の一つは、輸入を増加させることだ。一般的な財については、これによってマクロ的な需給バランスが緩和されるので望ましい。しかし、電力は輸入できないので、電力制約が緩和されることはない。
 円高は、日本機御野海外移転をさらに促進させる。需給バランス緩和の観点からは望ましい変化だが、国内の雇用は減少し、これまで円高による利益減少に悩んできた日本の輸出産業はさらに困難な事態に陥る。だから、円高への抵抗が強まるだろう。
 円高回避のためにはクラウディングアウトを回避する必要があり、そのためには国債以外の手段による財源調達が必要だ。
 第一、マニフェスト関連経費の削減。
 第二、増税。最大のボトルネックである電力需要を抑制するような増税が望ましい。「計画停電」より、電力料金引き上げ、または課税による需要総量を減らすほうが望ましい。
 ただし、電力10社の電灯料、電力料の合計は15兆円(09年)なので、電力課税だけで必要な財源を調達することはできない。消費税、所得税などの基幹税の増税がどうしても必要だ。
 
【参考】野口悠紀雄「厳しい供給制約に直面する日本 ~ニッポンの選択第58回~」(「週刊東洋経済」2011年4月2日号)
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【震災】計画停電を回避できる料金引き上げの目安は3.5倍

2011年03月30日 | ●野口悠紀雄
(1)料金体系の見直しは必至
 少なくとも東京電力、東北電力の管内では、必然的に電力利用のコストが何らかの形で上がる。問題は、どのような形で利用コスト上昇を実現するか、だ。
 明示的な料金引き上げを行わなければ、一定時間帯使えない(ことによって発生するさまざまな不都合)・・・・という形でコストを負う。そのコストは、明示的な料金引き上げに比べて、確実に高い。必要度の高い用途も一律にカットしてしまうからだ。そして、不公平(計画停電では地域別の不公平)な形で負担がかかる。
 したがって、料金体系の見直しが必要なことは、ほぼ自明だ。検討するべきは、どのような形の見直しを行なうか、だ。

(2)需要弾力性による結論
 東京電力の発表(3月25日)によれば、夏には4,650万KW程度供給力できるし、今夏の最大需要は5,500万KW程度だ。
 しかし、この需要予測は楽観的だ。安全をとって最大需要を6,000万KWとすると、必要な削減率は22.5%となる。以下では、計算の簡単化のため25%とする。価格をどの程度引き上げれば、これが実現できるか。
 「需要の価格弾力性(または弾性値)」は、価格を1%引き上げた時に需要が何%変化するかを示す指標だ。電力については、これまで「価格弾力性は-0.1程度」と仮定して議論されることが多かった。電力は必需財なので価格を引き上げても需要はあまり変化しない・・・・とされる根拠がこれだ。
 しかし、弾力性の絶対値が小さい値であっても、価格を十分に引き上げれば需要は減る。価格弾力性が-0.1でも、価格を250%引き上げれば(価格を現在の3.5倍にすれば)、需要を25%削減することができる。
 なお、ここでは、ピーク時需要抑制の観点から基本料金の引き上げを考えている。他方、価格弾力性が議論される場合の価格とは、電力使用の単価のことだ。これらは、厳密に言えば別のものだ。

(3)企業の基本料金を3.5倍に
 企業の場合、すべての企業について基本料金における料金単価を一律に値上げすべきだ。「価格弾力性-0.1」を仮定すれば、需要を25%削減するには、基本料金の単価を250%引き上げればよい(つまり、現在の3.5倍にする)。
 ただし、企業の場合は、もう少しきめの細かい対応が必要だ。必要なのは夏の昼間なので、この時間帯の基本料金だけを高くしてもよい。工場操業の夜間へのシフトを促すには、夜間料金を現在よりも安くしてもよい。ただし、いずれにしても重要なのは、ペナルティを十分高くして契約電力を強制することだ。
 以上は、価格弾力性について一般に用いられている数字を用いたごく粗い検討にすぎない。実際にはもっと詳しい調査が必要だ。アンケート調査等によって補完することが必要だ。
 また、需要弾力性について不確実性が残るから、計画停電方式をバックアップとして準備しておかねばならない。均衡価格は、本来は試行錯誤によって決めるべきものなのだ。
 価格弾力性は、需要量を従属変数にしているから、実現するのは総需要の減少だ。ただし、全体が低まればピークも低まる。また、家計の場合は、夏のピークは、昼のかなり長い時間帯続くので、ピーク抑制にも寄与するだろう。

(4)電気代上昇が家計に与える影響
 2010年家計調査によると、消費支出3,027,938円のうち、電気代は101,048円だ。消費支出中の比率は3.3%だ。無視できる金額ではないが、教養娯楽費358,923円や交際費163,117円に比べて、かなり少ない。電気代上昇は、家計に大きな影響を及ぼすのは間違いない。しかし、教養娯楽費や交際費を抑制すれば調整できない額ではない。
 ただし、企業の生産コストは上昇する。それが製品価格に転嫁されれば、間接的な影響を受ける。
 企業の場合、電気代が上昇すれば、原価が上がる。電気はどのような経済活動にも必要なものなので、特定の原料価格が上がった場合に比べれば、製品価格への転嫁はしやすいだろう。しかし、100%転嫁できる保証はない。転嫁が不完全にしか行なえなければ、企業の利益は減少する。
 ただし、昼夜の料金に差をつければ、操業が夜にシフトするので、製品価格への影響は緩和されるだろう。西日本や海外への生産シフトによっても、影響を緩和できるだろう。逆に言えば、こうした措置によって西日本や海外へのシフトが促進されるわけだ。

(5)スマートグリッド・太陽光発電・電気自動車
 スマートグリッド(次世代送電網)やスマートメーター(次世代電力計)への移行促進は、長期的な観点からは確かに重要だ。しかし、設置に時間がかかり、今年の夏にはとても間に合わない。それに、料金を引き上げなければ、スマートグリッドを実現しても利用抑制への圧力は働かない。
 再生可能エネルギー、とくに太陽光発電も長期的には重要なのだが、総量はとても足りない。また、設置に時間がかかる。ガス冷房は設置コストがかなり高い。
 今回の事態が電気自動車にどう影響するかは、不明だ。電気料金の引き上げが行なわれるなら、東日本では利用コストが上昇する。しかし、原油価格も上昇しているから、差引でどうなるかはわからない。西日本では、今回の災害とは無関係に電気自動車やハイブリッドカーの有利性が高まっている。

【参考】野口悠紀雄「計画停電を回避できる料金引き上げの目安は、3.5倍 ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第5回】2011年3月29日~」(DIAMOND online)
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【震災】東日本から全日本へ広がる電力不足、その対処法

2011年03月27日 | ●野口悠紀雄
(1)東日本の深刻な電力不足
 3月12~14日、東電の供給能力は3,100万~3,700万KW【注1】で、ピーク時(18~19時)想定需要量3,700万~4,100万KW【注2】を下回るか、ぎりぎりの水準だ。4月末までに4,200万KWまで向上する見こみ【注3】だが、この水準が続くかぎり、今夏のピーク需要6,000万KW【注4】の7割弱しか供給できない。福島第一原発(発電量470万KW)が廃炉となることを前提とすると、電力不足は長期にわたる。、
 そこで、野口悠紀雄は「ダイヤモンド・オンライン」で電気料金見直しを提言した【注5】。しかし、これで対処できるのは家庭用電力だけだ。販売電力量合計8,585億KWのうち、家庭用は2,850億KWにすぎない(09年度)。量的に重要な意味をもつのは、企業等によって経済活動のために使われているものだ。これを抑制するために、大口需要の料金体系見直しは不可欠だ。

