そう言って深々とお辞儀をして見せると、ヘイルの顔には、私がからかっているのかどうなのか決めかねているような、怪訝な表情が浮かんだが、すぐに、彼がつねづねいうところの「警官の威信」とやらのいくばくかは、いますぐこの場で一部始終を知りたい、という願いの前に崩れ落ちたのである。つまり、私は我が友ヘイル君の好奇心をうまくかきたてたというわけだ。彼は眉根を寄せて話に聞き入っていたが、たまりかねて「そんなことが!」と叫んだ。
「この若い男が水曜日の午後六時に私のところへ二度目に五シリングを取りに来るのです。だからあなたをこうやって話を持ちかけているんです。あなたが制服姿ですわって待ちかまえているところに彼がやってくる、私が知りたくてたまらないのは、いきなり警官の前にでてしまった、となったときのミスター・マクファーソンの顔です。差し支えなければそのあとに、私に少し尋問させていただきたいのです。スコットランド・ヤード流の、自分を有罪であると思わせないようなやり方ではなく、私たちがパリで採用しているような、自由で気楽なスタイルでやりたいんです。それからこの事件をあなたがたの方へお渡ししますから、あとはお好きなように始末をつけてください」
「よくもまああとからあとからたいしたい言葉が出てくるもんだ、ムッシュー・ヴァルモン」これがこの警官の賛辞の言葉なのである。「かならず水曜日の六時十五分前にうかがいます」
「それまでどうかこの話はだれにもおっしゃらないでください。ぬかりなく取りはからって、マクファーソンを驚かせるんです。それが肝心ですから。水曜の夜までは、この件にくれぐれも手をお出しにならないよう、お願いしますよ」
スペンサー・ヘイルは感服して、黙ったままうなづくばかりだった。私は丁寧に別れを告げた。
健忘症連盟
私の部屋のようなところでは、照明は由々しい問題なのだが、この点電灯というのは、なかなか使い勝手のいいものだった。私はこの電灯の利点を十分に活用することにした。照明を操作して、ある一箇所のみに光が注ぐようにして、それ以外の場所は薄暗くなるようにしたのである。水曜日の夜になると、電灯を調節してドアに向かって最大光量が注ぐようにし、私はテーブルの端の薄暗いところに座った。ヘイルはその反対側、降り注ぐ光を浴びて、一種特別な、彫刻のような面もちは、厳格で誇り高い正義の彫像を思わせた。部屋に脚を踏み入れたらだれでも、照りつける光に目をくらまされ、それから法に則った制服姿のヘイルの巨大な姿が目に入るはずである。
アンガス・マクファーソンは部屋に入ってくると、不意をつかれたのがはっきりと見て取れ、敷居のところで棒立ちになると、巨大な警官を凝然と見つめたままになった。最初、きびすを返して逃げ出そうとしたようだが、彼の後ろでドアが閉じると、おそらく彼にも聞こえたように――私たちみんながその音を聞いた――かけがねがかちりと落ちたのである。彼は閉じこめられたのだ。
「あ、えーと……」彼は言葉につまったらしい。「ウェブスター様にお目にかかりたいのですが」
そう言うのを聞いて、わたしはテーブルの下のボタンに手を伸ばした。その瞬間、私の姿が光に光の中に浮かび出る。私を見て、マクファーソンの表情に陰気な笑みが広がっていき、もっともらしいことを言って、知らん顔でその場をやり過ごそうとした。
「おや、そこにおいででしたか、ウェブスター様。最初は気がつきませんでした」
緊迫した瞬間だった。私はゆっくりと、強い印象を与えようと口を開いた。
「あなたもおそらくはウージェーヌ・ヴァルモンという名前をご存じないわけではありますまい」
彼はふてぶてしくこう応えた。「お言葉ですが、そのような方のお名前は、ついぞうかがったことはございません」
これ以上はないというほどのひどいタイミングで「あははは……」と脳足りんのスペンサー・ヘイルの高笑いが湧き起こり、私が考えに考えて演出したドラマティックな場面を、ぶちこわした。イギリスにろくな戯曲がないのも驚くにあたらない。連中と来たら人生の感動的な場面を愛でる気持ちなど、薬にするほども持ち合わせていないのだ。彼らにはおよそ人生の明暗に際し、生き生きと反応することがない。
