hiyamizu's blog

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カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』を読む

2015年09月20日 | 読書2

 

カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』(2015年4月25日早川書房発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

『わたしを離さないで』から十年。待望の最新長篇!
アクセルとベアトリスの老夫婦は、遠い地で暮らす息子に会うため、長年暮らした村を後にする。若い戦士、鬼に襲われた少年、老騎士……さまざまな人々に出会いながら、雨が降る荒れ野を渡り、森を抜け、謎の霧に満ちた大地を旅するふたりを待つものとは――。
失われた記憶や愛、戦いと復讐のこだまを静謐に描く、ブッカー賞作家の傑作長篇。

 

舞台の説明

6世紀、あるいは7世紀の伝説のアーサー王亡き後のブリテン島(現グレート・ブリテン島)。ケルト系のブリトン人のアーサー王はローマ人やゲルマン系のサクソン人を撃退したと伝わる。

 

人口60人ほどの小さな集落で差別を受けて暮らすブリトン人のアクセルとベアトリスの老夫婦は、ブリテン島の岩だらけの丘、荒れた野超えて、別の村に住むという息子を探す旅に出る。

何か大事なことが過去に起きたはずなのに、記憶にモヤがかかっているようで思い出せない。老夫婦も住人もみな、クエリグという雌竜の吐く息のせいで、奇妙な記憶喪失に取り憑かれている。

 

旅の途中で、竜退治に向かうサクソン人の戦士ウィスタンと、呪いの傷を持つ少年エドウィンと出会う。アーサー王の甥である老騎士ガウェインは老いた身に甲冑をまとい、老馬ホレスにまたがり、ドン・キホーテを思わせる。旅の途中でサクソン人の集落や修道院を通過し、竜や鬼、妖精に悩まされる。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

カズオ・イシグロには毎回驚かされる。カフカなみの不条理小説、SF風、と毎回がらりと作風、いや舞台が変わる。そうそう、格式ある家の執事の話などもあった。そして今回はファンタジー小説の趣。

しかし、私は夢想的なファンタジーにはなじめないので、三つ星。

 

舞台はファンタジーだが、テーマは夫婦愛や、負の記憶を消し去るのがよいか、とどめるべきかなのだ。

 

老夫婦は、愛し合い、互いに助け合っているのだが、互いに問題のある記憶が浮かんでは消えていき、不安に駆られる。

在来のブリトン人と東から来たサクソン人の悲惨な戦いが終わり、表面的な平和がもたらされたのは、忘却の力といえる。しかし、雌竜の吐く息が消えると、憎悪と怨恨が姿を現すのだろうか。

カズオ・イシグロが、日本は過去の過ちを忘れ去ろうとしていると感じたことも、この小説を書くきっかけになったと、何かに語っていたような記憶が私にはあるのだが。

 

 

土屋政雄は、英米文学翻訳家。訳書は、カズオ・イシグロの「日の名残り」「わたしを離さないで」、ジョン・スタインベック「エデンの東」など。

 

カズオ・イシグロの略歴と既読本リスト

 

コメント
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