(2)中部・関西が電力不足となる可能性
 仮に大口需要を抑制できたとしても、それは生産拡大に対するボトルネックになる。経済活動にも国民生活にも大きな影響が及ぶ。
 西日本や北海道の電力を東北・関東地方に融通するのは、容易ではないし、融通しても限度がある。
 こうした事情を考えると、電力を融通するよりは、生産活動が東から西へ移転するほうが現実的だ。西で生産したものを東に回すのだ。ただし、量的に調整可能か、定かではない。なぜなら、東北・関東地方での電力需要は、日本全体の中できわめて大きな比重を占めているからだ。
 09年度の数字をみると、大口電力販売量は、東北電力と東京電力を合わせて1,037億KW時で、全国(2,609億KW時)の40%だ。そのうち製造業が77%(799億KW時)を占める。他方、中部電力と関西電力の大口電力販売量合計は895億KW時だ。だから、仮に東北・関東地方の製造業の大口需要の3分の1(266億KW時)が中部・関西地方に移動したら、中部・関西の需要は3割も増加してしまうことになり、深刻な電力不足が生じてしまう。

(3)長期的な問題 ~原子力~
 原発は、すでに日本の発電総量の約3割を占めている。19年にはこれを4割超にまで高めることが計画されていた。しかし、今後の原子力政策の見直しは必至だし、新規建設ができなくなる事態は大いにありうる。となると、日本の総発電量は、計画に比べて1割程度不足する。日本経済は深刻な打撃を受ける。さらに、現在稼働中の原発が停止に追いこまれると、日本経済は壊滅的な打撃を受けてしまう。
 今後予想される長期的な電力不足は、東北・関東地方に限定された問題ではなく、日本全体の問題なのだ(世界全体の問題ともなりうる)。
 電力はどんな経済活動にも必要なので、深刻なボトルネックになる。しかも、それが長期的に続く。仮に量的に解決されても、電力コストは必然的に高まる。原油価格の上昇もあいまって、コスト高はいっそう深刻な問題になる。風力・太陽光発電など再生可能エネルギーは、規模の点で原子力に代替できない。

(4)対処法 ~省電力型産業構造への転換~
 製造業は、東北電力・東京電力(1,037億KW時)の大口電力需要の77%(799億KW時)、全国(2,609億KW時)のそれの81%(2,123億KW時)を占める。これは販売電力量合計8,585億KW時の25%だ。 
 「製造業の電力需要がかくも大きい産業構造は、日本では維持できなくなったのだ。製造業の比率を下げ、サービス産業にシフトするしか方法はない」
 経済全体に占める製造業の比率が米国なみ(現在の半分近く)に低下すれば、電力に対する需要総量は1割以上減少する。日本の電力問題は解決される。
 それができないならば、原子力発電所の建設を今後も進め、原子力の比率を引き上げていくしかない。
 二者択一だ。

 【注1】東京電力のプレスリリースをもとにした数字。なお、東電の25日発表によれば5,500万KW(3月26日付け朝日新聞)。
 【注2】同上。なお、東電の25日発表によれば4,650万KW、よって需要の2割が不足する(3月26日付け朝日新聞)。 
 【注3】3月20日付け「日本経済新聞」をもとにした数字。
 【注4】3月26日付け「週刊ダイヤモンド」をもとにした数字。
 【注5】要旨は、「緊急提言1」、「緊急提言2」、「今夏の電力不足に基本料金見直しの必要性は大」。

 以上、野口悠紀雄「深刻な電力不足が経済活動を制約する ~「超」整理日記No.555~」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月2日号)に拠る。
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【震災】今夏の電力不足に基本料金見直しの必要性は大

2011年03月24日 | ●野口悠紀雄
 「基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう」という緊急提言の効果を評価し、また、提言の意味について若干補足する。

(1)この提案で計画停電を超える需要抑制ができる
 (a)提案が持ちうる効果
 現在の契約アンペア数の分布、ピーク時における実際の使われ方に係るデータが得られないため、正確な評価は難しいが、ごく大まかな推計を行う。
 全体の約半分の家計はもともと40A未満の契約であるか、あるいは変更をしないので、効果がない。契約を30Aに変更する家庭数が全体の半分あり、それらの家庭の現在の契約アンペア数は、40A、50A、60Aに均等に分布している・・・・と仮定する。
 ・現在40Aの家庭による契約アンペア数の削減率:1/6×(40-30)/40=1/24
 ・現在50Aの家庭による削減率は1/6×(50-30)/50=1/15
 ・現在60Aの家庭による削減率は1/6×(60-30)/60=1/12
 したがって、家庭全体で契約アンペア数が1/24+1/15+1/12=0.19だけ削減される。約2割減だ。ピーク時の使用電力も同率だけ減少するものと考える。

 (b)計画停電の需要削減効果
 計画停電の効果は不明だから、次のように考えてみる。計画停電は対象地域を5グループに分けて行なっている。仮に対象地域が東電管内のすべてをカバーしていれば、これによる削減率は5分の1程度になるだろう。しかし、実際には23区の大部分が除外されているため、全体の削減率は5分の1をかなり下回る。

 (c)結論
 基本料金引き上げは計画停電を超える需要抑制を可能にする。
 早急に基本料金を見直し、契約アンペア数引き下げに迅速に対処すれば、4月いっぱいの計画停電は回避できる。

(2)今夏の供給不足は不可避
 今後の火力の復旧などにより、東京電力の供給能力は4,000万KW程度に増加すると期待されている。しかし、冷房需要が増えるので、需要は6,000万KW程度になる可能性が強い。ところが、東京電力の発電能力を6,000万KWまで回復させることは極めて困難だ。だから、今年の夏の大幅な供給不足は不可避と考えて、いまから対策を考えるべきだ。需要の3分の1程度を削減する必要がある。
 家庭の使用電力(電灯)は、全体の約33%を占めている(全国の数字。東電の場合には34%)。これが5分の1削減されれば、全体の電力需要の7%近くが抑制される。さらに特定規模需要(大口需要など)で1割程度削減を行なえば、必要とされる削減率の半分程度を達成することができる。
 夏の電力不足が完全に解消されるわけではないとはいえ、基本料金見直しによって問題はかなり緩和される。

(3)問題は「2つの不便のどちらか?」ということ
 基本料金の見直しを避けることができれば、避けたいのは言うまでもない。しかし、現状のままだと計画停電が必要になる。そして、1日の数時間、電気器具は確実に使えなくなる。それとの比較で問題を考えていただきたい。
 医療関係では、すでに今回の計画停電で問題が発生している。夏にはもっと大きな問題が出るだろう。病院では、エアコンが必要不可欠な場合が多い。冷房が止まると手術ができなくなる場合もあるようだ。
 また、一般家庭においても冷房がすでに不可欠になっているので、計画停電が夏に行なわれると、この時間帯に冷房をまったく使えなくなる。高齢者には厳しい状況だ。
 今夏、ほぼ確実にそうなる。「そうなってもいいのか?」という観点から問題を考えていただきたい。
 被災地の方々のご苦労に比べれば、冷房など我慢すべきだが、回避ができるなら回避したほうがよい。
 現在すでに、計画停電が行なわれた地域と行なわれていない地域が存在し、微妙な感情的軋轢が生じている。通勤電車を始めとする公共交通機関に配慮がなされているとはいえ、停電のために運転が見合わされている区間も存在する。それ以外にも、停電がさまざまな生活上の不便をもたらしている。他方で、最初から計画停電から除外されている地域も存在する。今のところ不満は顕在化していないが、夏になって停電が常態化すれば、この類の不満は強まるに違いない。

(4)必要とされるのは「ピーク時対応」
 重要なのは、1日を通しての需要総量の削減ではなく、ピーク時の需要削減だ。
 今回の問題は、供給側で生じた制約だ。石油ショック時と同じものだ(そして、経済危機が需要側に問題を引き起こしたことと違う)。石油ショックの時にも、需要抑制が問題となった。エレベータの休止や照明の節減などが行なわれた。しかし、このとき必要だったのは、石油使用量の抑制だ。どんな時間帯であれ、エレベータを止めて電力の使用量を減らすことに意味があった。今回の事態はそれとは違う。

