角田光代「予定日はジミーペイジ」白水社を読んだ。
名作と言うわけではないし、感動ものでもないが、角田さんの巧みさで退屈しがちな話が引っ張られて最後まで一気に読みきった。
題名のジミーペイジはレッド・ツェッペリンのリード・ギタリスト兼リーダー。題名は、出産予定日が1月7日でジミーペイジの誕生日と同じ日という意味だ。しかし、Wikipediaでは彼の誕生日は1944年1月9日とある。
最近、本をあとがきから読み始めることが多い。この本の著者によるあとがきによれば、この小説を書くことになったきっかけが面白い。
新聞に、予定日になっても赤ん坊が生まれないという、ごく短い小説を書いた。その後、角田さんの自宅にカードや花がぞくぞく届いた。カードには「ご出産おめでとうございます」とあった。あれは小説であって、角田さんは出産などしていない。
続いて、「出産体験記を書きませんか」という出版社が現れた。「体験はしていません」というと、「では小説を」という流れで、この小説ができた。
あとがきには、角田さんが自分や他人の誕生日が大好きとある。「考えてみれば、毎日が、雨の日も落ち込んだ日も、いつでも誰かの祝われるべき特別な日なのだ。毎日、特別な日を私たちは過ごしている」という趣旨が書いてあった。
なるほどと思い、「明日と言う日は明るい日と書くのね」との歌の文句を思い出した(古っ)。
話は、唐突の妊娠に少しもうれしくなく、自信もない私が、「母親はすばらしい。幸せ」との周囲、世間とのギャップに悩む。母親教室で幸せそのものの他の母親に囲まれ落ちこぼれ妊婦として疎外感を味わったりする。しかし、胎動に驚き、元カレに会って一途に好きだったときを思い出し、子どもは更で生まれてくるのだと悟り、徐々に前向きになっていく。そして、予定日を過ぎて、・・・・
やさしいが、妊娠をただ単純に喜んで、やる気満々の夫や、出てくる人が見事に生き生きと書かれている。起きる細かな出来事も巧みで、角田さんの小説力はすごいと思う。この人はなんでも一応の水準の小説にしていまうのではないだろうか。