「ははは……」ロバがいななくような声をあげて、なおもヘイルは笑い、緊張感に充ちた空気は、一気にありきたりのものに変質してしまった。だが、人間、何をなすべきか。かくなるうえは神の与えたもうた道具を使いこなすよりほかない。私はヘイルのところをわきまえない馬鹿笑いを無視することにした。
「おかけなさい」マクファーソンはわたしの言葉に従った。
「今週、君はセンタム卿のお宅を訪問したね」私は厳しい調子を保った。
「さようでございます」
「そうしてセンタム卿から1ポンド集金した」
「はい」
「1893年の10月、君はセンタム卿にアンティークの飾り脚テーブルを50ポンドで売ったね」
「その通りです」
「先週、君はここに来たとき、ラルフ・サマトリーズの名前を出し、彼はパークレーンに屋敷を構える紳士だと言った。そのとき、君はそれが君の雇い主だとは知らなかったのかね」
マクファーソンは私から眼を離さなかったが、このときは返事をしなかった。私は冷静に言葉を続けた。「君はパークレーンのサマトリーズとトッテナムコート通りのシンプソンは同一人物であることも知っているね」
「はて」マクファーソンは言った。「何をおっしゃっておられるのか見当がつきかねますが、本名以外で商いをやっていくというのは、それほどめずらしいことではございません。別に法律に違反するようなことではないと存じますが」
「もうすぐその法律違反は問題になりますよ、ミスター・マクファーソン。あなたとロジャース、ティレル、それからあとの三人は、このシンプソンという男の共犯だ」
「確かに私たちはおっしゃるとおりあの方に雇われております。共犯とおっしゃられても、通常の事務員と何ら変わるものではございません」
「ミスター・マクファーソン、あなたがたがもくろんだ策略については、私はもう十分にあきらかにしたと思いますよ。いまあなたはスコットランド・ヤードのミスター・スペンサー・ヘイルの立ち会いの下にいます。あなたの自白を聞こうと待っていらっしゃるんですよ」
ここでヘイルの馬鹿が割りこんできた。「だから覚えておくように。君が言うことはすべて……」
「失礼、ミスター・ヘイル」私は急いで遮った。「すぐにこの件はあなたにお渡ししますから、あの約束を思いだして、いまのところはすべて私に任せてください。さて、ミスター・マクファーソン、自白してはいかがです? いますぐに」
「自白ですって? 共犯者ともおっしゃいましたよね?」マクファーソンは見事なほどたくみに驚きを装った。「あなたはずいぶんおかしな言葉をお使いですね、ミスター……、ミスター……どなたでしたっけ。あなたのお名前は何とおっしゃいましたか?」
「ハッハッハッ」ヘイルはまた馬鹿笑いをした。「この方はムッシュー・ヴァルモンとおっしゃるのだ」
「ミスター・ヘイル、お願いします、もう少しでいいんです、この男を私にまかせてください。さて、マクファーソン、何か申し開きはあるかね」
「何の罪も犯していないのに、申し開きの必要があるわけがないじゃないですか。あなたが私どもの商いについて、細かいことをいろいろご存じだとおっしゃりたいんでしたら、それは喜んで認めますし、あまりの的中ぶりに感心したと申し上げましょう。どういう点がご不満なのか、もっとわかるように説明してくだされば、できるかぎりの説明はいたします。誤解があるのはまちがいないのですが、どうにも、もう少し説明していただかなくては、ここに参ります途中と同じ、濃い霧のなかにいるようなものでございますから」