(5)企業の電力使用をどう抑制するか
 家庭の需要を抑制するだけでは不十分だ。企業の電力使用抑制は不可避である。
 日本経団連は、夜間のネオン等の照明の使用の自粛、製造業における東京電力及び東北電力管内外の地域での生産へのシフトを提案した。
 夜間ネオン使用自粛は、効果に疑問がある。生産活動の西日本へのシフトは、有効だと思う。しかし、量的な目安は示されていない。仮に効果が出るほどのシフトが起きれば、今度は西日本が電力不足に陥る可能性もある。今回の電力不足は、それほどの規模のものなのだ。
 夏に、企業の事務所や公共的な建物の冷房をどうするかは、大きな問題だ。かかる需要と家庭とが、どのように負担を配分すべきかについての社会的な合意が必要だ。
 官庁の電力使用には価格メカニズムが働かない。その抑制はきわめて難しい問題だ。
 電力抑制を家庭と企業でどのように負担すべきかについて、政府も何も述べていない。当面は被災地救援と原発事故対応が緊急の課題であるとしても、中長期的な電力不足も重要な問題だ。早めに方向付けることが必要だ。

【参考】野口悠紀雄「今年夏の電力不足に 基本料金見直しの必要性は大きい ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第3回】2011年3月23日~」(DIAMOND online)
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【震災】基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう ~野口悠紀雄の緊急提言2~

2011年03月20日 | ●野口悠紀雄
 第1回の提言を行なったとき、明確には書かなかったものの、従量料金の引き上げを念頭に置いていた。しかし、基本料金の引き上げのほうが「ピーク時需要の軽減」という観点からも、また「所得が低い家計に負担をかけない」という観点からも、優れている。
 以下、「各家庭の基本料金を、40A以上は5倍程度に値上げする」という方式を検討する。
 なお、「40A」も「5倍」も例示に過ぎない。具体的な設定は、さまざまなデータを勘案して決定するべきである。また、法的な側面の検討も必要だ。

(1)電気料金の仕組み
 家庭の電気料金は、「基本料金」と「電力使用量料金」によって計算される。東京電力の場合、「基本料金」は、契約アンペア数に応じて設定されている。30Aは月額819円、60Aは1,638円など(消費税込み)。電力使用量料金は、電力使用量に応じて課金される料金で、使用量が増えるごとに単価も高くなる。ただし、契約アンペア数にはよらない。1kWhあたり料金は、最初の120kWhまで17.87円、120kWhを超え300kWhまで22.86円、それを超過する場合に24.13円だ。
 契約アンペア数を超える電流が流れると、アンペアブレーカーが作動して、電気の供給を自動的に止める。その場合、いくつかの電気器具を止めてからスイッチを入れ直す。
 「基本料金」とは、「同時に使える電力に関してより大きな自由度を獲得するための料金」のことだ。そして、1か月間に使用した総電力料は、契約アンペア数によらず、「電力使用量料金」に反映される。
 通常の財やサービスの料金は「電力使用量料金」に相当するものだけだ。これとは異なる料金体系が電力に採用されているのは、ピーク時の供給対応が重要な課題だからだ。

(2)40A以上の基本料金を値上げすれば、自主的な節電と利用平準化が進むだろう
 仮に「40A以上は5倍にする」という基本料金の引き上げを行なった場合、人々はどのように反応するだろうか?
 現在の契約が60Aだとすると、値上げ後は月額8,190円になる。これを30Aに変更すれば819円で済むので、月7,371円の節約になる(契約アンペア数の変更は無料)。したがって、現在40A以上の契約をしている家計のなかで、40A未満の契約に変更する家計が出てくるだろう。余計な電気器具を使わないような努力がなされるだろう。
 また、電力使用を時間的に平準化する努力もなされるだろう。家庭の電気機器でアンペア数が大きいのは、エアコン、ドライヤー、電子レンジ、炊飯器、アイロンなどだ。契約アンペア数を下げれば、これらを同時に使わないよう注意するようになるだろう。
 契約アンペア数の引き下げは、「使いすぎの警告が出やすくなる」という意味も持つ。だから、社会全体の電力使用量の抑制に協力したいと考えている家計は、「節電が進む」という効果を重視して、契約アンペア数を引き下げるかもしれない。
「一定以上のアンペア数の基本料金を引き上げる半面で、一定以下のアンペア数の基本料金を据え置く」という上記の措置は、そうした努力をする家計に対する補助金だと考えることもできる。
 これまで電気器具別のアンペア数などをあまり意識せずに使用していた家庭には、契約アンペア数を下げることで「教育効果」ももたらす。これも決して馬鹿にできない効果を持つ。上記の措置は、このような意識改革を促進するための補助金でもある。

(3)価格メカニズムの長所を活用すべきとき
 <長所1>最も重要なのは、判断が個々の家計にゆだねられていることだ。契約アンペア数の引き下げさえ、強制的なものではない。各家庭が個別事情を勘案して、自主的に決めればよいことだ。その時々の節電、利用の平準化なども、各利用者の個別事情を勘案しながらなされるだろう。
 <長所2>「価格を引き上げると、所得が低い家計が購入できなくなる」という問題も発生しない。基本的な生活には支障が出ない。
 計画停電方式の最大の欠点は、こうした個別事情が勘案できないことだ。実際、計画停電によってさまざまな不都合が生じていることが報道されている。こうした事態が長期的に続くことは、是非避けるべきだ。
 電気の場合に重要なのは、ピーク時の需要を減らすことだ。したがって、利用の時間的平準化努力が行なわれることは、大きな意味がある。電力使用は、1日のなかでは10時頃から18時頃にピークとなる。その時間帯における電力使用をここで述べた方式で抑制できれば、事態は大きく改善されるに違いない。

(4)冷房用電力使用が増える夏への対処が重要
 現下における電力の需給状況は、供給能力は想定需要量を下回るか、あるいはぎりぎりということだ。
 今後、震災で損傷した発電所のうち、火力発電は復旧できるだろう。また、現在休止中火力の稼働再開もなされるだろう。しかし、事故を起こした福島第1原発(発電量約470万kW)の再建は絶望的だ。こうした事情を考慮すると、電力不足は一時的なものでなく、ある程度の期間、継続する可能性がある。
 そして、夏になると、冷房が必要となり、電力需要は増える。最近の年度では、7、8月のピーク需要は、3月の2割増し程度になる。したがって、今後の火力の復旧があっても、かなり深刻な事態に陥る可能性を否定できない。
 ここで述べた方式は、エアコン用電力の節減には、一定の効果を発揮するだろう。したがって、早急に検討を進めるべきだ。
 もちろん、どれだけの節減効果があるかは、事前には予測しにくい。また、基本料金の見直しだけでは、ピーク時需要を十分抑えることはできないかもしれない。だから、計画停電のような量的制限の必要性は残るかもしれない。しかし、先に述べたような計画停電の問題点を考えれば、あくまでもそれは補完的な措置とすべきだ。また、量的制限の方法についても検討を加え、より合理的なものとする必要がある。

