語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】計画停電を回避できる料金引き上げの目安は3.5倍

2011年03月30日 | ●野口悠紀雄
(1)料金体系の見直しは必至
 少なくとも東京電力、東北電力の管内では、必然的に電力利用のコストが何らかの形で上がる。問題は、どのような形で利用コスト上昇を実現するか、だ。
 明示的な料金引き上げを行わなければ、一定時間帯使えない(ことによって発生するさまざまな不都合)・・・・という形でコストを負う。そのコストは、明示的な料金引き上げに比べて、確実に高い。必要度の高い用途も一律にカットしてしまうからだ。そして、不公平(計画停電では地域別の不公平)な形で負担がかかる。
 したがって、料金体系の見直しが必要なことは、ほぼ自明だ。検討するべきは、どのような形の見直しを行なうか、だ。

(2)需要弾力性による結論
 東京電力の発表(3月25日)によれば、夏には4,650万KW程度供給力できるし、今夏の最大需要は5,500万KW程度だ。
 しかし、この需要予測は楽観的だ。安全をとって最大需要を6,000万KWとすると、必要な削減率は22.5%となる。以下では、計算の簡単化のため25%とする。価格をどの程度引き上げれば、これが実現できるか。
 「需要の価格弾力性(または弾性値)」は、価格を1%引き上げた時に需要が何%変化するかを示す指標だ。電力については、これまで「価格弾力性は-0.1程度」と仮定して議論されることが多かった。電力は必需財なので価格を引き上げても需要はあまり変化しない・・・・とされる根拠がこれだ。
 しかし、弾力性の絶対値が小さい値であっても、価格を十分に引き上げれば需要は減る。価格弾力性が-0.1でも、価格を250%引き上げれば(価格を現在の3.5倍にすれば)、需要を25%削減することができる。
 なお、ここでは、ピーク時需要抑制の観点から基本料金の引き上げを考えている。他方、価格弾力性が議論される場合の価格とは、電力使用の単価のことだ。これらは、厳密に言えば別のものだ。

(3)企業の基本料金を3.5倍に
 企業の場合、すべての企業について基本料金における料金単価を一律に値上げすべきだ。「価格弾力性-0.1」を仮定すれば、需要を25%削減するには、基本料金の単価を250%引き上げればよい(つまり、現在の3.5倍にする)。
 ただし、企業の場合は、もう少しきめの細かい対応が必要だ。必要なのは夏の昼間なので、この時間帯の基本料金だけを高くしてもよい。工場操業の夜間へのシフトを促すには、夜間料金を現在よりも安くしてもよい。ただし、いずれにしても重要なのは、ペナルティを十分高くして契約電力を強制することだ。
 以上は、価格弾力性について一般に用いられている数字を用いたごく粗い検討にすぎない。実際にはもっと詳しい調査が必要だ。アンケート調査等によって補完することが必要だ。
 また、需要弾力性について不確実性が残るから、計画停電方式をバックアップとして準備しておかねばならない。均衡価格は、本来は試行錯誤によって決めるべきものなのだ。
 価格弾力性は、需要量を従属変数にしているから、実現するのは総需要の減少だ。ただし、全体が低まればピークも低まる。また、家計の場合は、夏のピークは、昼のかなり長い時間帯続くので、ピーク抑制にも寄与するだろう。

(4)電気代上昇が家計に与える影響
 2010年家計調査によると、消費支出3,027,938円のうち、電気代は101,048円だ。消費支出中の比率は3.3%だ。無視できる金額ではないが、教養娯楽費358,923円や交際費163,117円に比べて、かなり少ない。電気代上昇は、家計に大きな影響を及ぼすのは間違いない。しかし、教養娯楽費や交際費を抑制すれば調整できない額ではない。
 ただし、企業の生産コストは上昇する。それが製品価格に転嫁されれば、間接的な影響を受ける。
 企業の場合、電気代が上昇すれば、原価が上がる。電気はどのような経済活動にも必要なものなので、特定の原料価格が上がった場合に比べれば、製品価格への転嫁はしやすいだろう。しかし、100%転嫁できる保証はない。転嫁が不完全にしか行なえなければ、企業の利益は減少する。
 ただし、昼夜の料金に差をつければ、操業が夜にシフトするので、製品価格への影響は緩和されるだろう。西日本や海外への生産シフトによっても、影響を緩和できるだろう。逆に言えば、こうした措置によって西日本や海外へのシフトが促進されるわけだ。

(5)スマートグリッド・太陽光発電・電気自動車
 スマートグリッド(次世代送電網)やスマートメーター(次世代電力計)への移行促進は、長期的な観点からは確かに重要だ。しかし、設置に時間がかかり、今年の夏にはとても間に合わない。それに、料金を引き上げなければ、スマートグリッドを実現しても利用抑制への圧力は働かない。
 再生可能エネルギー、とくに太陽光発電も長期的には重要なのだが、総量はとても足りない。また、設置に時間がかかる。ガス冷房は設置コストがかなり高い。
 今回の事態が電気自動車にどう影響するかは、不明だ。電気料金の引き上げが行なわれるなら、東日本では利用コストが上昇する。しかし、原油価格も上昇しているから、差引でどうなるかはわからない。西日本では、今回の災害とは無関係に電気自動車やハイブリッドカーの有利性が高まっている。

【参考】野口悠紀雄「計画停電を回避できる料金引き上げの目安は、3.5倍 ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第5回】2011年3月29日~」(DIAMOND online)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

コメント   この記事についてブログを書く
« 【震災】日本の「食」をどう... | トップ | 【震災】加賀乙彦のみる大震... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

●野口悠紀雄」カテゴリの最新記事