よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

「生きる覚悟」

2011年12月24日 | No Book, No Life

年内最後の授業は、東工大の「生命の科学と社会」という授業の2コマほど。この授業を受け持っているのが御縁で、その講座の責任者、上田紀行先生から近著を贈呈頂きました。

著者の方からサインつきで本を頂くとは実に幸運なことです。授業のあと、100周年記念なんとかというビルのレストランで、鮭フライのランチを食べながら、わいわい雑談で盛り上がりました。

せっかくなので、一読後の雑感まとめ。

        ***

パワーに満ちた本です。

「人間は幸せになるために生きている。では、あたなにとって幸せとはなにか」(p34)

おっと。こう問いかけられて、読者として考えながらページを繰ってゆきました。

大きな問いを投げかけて、読者を巻き込み、当事者として自分が経験した物語を織り交ぜて議論を展開するという、いつもの言説の構えはさすがですね。この本を読み進めてみると、傍観者ではなく当事者としての読者になるように柔らかく、でもしっかりと迫られるような感覚にひたされます。妙な表現ですが。。

さて、処世術にばかり走る人は「得」のみを求め、「徳」から遠ざかってしまいます。市場、つまり「得」の世界では人はお金とモノを交換して効率、成果としてそれらを自明的に説明する数値がはばを効かせています。

処世術とは、いいかえれば世を処してシノいでゆくためのビジネススキル。いや~、起業家としてビジネススキルを研鑽、実践して、技術経営やビジネススキルアップ教をば、大学院などで教えている自分としては痛いところです。

このあたり、痛いほどに感じているので、東工大の「生命の科学と社会」では、ビジネススキルとはまったく関係のない、視えない世界=死後の世界の認識と医療サービスとの接面に絞っているのですが。。

筆者は処世術よりも「処生術」のほうが大事だといいます。「処生術」とは、生まれ、老い、病を得て、やがて死んでゆく人生の旅人としての生老病死苦に寄り添う当事者としての構えです。

市場経済のなかでは、「得」が絆を作りますが、市場原理から離れたところでは「徳」が絆を作ることになります。(p82~第3章、「得」の絆から「徳」の絆へ、あたり)

本書でもダライ・ラーマとの対談が回想されていますが、「愛と思いやり」が母親と子どもという人間関係=絆の根っ子の根っ子にある、という指摘にはハッとさせされます。

そして「徳」を引き寄せるためには、神仏、死後の世界など(たぶん超越意識も含ませていいでしょうね)、あちら側の世界、つまり「見えない世界」との対話の構えが重要なのである、と説くあたりとても共感。ついでに言えば、「向こう側の見えない世界」との対話コードが凝縮されたものが霊性に関わる文化だという主張は「スリランカの悪魔払い」以降、一貫してますね。

でも、その対話・交流コードがだんだんと弱まっているのが日本の問題の、大きなひとつじゃないのかな、というのが2人の共有された認識ですね。(たぶん)

死後の世界には2つあるのだろう。ひとつめは、いわゆる自分が死んでから遭遇するかもしれない死んでからの「世界」。ふたつめは、自分、あるいは自分の集合である現世代が次の、そして次の次の・・・世代へ残す「世界」です。

まあ、ひとつめの世界は、無難に不可知論(agnosticism)の立場をとっておけば、目をそらすことができます。でも、ふたつめの世界から逃げるためには不可知論はとりずらいですね。

いずれにせよ、どちらの世界も「自分」には見えません。見えないから実在しないと切り捨てることは容易でしょう。ここで、筆者は福島第一原発を議論の俎上に乗せています。

見えないものを見る力が想像力です。瑞々しい感受性をはたらかせて「向こう側からの呼びかけ」を受信して「狭い世界の中の合理性に従って自明な行動を繰返すのではなく、その閉じた世界からではなく、より広い世界から投げかけられてくるメッセージを聞き取る」(p165)ことが、実に、実に大事なんだろう。

これが、「生きる覚悟」ということなんでしょう。

        ***

サインしてもらった裏表紙には、「覚悟を生きる」とあった。

「生きる覚悟」⇔「覚悟を生きる」

はてな?

生きる覚悟とは、ふたつの向こう側の世界と自分を自覚的に、かつ勇気をもって接続すること。そして、覚悟を生きるとは、そのような世界(観)のなかで当事者として、まわりのいろいろな出来事や人々と絆を分かち合って寄り添うことなのだろう。

この構えこそが、現代日本という狭隘な閉鎖系で受ける同調圧力を陶げることになるのだろう。

今度会った時にでも本人に聞いてみたい。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