(5)電力需要の抑制は、長期的にも不可欠
 より長期的に考えると、原子力発電一般に対する社会的な反対が強まるのは、十分考えられる。すると、新規建設はおろか、現在稼働中の原発が停止に追い込まれる事態も、考えられなくはない。
 原発はすでに日本の発電総量の約3割を占めており、2019年にはこれを4割超にまで高めることが計画されていた。その達成が不可能となれば、日本の総発電量は大きく低下し、日本経済は深刻な打撃を受けざるをえない。今後に計画されている原発比率の上昇が実現できないだけでも、日本の発電総量は1割程度不足してしまう。
 したがって、何らかの意味での料金体系の見直しは不可欠だ。
 その際重要な意味を持つのは、家庭用以外の電力の節電だ。09年度における販売電力量合計8,585.2億kWhのうち、家庭用は2,849.6億kWhに過ぎない。残りは企業等によって経済活動のために使われているものである。
 したがって、家庭用の節電だけでは、全体の需要を抑制する効果は限定的だ。
 とくに、大口需要家の契約をどうするかが検討されなければならない。これは、日本の産業構造の問題とも密接にかかわる大きな問題だ。

【参考】野口悠紀雄「緊急提言2:基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう」 ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第2回】2011年3月19日~」(DIAMOND online)
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【震災】電力需要抑制のための価格メカニズム活用 ~野口悠紀雄の緊急提言1~

2011年03月20日 | ●野口悠紀雄
 今後の日本経済にとって、電力制約はかなり深刻なものとなりうる。電力需要抑制をいかなる手段で行なうかは、重要な意味を持つ。
 一般に、財またはサービスの需要を抑制するための手段としては、(1)強制的な量的規制、(2)価格引き上げによる調整、(3)自発的需要抑制の要請、の3つのものがある。今回行なわれた計画停電は(1)だ(経済学では「割り当て」rationingと呼ばれる)。
 電力供給能力を早期に回復することは困難で、長期にわたって電力不足が継続する可能性がある。原子力発電に対する猛烈な逆風が今後生じうることを考えると、半恒久的に不足が継続する可能性すらある。夏季には、冷房のための電力需要が増加するだろう。
 だから、計画停電だけに頼るわけにはいかない。これを補完し、あるいはそれに代替する手段として、価格メカニズムの利用を検討しなければならない。

(1)強制的な量的規制
 計画停電の長所は、需要の総量を確実に供給量の範囲内に抑えられることだ。
 他方、最大の短所は、個別的な必要度や緊急度に応じた供給制限ができないことだ。必要度の高い需要も含め、停電対象地域内の電力使用を一律にカットしてしまう。合理的な需要抑制とは言えない。
 きめ細かい対処が試みられるとしても、すべてに個別的事情を勘案して給電することは、困難だ。

(2)価格引き上げによる調整
 価格メカニズムの活用には、(a)電気料金の臨時的な引き上げ、(b)電力使用に対する課税の二つがある。
 (a)電気料金の臨時的な引き上げ
 <長所1>これが最大だが、必要度に応じた削減が可能になることだ。必要度の判断は個々の利用者にゆだねられる。したがって、料金に応じて、必要度の低い用途から順次削減されてゆくこととなる。こうして、電力需要者が個々に抱えるさまざまな事情を的確に反映することができる。この意味で、合理的な削減が可能となる。
 <長所2>条件の変化に柔軟に対応することもできる。
 電気料金の場合に限らず、個別的な事情に応じた利用が可能となることこそ、価格メカニズムの最大の機能だ。
 どのような利用が必要不可欠で、どのような利用の必要度が低いかは、個々の利用者しか判断できない場合が多い。このようなon the spotの情報を適切に反映する資源配分は、価格メカニズムによってしか実現できない。
 そもそも、今回の災害によって電力供給能力が大幅に減少したのであるから、需給調整のために電気料金が上昇しなければならないのは、マクロ的な観点から見ても、当然のことである。供給力が大きかった条件下での料金を維持すれば、超過需要が発生するのは不可避のことだ。この意味においても、料金を維持したまま計画停電という量的規制に長期的に頼ることは、適切でない。
 原油価格の高騰を考えても、電気料金の値上げはいずれは不可避な状況にある。

 <短所1>需要総量を供給量の範囲内に収めるためにどの程度の値上げが必要かが、事前には確実には分からないことだ。したがって、価格を試行錯誤的に調整しなければならない。このため、需要が最初から供給量の範囲内に収まる保証はない。これに対処するため、補完策として量的規制を併用することも考えられる。
 <短所2>所得分配上の観点からのものだ。必要度が高い需要であっても、所得が低ければ、料金が上がると購入できなくなる場合もある。こうした状態を放置すれば、「金持ち優遇」との批判が生じる。
 したがって、ある程度以上の値上げが必要とされる場合には、所得が低い家計に対して、何らかの補助策を講じる必要がある。もっとも、場合によっては、わずかの値上げで済む場合には、こうした補助策は不必要かもしれない。
 <短所3>価格引き上げの対象地域をどこにするかである。東京電力と東北電力について必要とされることはいうまでもないが、それ以外の地域についてはどうか。
 日本の場合の特殊事情として、東日本と西日本のサイクル数が違う(50Hzと60Hz)ため、西日本の使用電力を節約しても、それを東日本に融通することができないという問題がある。
 当面は、東日本地域の電力料金のみを高くすることが考えられる。これによって、生産活動の西日本地域への移動を促進することとなるだろう。しかし、家計の使用電力については、公平の観点から問題が生じるかもしれない。

 (b)電力使用に対する課税
 価格の引き上げと同じ効果は、電気料金に対する課税によっても達成できる。
 利点は、税収を被災地救援や災害復旧事業に用いることが容易になることだ。
 ただし、税率は法律で決めなければならない。需給を均衡させるための税率は、価格の場合と同じように試行錯誤的に決めざるをえない。いちいち法律で決めることには困難を伴う。
 電気料金は、経済産業大臣の認可をえれば変更できる。税率に比べれば遥かに柔軟に変更できる。
 電気料金は、将来の合理的な期間における総括原価を基に算定されることとされている。ここで提案しているような理由による料金引き上げが、現行法の範囲内で可能か否かは、検討の必要がある。

(3)自発的需要抑制の要請
 各利用者の自発的な需要抑制も、もちろん必要とされる。
 しかし、これがいつまで継続するかは確かでない。抑制が長期間にわたって必要とされると、次第に抑制努力が衰える可能性もある。とりわけ、産業用の電力使用については、自発的善意による抑制を長期にわたって期待するのは難しい。夏季における冷房のための電力需要を、どの程度自主的に抑制できるかも、不確実だ。
 総じて、いま必要とされる需要削減は、こうした自発的努力で達成できる限度を超えている。

【参考】野口悠紀雄「緊急提言:電力需要抑制のために価格メカニズムの活用を ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第1回】2011年3月16日~」(DIAMOND online)
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【震災】復旧のための税財政措置・緊急地震速報がハズれる理由・東京電力の隠蔽・原発震災の最悪シナリオ

2011年03月19日 | ●野口悠紀雄
●未曾有の大惨事から復旧するための税財政措置
 東北関東大震災の被害は、人命以外の物的資産だけをとっても、GDPの数パーセントに及んでいる可能性がある。日本は、それだけ貧しくなったのだ。だから、日本人の生活が平均的にそれだけ貧しくなるのは不可避だ。加えて、今後の経済活動への間接的な影響がある。広範囲にわたる被害なので、産業活動への影響は甚大だ。
 災害特需によってGDPが増える、といった類の意見は、不謹慎うんぬん以前に経済学的に誤りだ。特需によってGDPが増えるのは十分な供給能力が存在する場合のことだが、今後日本経済が直面するのは、供給面における深刻な制約だからだ。
 供給面の制約は、備蓄が不可能な電力について、すでに発生している。
 これから災害の復旧活動と被災者の支援活動が始まり、そのための救援募金やボランティア活動が行われるだろう。こうした活動は、もちろん歓迎するべきだ。しかし、今回の損害は、かかる自発的善意によってカバーしうる限度を遙かに超えている。被災地での当面の生活を確保するだけでも数兆円の財源が必要とされる可能性がある。政府の補正予算の内容も規模も、従来の災害復旧事業とは大きく異なるものにならざるをえない。
 「復旧と支援のための費用は、何らかのかたちで全国民が負担しなければならない。損失を国民全体で分かち合う覚悟が必要だ」
 そのためには、国家の強権による措置が必要だ。国債の増発のみならず、臨時増税措置を行うべきだ。予定されていた法人税減税は、当面のあいだ棚上げにするべきだ。
 GDPは特需で増えることにはならないが、一部の業種に限ってみれば、利益が一時的に増加することは十分にありうる。このような利益は、公平の観点からして、国が吸い上げる必要がある。
 10年所得を課税ベースとして、所得税の臨時付加税を実施するべきだ。消費税の臨時的な税率引き上げが検討されてもよい。ただし、恒久化しないよう、使途についても規模についても慎重な検討が必要だ。
 しかし、今回の災害の規模は、異例の措置をとらなければとうてい対処できない。この点をはっきり認識するべきだ。
 歳出面での措置で、もっとも重要なのは、マニフェスト関連の無駄な支出を即刻やめることだ。11年度予算におけるマニフェスト関連経費は3.6兆円ある。これらをすべて災害復旧費にまわすだけで、必要な財源のかなりが確保できる。