マクファーソンは確かに分別のあるふるまいをしており、意識してやっていたわけではなかろうが、その外交手腕にかけては、私の向かいに体を固くして座っている我が友スペンサー・ヘイルよりも、よほどうわてだった。マクファーソンの声音は穏やかに諭そうとするもので、誤解もまもなく溶けるだろうという意識に怒りも和らげられているようだった。外から見ると、彼の言動は完璧に無実のようで、抵抗しすぎるでもなく、しすぎないわけでもない。だが、私には彼を、もうひとつ驚かすものを用意していた。トランプの切り札とでもいうべきもので、私はそれをテーブルの上に拡げて見せたのである。
「さて」私は大きな声を出した。「この紙は見たことがありますね」
彼はちらりと目を遣っただけで、手に取ろうともしなかった。
「ええ、あります。それは私どものファイルから抜き出されたものですね。私どもはそれを訪問リストと読んでおりますが」
「さあ、マクファーソン」私は厳しい声を出した。「君は自白を拒んでいるが、我々はすべてをつかんでいる。ドクター・ウィロウビィのことも聞いたことはないんだろうな」
「いえ、知ってます。クリスチャン・サイエンスについての馬鹿げたパンフレットを書いている人です」
「その通りだ、マクファーソン。クリスチャン・サイエンスと健忘症についてだ」
「そんなところですね。もう長いこと読んでませんから」
「この教養豊かな博士と会ったことはあるかね、マクファーソン君」
「ええ、ありますよ。ドクター・ウィロウビィはミスター・サマトリーズのペン・ネームですから。あの方は、クリスチャン・サイエンスのような類のことを信じていらっしゃるので、それについて書いていらっしゃるのです」
「ああ、そういうことか。君はそうやって少しずつ自白するつもりなんだな、マクファーソン君。我々には率直に話した方がいい」
「私もちょうど同じことを申し上げようと思っていたんです、ムッシュー・ヴァルモン。ミスター・サマトリーズ、もしくはわたし自身にどんな嫌疑がかかっているのか、もっと簡単に言ってくだされば、私にも何がおっしゃりたいのかよくわかるのですが」
「君の容疑は金銭詐取だ。その罪で著名な資本家もひとかたならず刑務所送りになっている」
スペンサー・ヘイルは太い人差し指を私の前で振り、「チョッ、チョッ、ヴァルモンさん、脅迫は駄目です。脅迫は駄目なんですよ」と言ったが、私は気にも留めず続けた。
(この項つづく)
「この若い男が水曜日の午後六時に私のところへ二度目に五シリングを取りに来るのです。だからあなたをこうやって話を持ちかけているんです。あなたが制服姿ですわって待ちかまえているところに彼がやってくる、私が知りたくてたまらないのは、いきなり警官の前にでてしまった、となったときのミスター・マクファーソンの顔です。差し支えなければそのあとに、私に少し尋問させていただきたいのです。スコットランド・ヤード流の、自分を有罪であると思わせないようなやり方ではなく、私たちがパリで採用しているような、自由で気楽なスタイルでやりたいんです。それからこの事件をあなたがたの方へお渡ししますから、あとはお好きなように始末をつけてください」
「よくもまああとからあとからたいしたい言葉が出てくるもんだ、ムッシュー・ヴァルモン」これがこの警官の賛辞の言葉なのである。「かならず水曜日の六時十五分前にうかがいます」
「それまでどうかこの話はだれにもおっしゃらないでください。ぬかりなく取りはからって、マクファーソンを驚かせるんです。それが肝心ですから。水曜の夜までは、この件にくれぐれも手をお出しにならないよう、お願いしますよ」
スペンサー・ヘイルは感服して、黙ったままうなづくばかりだった。私は丁寧に別れを告げた。
健忘症連盟
私の部屋のようなところでは、照明は由々しい問題なのだが、この点電灯というのは、なかなか使い勝手のいいものだった。私はこの電灯の利点を十分に活用することにした。照明を操作して、ある一箇所のみに光が注ぐようにして、それ以外の場所は薄暗くなるようにしたのである。水曜日の夜になると、電灯を調節してドアに向かって最大光量が注ぐようにし、私はテーブルの端の薄暗いところに座った。ヘイルはその反対側、降り注ぐ光を浴びて、一種特別な、彫刻のような面もちは、厳格で誇り高い正義の彫像を思わせた。部屋に脚を踏み入れたらだれでも、照りつける光に目をくらまされ、それから法に則った制服姿のヘイルの巨大な姿が目に入るはずである。
