hiyamizu's blog

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須賀敦子『須賀敦子の手紙』を読む

2023年03月27日 | 読書2

 

須賀敦子著『須賀敦子の手紙 1975―1997年 友人への55通』(2016年5月28日株式会社つるとはな発行)を読んだ。

 

須賀敦子の最初の著作が出版されたのは61歳の時、8年後に他界、生前の書はわずか5冊。しかし、没後に書簡、日記などを含む全集8巻が刊行された。

 

最期を看取った妹さんも知らなかった心を許した親友がいた。イタリアで最愛の夫ペッピーノを亡くしてのち、帰国後に知り合ったスマ・コーン(大橋須磨子)、ジョエル・コーンの二人だ。須賀敦子が1957年から亡くなる前年1997年まで二人に書いた55通の書簡を二人は長く保管していて、2014年に妹さんに送られてきた。

 

本書には、その書簡すべての他に、須賀敦子の全集未収録のエッセイ「おすまさんのこと」、須賀敦子の妹・北村良子、コーン夫妻へのインタビュー、作家、批評家の松山巖のエッセイも収録されている。
書簡のほか封筒の表書きなども撮影、掲載し、小さくなるものは別に活字化してある。須賀さんが絵葉書の図柄や書く紙を選ぶのに工夫を凝らしているのもわかる。

 

 

帰国後の須賀は、学問の道から長く離れていたのに大学に戻って論文作成に苦労し、恋に破れ、廃品回収活動にも注力し、多忙だったが、恵まれた立場にはいなかった。

それにしても、私は、他の人が30そこそこぐらいで(おそくとも)経験することを50近くなってやっているのでつくづく「おく手」だなぁと思いますが、これも私は私の歩き方しかできないのだから、仕方がないのだなぁとあきらめの一手。いつか書くようになったほうが、全然書かないよりは、ましでしょう。(p42)

 

須賀がニューヨークへ行ったとき、ジョエルの伯母の家に泊めてもらったが、礼状を出さないままの3年後の詫び状があり(p157)、「手遅れでなければいいのですが」と書いているのが笑える。用事を手早く処理するタイプではなかったのだろうか?

 

須賀さんは信念を持ったかたくなな人だと思っていたが、そう単純ではなさそう。

スマ:なつくんですね。はじめてのところに行ったり、人に会ったときに、すっと受け入れれば、なつく人なんです。

ジョエル:85年夏に、フィレンツェに滞在していた須賀さんを訪ねたら、「もうミラノの時代は終わった。フィレンツェがいい」って言うんです。(p233)

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

須賀敦子のエッセイは、しみじみとした懐かしさ、哀しみ、気品が香る名文で綴られている。だが、本書では、ちょっと怒って見せたり、すなおに気持ちが乗った文章で、わがままを言いながら、相手の気持ちを推し量ったり、気楽に書いた文章でも、息遣いさえ聞こえるような文で、やはり名文家だと思った。
きれいで読みやすい書体そのものを写真で眺められるのもありがたい。
妹さんも「姉があんなにのびのびと書いている手紙は読んだことがありませんでした。構えないで書いていて、しかも姉らしさが全体にあふれていて」と書いている。(p247)

 

 

須賀敦子の略歴と既読本リスト

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