 以上、野口悠紀雄「未曾有の大惨事に異例の税財政措置を ~「超」整理日記No.554~」(「週刊ダイヤモンド」2011年3月26日号)に拠る。
 
    *

●緊急地震速報がハズれっぱなしの理由
 緊急地震速報は、気象庁からテレビ局や携帯電話のキャリアを経て配信される。だから、タイムラグがある。地上デジタルテレビの放送では1秒程度だが、携帯電話の場合、最大10秒弱の配信時間を要する。各端末と基地局との関係によっても配信時間が変わる。
 携帯電話の場合、震度4以上が予測される地域にいると受信する(はずだ)。しかし、緊急地震速報は、断層のズレがはじまった直後の揺れだけを捉えて予測しているから、何百キロにわたって断層のズレが続くと、予測は難しくなる。
 震度だけではなく、地域もハズレる。緊急地震速報は、同時に2つの地震があると対処できないのだ。それまで太平洋側だけだった地震が、離れた長野でも起きると、2つを別の地震と区別できず、検出する震源地がズレて、マグニチュードも大きく見積もってしまう。

 以上、記事「緊急地震速報がなぜハズれっぱなしなのか」(「週刊文春」2011年3月24日号)に拠る。
 
    *

●総点検を拒否した東京電力
 2007年7月、福島県議らは、東京電力社長に対し、福島第一と第二の原発、計10基について耐震安全性の総点検を求める申し入れをした。
 「機器冷却海水の取水ができなくなることが、すでに明らかになっている。最悪の場合、冷却材喪失による苛酷事故に至る危険がある。その対策を講じるように求めてきたが、東電はこれを拒否してきた」(申し入れ書)。

 以上、記事「原発列島沈没の瀬戸際」(「サンデー毎日」2011年3月27日号)に拠る。

    *

●福島第一原発震災の最悪シナリオ
 小出裕章・京都大学原子炉実験所助教によれば、福島第一原発の1号機および3号機の炉心が溶融して大爆発したら、「おしまいですよ」。
 この場合、1平方キロあたり1キュリー以上の汚染を受ける土地(放射線管理区域)は、原発から700キロ先まで広がる。これは名古屋、大阪まで入るほどの広さだ。原発から10キロ圏内の急性死亡率は99%を超える。南西方向に風速4メートルの風が吹いていた場合、ある程度の時間がたって発症する放射能の「晩発性影響」によるガン死者は、東京でも200人を超える。
 さらに、半減期が30年のセシウム37などの放射性物質が大量に放出され、飛散する範囲は半径320キロにも及ぶ。北は岩手から南は神奈川、山梨まで、本州の関東以北は事故後数十年にわたって土壌が放射能に汚染され、人間が住むことができなくなってしまう地域が出る。
 すでに福島第一原発から100キロ離れた女川原発(宮城)の敷地内でも、一時、放射線量が通常の4倍の数値を記録した。格納容器の弁のフィルターが多量の水分で目詰まりを起こして吹き飛んでしまった可能性がある。そのため、ヨウ素など、本来なら外に出るはずもない放射性物質も飛び出しているのではないか。今回、周辺で被曝した人たちのなかには「除染」を受けた人もいたが、すでに放射性物質は体内にも入っていると考えられる。
 1号機はウラン燃料、3号機は2010年9月からMOX燃料を使っている。プルトニウムの生物毒性は、ウランの20万倍とも言われる。プルトニウムは、本来、高速増殖炉で使用するべきものであり、福島第一原発にある沸騰水型炉で使用するべき燃料ではない。家庭用の石油ストーブにガソリンを混ぜた灯油を入れているようなものだ。軽水炉でMOX燃料を使用すること自体が非常に危険だ。
 日本は、世界有数のプルトニウム保有国だ。長崎に投下された原爆はプルトニウム爆弾だが、現在、日本はプルトニウム原爆を4千個も作れるほど保有している。

 以上、記事「放射能 目に見えない恐怖と知っておくべき『本当の話』」(「週刊朝日」2011年3月25日号)に拠る。
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【読書余滴】野口悠紀雄の、財政再建の基本は地方自治の確立だ ~1940年体制の改革~

2011年02月16日 | ●野口悠紀雄
 国と地方の関係一般の見直しが必要だ。
 本来議論するべきは、「税と社会保障の一体改革」ではなく、「税、社会保障、そして国と地方との関係」だ。

 地方財政制度は、1940年度に確立された。その基本思想は、「地方自治の否定」だ。財源を所得税(ことに給与所得に係る源泉徴収税)と法人税という形で国に集中し、それを地方に再配分する。そして、全国一律の公共サービスを提供する。・・・・というものだ。
 このしくみは戦後日本にそっくり残り、高度成長期には適切に機能した。
 高度成長は、製造業の発展を基盤とした。よって、所得税と法人税が順調に伸びた。
 工業地域と農業地域の格差が開いたが、国が再配分し、調整した。

 その後、財政をめぐる基本的条件は変化した。
 (a)社会保障関係費の増加。
 (b)所得税、法人税の伸び率の低下。
 これらは、90年代以降の国の財政事情を悪化させた。この変化を経済危機が一挙に加速した。 
 しかるに、こうした大変化にもかかわらず、国と地方の関係に係る基本的な見直しは行われていない。

 むろん、国と地方の分担に係る議論はあった。05年の義務教育費国庫負担に係る存廃問題、現在の子ども手当や後期高齢者医療費に係る地方の負担拒否。
 ただし、これらは当該問題の枠内だけのアドホックな議論だ。国と地方の負担の押し付け合いであって、国と地方の関係に係る基本が議論されたわけではない。 
 このテーマは、一般の関心を惹かない地味な話題なのだが、財政の基本に係る論点を含んでいる。

 公共サービスのうち地方政府が提供するものは、義務教育、警察、消防、清掃などだ。
 これに加えて、年金を除く社会保障についても、地方の役割を中心に制度を再構築することは可能だ。生活保護、医療保護、介護保険は、基本的に地方に任せるのだ。さらに、子ども手当、農家の個別所得補償などの再分配政策も地方が行う。また、産業、公共事業も地方に移管する。
 そして、それに必要な財源措置を講じる。
 国の仕事は、年金、防衛、外交、司法などの分野に限定する。

 支出についても財源についても、地方公共団体が自由に決定できる制度にすることが重要だ。地方交付税交付金や国庫支出金の形で国が提供するのではなく、地方が税率を決められる地方税で徴収する。
 このような制度には、消費税は不適切だ。税率の低い地方で購入することで税負担を逃れられるからだ。固定資産税、住民税、事業税のような税目が必要だ。