アンガス・マクファーソンは部屋に入ってくると、不意をつかれたのがはっきりと見て取れ、敷居のところで棒立ちになると、巨大な警官を凝然と見つめたままになった。最初、きびすを返して逃げ出そうとしたようだが、彼の後ろでドアが閉じると、おそらく彼にも聞こえたように――私たちみんながその音を聞いた――かけがねがかちりと落ちたのである。彼は閉じこめられたのだ。
「あ、えーと……」彼は言葉につまったらしい。「ウェブスター様にお目にかかりたいのですが」
そう言うのを聞いて、わたしはテーブルの下のボタンに手を伸ばした。その瞬間、私の姿が光に光の中に浮かび出る。私を見て、マクファーソンの表情に陰気な笑みが広がっていき、もっともらしいことを言って、知らん顔でその場をやり過ごそうとした。
「おや、そこにおいででしたか、ウェブスター様。最初は気がつきませんでした」
緊迫した瞬間だった。私はゆっくりと、強い印象を与えようと口を開いた。
「あなたもおそらくはウージェーヌ・ヴァルモンという名前をご存じないわけではありますまい」
彼はふてぶてしくこう応えた。「お言葉ですが、そのような方のお名前は、ついぞうかがったことはございません」
これ以上はないというほどのひどいタイミングで「あははは……」と脳足りんのスペンサー・ヘイルの高笑いが湧き起こり、私が考えに考えて演出したドラマティックな場面を、ぶちこわした。イギリスにろくな戯曲がないのも驚くにあたらない。連中と来たら人生の感動的な場面を愛でる気持ちなど、薬にするほども持ち合わせていないのだ。彼らにはおよそ人生の明暗に際し、生き生きと反応することがない。
「ははは……」ロバがいななくような声をあげて、なおもヘイルは笑い、緊張感に充ちた空気は、一気にありきたりのものに変質してしまった。だが、人間、何をなすべきか。かくなるうえは神の与えたもうた道具を使いこなすよりほかない。私はヘイルのところをわきまえない馬鹿笑いを無視することにした。
「おかけなさい」マクファーソンはわたしの言葉に従った。
「今週、君はセンタム卿のお宅を訪問したね」私は厳しい調子を保った。
「さようでございます」
「そうしてセンタム卿から1ポンド集金した」
「はい」
「1893年の10月、君はセンタム卿にアンティークの飾り脚テーブルを50ポンドで売ったね」
「その通りです」
「先週、君はここに来たとき、ラルフ・サマトリーズの名前を出し、彼はパークレーンに屋敷を構える紳士だと言った。そのとき、君はそれが君の雇い主だとは知らなかったのかね」
マクファーソンは私から眼を離さなかったが、このときは返事をしなかった。私は冷静に言葉を続けた。「君はパークレーンのサマトリーズとトッテナムコート通りのシンプソンは同一人物であることも知っているね」
「はて」マクファーソンは言った。「何をおっしゃっておられるのか見当がつきかねますが、本名以外で商いをやっていくというのは、それほどめずらしいことではございません。別に法律に違反するようなことではないと存じますが」
「もうすぐその法律違反は問題になりますよ、ミスター・マクファーソン。あなたとロジャース、ティレル、それからあとの三人は、このシンプソンという男の共犯だ」
「確かに私たちはおっしゃるとおりあの方に雇われております。共犯とおっしゃられても、通常の事務員と何ら変わるものではございません」
「ミスター・マクファーソン、あなたがたがもくろんだ策略については、私はもう十分にあきらかにしたと思いますよ。いまあなたはスコットランド・ヤードのミスター・スペンサー・ヘイルの立ち会いの下にいます。あなたの自白を聞こうと待っていらっしゃるんですよ」