 こうすれば、「足による投票」が実現する。
 (例)ある地方は子ども手当が多いが、地方税負担も重い・・・・と考える人々は、居住地を選択する。
 これは市場メカニズムと類似の機能だ。むろん、居住地の変更は容易でないから、市場メカニズムと同じようには機能しない。しかし、住民は通常の選挙を通じても、財政に係る意見を表明できる。

 財政支出が野放図に増加するのは、支出と負担の関係が明確に意識できないからだ。
 高い財政便益には高い負担が必要だ。この当然のことが、いまの日本の財政構造では意識できない。この構造が残る限り、いくら増税しても支出が膨張してしまう。
 消費税率引き上げは、当面の財政を工面するつじつま合わせにしかならない。消費税を引き上げても焼け石に水だ。

 便益と負担をリンクさせ、かつ、それらを地方に移管する。・・・・財政支出の膨張をチェックするには、これしかない。1940年以来70年間続いた財政の基本構造を変革するのだ。
 これが財政再建に係る基本問題だ。
 「消費税を目的税化するべきか」「年金は税方式か社会保険方式か」といった問題設定は、枝葉のことだ。

【参考】野口悠紀雄「財政再建の基本は地方自治の確立 ~「超」整理日記No.549~」(「週刊ダイヤモンド」2011年2月19日号)
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【読書余滴】野口悠紀雄の、昨年来の物価上昇の原因、物価上昇の結果、食料自給論の問題点

2011年02月09日 | ●野口悠紀雄
(1)物価上昇の原因
 2010年夏以降、原油、貴金属、非鉄金属、農産物など国際商品の価格が上昇している。
 原因は、長期的にみれば新興国の需要増加にあるだろう。しかし、短期的にはドル価値の低下(金価格の上昇)に伴って自動的に生じた側面のほうが強い。
 金は、10年11月に1オンス1,400ドルを突破し、その後も史上最高値を記録しつつある。これに伴って商品価格が上昇しているのだ。
 原油は、09年2月までに1バレル30ドル台まで下落したが、その後上昇に転じ、10年末には90ドルをこえている。農産物価格上昇も金表示の価格を維持する動きと解釈できる。
 これは、07~08年に生じた現象とまったく同じだ。
 今回の商品価格上昇は、10年秋の米国の金融緩和(QE2)によって引き起こされた。実需の増加より、ドル価値の低下という貨幣的な要因の影響が強い点で、前回と基本的に同じ現象だ。
 なお、70年代の石油ショックも、基本的にはこれらと同じじものだ。

(2)物価上昇の結果
 08年の国際商品価格上昇は、同年の日本の消費者物価指数を上昇させた(同年秋には年率2%)。
 今回も、日本の消費者物価指数は上昇するだろう。
 物価上昇は、日本経済の問題を解決するだろうか?
 むろん、解決しない。むしろ、問題は深刻化するだろう。
 これまで日本で生じていた物価下落は、工業製品の価格低下である。すべての物価の一様な下落ではない(サービスの価格は上昇してきた)。これは、基本的には新興国の工業化とITによってもたらされたものだ。この点は、今後も変わらない。
 ところが、今後は原材料価格が上昇する。したがって、企業の利益がさらに減少するだろう。
 原材料価格上昇を資産物価格に転嫁できる財サービスもあるが、パソコン、テレビ、デジタルカメラなどの製品価格下落は止まらない。これらは、新興国メーカーとの激しい競争があり、しかもITの進展で価格が急激に低下するからだ。

(3)日本経済停滞の真因
 (2)の事態が進展すれば、日本経済を次のように正しく認識せざるをえないだろう。
 (a)日本の物価動向(とくに貿易可能財)は、国内の金融政策ではなく、海外の物価動向で決まる。
 (b)日本経済停滞の原因は、物価下落とは別のものである。世界経済の大変化、とりわけ新興国の工業化に対応できていないところにある。

(4)食料自給論の問題点
 危惧されるのは、農産物価格が上昇することで、食料自給論が息を吹き返す危険だ。
 食糧自給論の真の目的は、農産物に対する高率の輸入関税を正当化し、国内農業を保護するところにある。
 この議論は、次のような問題を含む。
 (a)食糧の大部分を国内で供給・・・・仮にそうなった場合、天候不順で不作になれば、大変な事態になる。自給率の向上は、食糧供給に関するリスクを増大させる。食糧供給の安全保障は、供給源を分散化させることによって実現するのだ。
 (b)「買い負け」・・・・仮に海外の農産物価格が上昇した場合、まず買えなくなるのは最貧国である。日本は高所得国だから、買えなくなることはない。
 (c)「いくらカネを出しても買えない」・・・・アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでは、輸出のために農業生産が行われる。仮にこれらの国の政府が輸出禁止令を出せば、所得稼得の機会を奪われた農民は暴動を起こすだろう。
 (d)食料自給率の指標・・・・使われる指標が「カロリーベース自給率」であるため、多くの人が錯覚に陥っている。この指標では、鶏卵の自給率は10%だ。大部分の卵が国内で生産されながら、こうような低い自給率になるのは、飼料が輸入されているからだ。われわれの実感に近い生産額ベースの自給率でみると、日本の自給率は70%程度だ。
 エネルギーの96%を海外に頼る日本が、食料についてだけ自給率を高めようとするのは、滑稽だ。

【参考】野口悠紀雄「消費者物価の上昇は日本経済を救わない ~「超」整理日記No.548~」(「週刊ダイヤモンド」2011年2月12日号)
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【読書余滴】野口悠紀雄の、中国の新世代「80後世代」の実力 ~日本経済再生の鍵~

2011年02月05日 | ●野口悠紀雄
(1)日本経済再生のキー
 日本人学生の就職は厳しいが、日本への留学生の就職状況は良好だ。日本企業は、新規採用を日本人学生から外国人(特に中国人)にシフトし始めたのだ。ソニーも新規採用の3割を外国人にする方針を決めた。
 自国企業の雇用を自国人だけで独占できないのは、グローバル化した経済では当然のことだ。外国人を適切に活用することができれば、日本経済再生のキーとなしうる。大変重要な変化だ。
 過去、日本は、中国から消費財を輸入し、中国に対して中間財を輸出していた。中国の役割は、単純労働力の供給だった。
 経済危機後、中国は巨大な消費主体と見なされるようになった。
 しかし、この方向を取るのは危険だ。日本における高賃金で作ったものを、中国における低所得の人々に売ろうとしても、もともと無理なのだ。ここには比較優位の視点がまったく欠落している。最低限、工場を新興国に移して安価な労働力を使う必要がある。

(2)知識労働者の供給国
 日本が目指すべき方向は、いま中国に出現しつつある新世代の能力を活用することだ。中国を知識労働者の供給国と見なすのだ。
 こう考えるのは、中国人の若い世代にきわめて優秀な人材が出現し始めたからだ。
 1970年代まで、ほとんどの中国人は教育を受ける機会を奪われていた。文化大革命で紅衛兵が学校制度を破壊し、68年から10年間、1,600万人の若者が農村や辺境に下放された(上山下郷運動)。大学は閉鎖され、知識階級は撲滅された。
 この世代の人々が80年代に一橋の野口ゼミにも留学してきたが、基礎教育をまったく受けていなかったため、指導のしようがなかった。
 それから20年後、04年、スタンフォード大学の野口のクラスに現れた中国人学生は、まったく別人種であった。日本語も英語も非常にうまい。能力も高いし、意欲もある。中国の人材に画期的な変化が起きたことがわかった。
 彼らは80年以降の生まれなので、「80後(バーリンホー)世代」と呼ばれる。中国で現代的高等教育を受けた最初の世代である。大学進学率は、03年で20%を超えた。巨大な変化が中国に起こったのである。
 中国人が日本人より優秀だとは野口は思わないが、全体数が多いため、その中にきわめて優秀な人間がいるのだ。彼らに高等教育を与えれば、それが顕在化する。その影響は、教育や科学研究の分野でようやく表れ始めた(経済や政治には本格的な影響は及んでいない)。

(3)国別論文数の推移
 国別に論文数の推移をみると、90年代の後半以降、中国が著しい勢いで成長している。03年頃に仏国を抜き、05年に日本、英国、独国を抜いた。米国のおよそ3分の1になっている。
 80年代末、中国の論文数は日本、英国、独国の20分の1程度でしかなく、まったく比較にならない存在だった。この20年間に大変化が起きたのだ。
 質の高いトップ10%の論文でも、中国は急成長している。まだ英独の半分程度だが、すでに日本を抜いた。伸び率がきわめて高いので、いずれ英独を抜くだろう。
 中国はとりわけ化学と材料科学で強い。
 各国の論文数が伸び悩む一方で中国が急成長しているから、遠からず米国を抜くだろう。ちなみに、ロシアは研究資金削減のため伸びが低くなり、ブラジル、インドよりも論文数が少なくなった。
 これは、ここ数年の間に起きた急激な変化だ。中国がGDPで日本を抜いたことより、論文数のほうが重大な変化だ。
 大学ランキングでも同様の傾向がみられる。英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エディケーション」が10年9月に発表した「世界大学ランキング」によると、上位200校に入った日本の大学は、前年の11校から5校に減った。(香港を除く)中国は、6校となり、日本を抜いてアジア1位になった。

(4)着目するべきもの
 日本経済の方向づけを考えるときにわれわれが見るべきデータは、「自動車販売台数世界一」とか「膨大な数の中間層」ではない。そこには総人口の大きさが影響している。そして、中国の貧しさが隠されている。それを見抜けずに、これからは中国だ、と考えれば方向を誤る。
 見るべきは、論文数の推移に象徴されるような状況だ。それが示す世界は、次のようなものだ。
 (a)米国が依然として圧倒的に強く、他国を引き離している。
 (b)中国が急成長している。日本を抜いた。指標によっては英独をも抜いた。いずれ米国も抜くかもしれない。

【参考】野口悠紀雄「中国の新世代『80後世代』の実力 ~ニッポンの選択第50回~」(「週刊東洋経済」2011年2月5日号)
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【読書余滴】野口悠紀雄の、日本企業のアジア戦略の誤り ~外国人の幹部候補生採用をめぐって~

2011年02月03日 | ●野口悠紀雄
(1)外国人の幹部候補生採用
 日本企業は、従来の方針を大転換し、外国人を幹部候補生として採用し始めた。こうした動きは、2012年春の採用では、さらに進むだろう。
 日本企業と日本人にとって、きわめて大きな意味をもつ変化だ。
 (a)日本人大学生の就職戦線に大きな影響がおよぶ。大学生の就職内定率は過去最悪の水準になっているが、その背景に日本企業が日本人よりはアジア特に中国の優秀な学生に目を転じ始めたことがある。
 (b)日本人であることを前提としていた人事管理・職務管理体制に、本質的な影響を与えるだろう。文化的背景、考え方が異なる人材と協働することは、決して容易ではない。
 (c)しかし、外国人活用がうまい形で進めば、日本を活性化する最後の切り札になるかもしれない。日本企業のビジネスモデルや新興国との付き合い方に係る基本的な方向づけとも密接に関わる。

(2)新興国に最終消費財の市場を求める愚
 日本企業の外国人採用増加は、主力マーケットを国内・先進国から新興国へと転換しようとしているからだ。アジア新興国市場が急拡大しているからだ。
 しかし、新興国市場の拡大と、日本企業がそこで高収益を上げられることとは、まったく別問題なのだ。新興国に最終消費財の市場を求めようとするビジネスモデルは、成功しないだろう。その理由は、
 (a)他の先進国や新興国のメーカーがすでに参入している。激しい競争が展開されている。
 (b)新興国で求められるのは、高品質製品ではなくて、低価格製品である。
 しかるに、日本の製造業は、低価格製品の生産において比較優位をもっていない。半導体がそうだった。1990年代以降、PC用低価格DRAMの需要が増えたにもかかわらず、日本の半導体メーカーはメインフレーム用高性能DRAMを作り続け、サムスンの成長を許した。
 最近でもそうだ。機能をしぼったシンクライアント型低価格PCでは、台湾メーカーの強さが目立つ。今後は中国メーカーが成長するだろう。インドのタタモーターズが08年に発表したナノは、1台27万円だ。インドのゴドレジグループが開発した冷蔵庫は、1台6,800円だ。
 インドに進出した日清食品のインスタントラーメンは1個10円だが、それでも売れない。かかる市場が日本の活性化に寄与するだろうか。

(3)アジアの中間層
 中間所得層(「ボリュームゾーン」)がアジアに成長しつつあるから、アジアの消費市場としての魅力が今後高まる、といわれる。
 アジアの中間層は09年に8.8億人、今後10年間で倍増する、と『通所白書2010』はいう。富裕層は、09年に日本では9,200万人、日本を除くアジアでは6,200万人だが、5年以内に日本を抜く、ともいう。
 だが、実態を見れば、アジアの中間層とは、年間所得が40万円から280万円で、そのうち大部分は120万円未満なのだ(1ドル=80円で換算)。物価の違いを度外視すれば、アジア中間層は、日本では低所得層に位置づけられる。アジア富裕層は、日本では中間層だ。
 新興国とは、低所得国なのだ。「蟻族」と呼ばれる中国の若者たちの実態に明らかだ。大卒の知的労働者だが、大都市郊外の劣悪なアパートで6人部屋に住み、長時間かけて通勤、平均月収2.5万円、昇進しても5万円、所有する家財道具はPCと携帯電話くらい、台所がないから炊事道具さえない。彼らが日本メーカーの顧客となりうるだろうか。

(4)外国人の幹部候補生採用の真の意義
 高度知識労働者レベルの外国人採用がまったく意味がない、というのではない。逆に、きわめて重要である。次の3点で日本企業に重要な意味を持ちうるからだ。これらのいずれも、日本企業のビジネスモデルを大きく変化させる可能性を秘めている。
 (a)世界的な水平分業への対応。
 (b)アジア地域を対象とした金融サービスの提供。
 (c)社員の多様化と人事管理体制への影響。
 
【参考】野口悠紀雄「日本企業のアジア戦略は間違っている ~ニッポンの選択第49回~」(「週刊東洋経済」2011年1月29日号)
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【読書余滴】野口悠紀雄の、5%の消費増税では焼け石に水 ~いくら不足するか~

2011年01月30日 | ●野口悠紀雄
(1)増税の目的を明確にする
 日本の財政は、5%程度の消費税率引き上げでは、焼け石に水でしかない。事態を改善するには、ケタ違いの大規模な増税が必要だ。それを認識すれば、とるべき方策はまったく異なるものになる。
 増税の目的は、(a)現在すでに生じている財政赤字の縮小だ。
 しかし、これだけでは十分ではない。今後、財政支出は増大するからだ。わけても社会保障関係費は、高齢者人口の増大によって不可避的に増加する。よって、(b)将来の社会保障費増加に対応することが必要だ。

(2)財政赤字の縮小に必要な消費税率
 (1)の(a)および(b)の目的達成のために、いくら増税が必要か。
 (a-1)仮に2011年度の公債金収入と「その他歳入」の和52兆円のすべてをゼロにすることを目的とすれば、37%の引き上げ(つまり合計42%)が必要だ。(a-2)仮にユーロ加盟条件の15兆円まで減少させることを目的とすれば、26.5%の引き上げ(つまり合計31.5%)が必要だ【注1】。