ここでヘイルの馬鹿が割りこんできた。「だから覚えておくように。君が言うことはすべて……」
「失礼、ミスター・ヘイル」私は急いで遮った。「すぐにこの件はあなたにお渡ししますから、あの約束を思いだして、いまのところはすべて私に任せてください。さて、ミスター・マクファーソン、自白してはいかがです? いますぐに」
「自白ですって? 共犯者ともおっしゃいましたよね?」マクファーソンは見事なほどたくみに驚きを装った。「あなたはずいぶんおかしな言葉をお使いですね、ミスター……、ミスター……どなたでしたっけ。あなたのお名前は何とおっしゃいましたか?」
「ハッハッハッ」ヘイルはまた馬鹿笑いをした。「この方はムッシュー・ヴァルモンとおっしゃるのだ」
「ミスター・ヘイル、お願いします、もう少しでいいんです、この男を私にまかせてください。さて、マクファーソン、何か申し開きはあるかね」
「何の罪も犯していないのに、申し開きの必要があるわけがないじゃないですか。あなたが私どもの商いについて、細かいことをいろいろご存じだとおっしゃりたいんでしたら、それは喜んで認めますし、あまりの的中ぶりに感心したと申し上げましょう。どういう点がご不満なのか、もっとわかるように説明してくだされば、できるかぎりの説明はいたします。誤解があるのはまちがいないのですが、どうにも、もう少し説明していただかなくては、ここに参ります途中と同じ、濃い霧のなかにいるようなものでございますから」
マクファーソンは確かに分別のあるふるまいをしており、意識してやっていたわけではなかろうが、その外交手腕にかけては、私の向かいに体を固くして座っている我が友スペンサー・ヘイルよりも、よほどうわてだった。マクファーソンの声音は穏やかに諭そうとするもので、誤解もまもなく溶けるだろうという意識に怒りも和らげられているようだった。外から見ると、彼の言動は完璧に無実のようで、抵抗しすぎるでもなく、しすぎないわけでもない。だが、私には彼を、もうひとつ驚かすものを用意していた。トランプの切り札とでもいうべきもので、私はそれをテーブルの上に拡げて見せたのである。
「さて」私は大きな声を出した。「この紙は見たことがありますね」
彼はちらりと目を遣っただけで、手に取ろうともしなかった。
「ええ、あります。それは私どものファイルから抜き出されたものですね。私どもはそれを訪問リストと読んでおりますが」
「さあ、マクファーソン」私は厳しい声を出した。「君は自白を拒んでいるが、我々はすべてをつかんでいる。ドクター・ウィロウビィのことも聞いたことはないんだろうな」
「いえ、知ってます。クリスチャン・サイエンスについての馬鹿げたパンフレットを書いている人です」
「その通りだ、マクファーソン。クリスチャン・サイエンスと健忘症についてだ」
「そんなところですね。もう長いこと読んでませんから」
「この教養豊かな博士と会ったことはあるかね、マクファーソン君」
「ええ、ありますよ。ドクター・ウィロウビィはミスター・サマトリーズのペン・ネームですから。あの方は、クリスチャン・サイエンスのような類のことを信じていらっしゃるので、それについて書いていらっしゃるのです」
「ああ、そういうことか。君はそうやって少しずつ自白するつもりなんだな、マクファーソン君。我々には率直に話した方がいい」
「私もちょうど同じことを申し上げようと思っていたんです、ムッシュー・ヴァルモン。ミスター・サマトリーズ、もしくはわたし自身にどんな嫌疑がかかっているのか、もっと簡単に言ってくだされば、私にも何がおっしゃりたいのかよくわかるのですが」
「君の容疑は金銭詐取だ。その罪で著名な資本家もひとかたならず刑務所送りになっている」
スペンサー・ヘイルは太い人差し指を私の前で振り、「チョッ、チョッ、ヴァルモンさん、脅迫は駄目です。脅迫は駄目なんですよ」と言ったが、私は気にも留めず続けた。
(この項つづく)