 【注1】
 財政赤字を現状からx兆円だけ減少させるために必要な増税額は、1.43x兆円である(増収額の3割は地方交付税に回されるから)。
 消費税率をt%引き上げると、そのうち国税分は0.8t%である(0.2t%は地方消費税分)。
 消費税率1%での税収は、2.5兆円である。
 よって、1.43x兆円の税収を上げるためには、消費税率を0.715x%引き上げる必要がある。

(3)社会保障費の自然増に必要な消費税率
 11年度予算で29兆円の社会保障関係費は、今後10年間で6.4兆円増加する【注2】。
 これを補うために必要な消費税率の引き上げ幅は、【注1】の算式から4.6%となる。
 消費税率を5%程度引き上げたところで、社会保障の自然増に対応することで精一杯であり、公債発行額を目立って減額させることにはならない。
 公債発行額を15兆円に減らすことを目的とするなら、31.5%+4.6%=36.1%にしなくてはらなない。
 民主党の「最低保障年金」は、財源の点でまったく不可能であることがわかる。
  
 【注2】
 過去の推移をみると、社会保障給付費は65歳以上人口の増加にほぼ比例して増加している。65歳以上人口は、20年には10年の22%増加する。したがって、保険料や地方との費用分担比率を不変とすれば、一般会計の社会保障関係費もほぼその程度の率で増加すると予想される。

(4)国債費の自然増
 事は、財政赤字の縮小や社会保障費の自然増だけで終わらない。
 増税によって財政赤字がy兆円まで圧縮されたとする。これは、国債残高をy兆円だけ増加させることと同じだ。
 国債残高が増加すれば、利払いと償還費からなる国債費は、それに比例して増加する。現在10年物国債の発行利回りは1.2%である。60年償還を前提とすれば、国債残高y兆円増加による国債費の増加は、ほぼ2.9y/100兆円だ。これが国債費の自然増である。
 yが40であるとすると、1.2兆円である。これは社会保障の自然増より大きな額だ。10年間で12兆円になる。【注1】の算式からすると、消費税率を8.6%引き上げなければならない。

(5)残る問題
 税の自然増収がないとすれば、歳出増は公債金収入に頼らざるをえない。すると、国債残高はさらに増加することになり、孫利子、曾孫利子などが累積して、国債費は雪だるま式に増加していくのだ。
 もっと恐ろしい問題もある。上記の計算は国債利回りとして現状の数字を用いた。しかし、国債の消化に問題が生じれば、この数字は急騰するおそれがある。そうなると、国債費は一挙に増加する。

(6)財政改革の方向づけ
 日本の財政状況を根本的に改革するためには、次の二つが不可欠だ。
 第一、社会保障制度の抜本的見直し。年金支給年齢を75歳に引き上げる程度の大規模な改革が必要だ。
 第二、税制改革。消費税のようなフローに対する課税では対応できない。資産を課税ベースとする課税を検討することだ。

【参考】野口悠紀雄「5%の消費増税では焼け石に水 ~「超」整理日記No.547~」(「週刊ダイヤモンド」2011年2月5日号)
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【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~

2011年01月23日 | ●野口悠紀雄
(1)米国1990年代の経済再生
 1980年代末、米国経済再生の提言書『メイド・イン・アメリカ』は、シリコンバレーに勃興しつつあったベンチャーキャピタルに否定的な評価を下した。ベンチャーキャピタルが既存の産業体制を破壊するから、という理由だ。
 ベンチャーキャピタルが創業資金を提供するので、モトローラなど有力企業の優秀なエンジニアが退職し、創業してしまう。その結果、既存企業の技術開発力が低下する。他方、日本のエレクトロニクスメーカーは終身雇用制をとっているから、優秀なエンジニアは企業に残って技術開発に取り組む。その結果、米国企業は日本企業に負けてしまう。・・・・という論理だ。
 同書の筋書き、既存産業の維持改善による経済復活は実現しなかった。
 その代わりに新しい企業が誕生し、それがITという新しい産業をつくった。資金面では、ベンチャーキャピタルが支援した。人材や基礎研究面では、『メイド・イン・アメリカ』を編集したMITではなく、「西海岸の田舎大学」スタンフォード大学だった。

(2)日本2011年の経済
 現在日本で考えられている日本再生は、同書と同じ発想に立っている。
 しかし、システムの機能不全がある限度を超すと、「改善」では復活できない。旧システムの核心部分を破壊しないと、再生できない。 
 日本の経済システムは、明らかに機能不全に陥っている。秩序を維持しつつ改善するのは不可能な段階に達している。だから、核心部分をいったん破壊しなければならない。古いものが残っていると、新しいものが誕生しにくいからだ。

(3)外資の導入
 資本と人材を海外から導入することによって、旧システムの核心を破壊するのだ。海外のものは異質だから、破壊者になりうる。
 これは、外国に支配されることではない。それらに場を与えることなのだ。
 成長の果実は、場の提供者にも落ちる。地代、税、保険料などの直接的収入が生じる。雇用、販売力増加、設備投資などの面で波及効果が期待できる。
 にもかかわらず、経営者はもとより従業員や株主も、ひたすら外資を拒否している。拒否の理由は、異質なものを排除したい、という感情的なものだ。
 こうしたクセノフォビア(外国人恐怖症)的国民感情を変える必要がある。そのために、マスコミの責任は大きい。
 外資にとってメリットが高いうちに受け入れなければ、手遅れになる。 

(4)外国人労働力の導入
 高齢化進行、労働年齢世代減少の今後の日本において、外国労働力の活用は不可欠だ。
 幾つかの企業が、工場単純労働者や現地採用以外に、外国人に門戸を開きはじめた。この数年、幹部候補生として中国人など外国人採用枠を拡大し始めた。パナソニックは、採用に当たって日本人より外国人に大きなウェイトをかける方針に転換した。従業員の多様化が目的である。
 この傾向が進めば、日本企業の閉鎖性に穴が開き、内向きの企業文化も変わるかもしれない。ひいては、日本経済の活性化につながるだろう。
 ただし、過大な期待はできない。外国人に門戸を開き始めた企業は、全体からみて一部にすぎないし、新卒の若い人だけのことなので従業員の一部が変わるだけだ。日本企業が有能な外国人を独占できるわけでもない。採用しても定着せず、条件のよい別の企業に転職する可能性も高い。

(5)現状を保護しない
 旧勢力を破壊するために必要なのは、彼らを保護しないことだ。雇用調整金、エコポイントなどは現状維持のための政策であることが明白だが、一見そうは見えなくとも実は現状維持のためであるものも多い。
 TPP(環太平洋経済連携協定)は、その代表である。貿易自由化のためだと一般には理解されているが、実態は経済ブロック化計画である。TPPによって利益を受けるのは、従来型の輸出産業だ。新しい産業が生まれるわけではない。
 法人税減税もそうだ。既存企業の負担を軽減するだけだ。新しく誕生する企業は通常すぐには利益が出ないから、法人税減税のメリットはない。もし法人税減税を行うなら、かつての中国のように外資に対してだけ行うべきだ。
 企業の公的負担を軽減したいなら、社会保障制度を改革して、事業主負担を軽減するべきだ。事業主負担は、法人税と異なって利益のない企業にもかかるから、誕生直後の企業には重荷だ。
 官僚の天下り確保の方策には反対するべきだ。経済官庁が外資に抵抗するかなり大きな理由がここにある。また、地方公共団体によるリサーチパーク構想なども、天下り先確保のためであることが多い。

(6)ジャーナリズムの役割
 政治が現状維持に傾くバイアスを持つのは、やむをえない。現在支配的な産業や企業は政治に強い圧力を加えられる。半面、いまだ存在しない産業は政治的発言力をもたない。
 このバイアスを打破するのは、世論でしかありえない。ここでもジャーナリズムの果たすべき役割が大きい。

【参考】野口悠紀雄「旧秩序の破壊者が新しい世界を作る ~ニッポンの選択第48回~」(「週刊東洋経済」2011年1月22日号)
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