hiyamizu's blog

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篠田節子『冬の光』を読む

2022年08月31日 | 読書2

 

篠田節子著『冬の光』(文春文庫、し32-12、2019年3月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えた父。高度成長期の企業戦士として、専業主婦の妻に守られた家庭人として、幸せなはずの人生だった。死の間際に想ったのは愛した女なのか、それとも――四国で父の足跡を辿った次女の碧は、ある事実を知る。家族、男女関係の先に横たわる人間存在の危うさを炙り出した傑作長編。 解説・八重樫克彦

 

次女の碧(みどり)は10日間の休みを利用して、父・康宏が船室内に残した手帳のメモをたどって四国を巡り始める。

なぜか、康宏は巡礼9日目の朝に装束、用具一式を捨て、残り六十数カ所を回っていた。そして東京へ帰る途中のフェリーから姿を消した。常に女性の陰がつきまとう父の秘密を碧は探して旅する。

 

富岡康宏:卒業後、学生運動から足を洗って重工業メーカーに勤め企業戦士になった。55歳で子会社へ出向し、」実父が倒れ定年前に退職して5年の介護の後、東日本大震災のボランティアへ。その後、四国札所八十八カ所を4カ月以上かけて回り終えて結願(けちがん)し、フェリーで東京に向かう途中姿を消し、巡視艇が遺体を発見し、警察は自殺と判断した。
学生運動の中で知り合った紘子とは恋人だった時期もあるが、気になる存在のまま長い時間が過ぎていた。20年の一見平和な結婚生活の中で、康宏は何度か妻を裏切っていた。

笹岡紘子:外交官の娘。硬質な美貌。大学に留まり自身の正義感から闘争を続け、孤高の人となる。処世術も世間一般の常識は通用せず、寛容さが足りずに高貴な非常識さを身に着けたままだった。

美枝子:康宏の妻。小山市の長女・敦子のところに手伝いに行くことが多い。

敦子:康宏の長女。双子の娘の下に男子が産まれた。

碧:康宏の次女。未婚。メーカーの研究所勤務。

秋宮梨緒(りお):康宏が巡礼を途中で助けた白い装束の女性。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

面白く読んだのだが、康宏のフラフラする考え方になじめないのと、紘子との話が長すぎるので三つ星にした。それに矮小化すればしょせん不倫小説だし。

 

紘子は学生闘争時代のままその後も突っ張って生きていて、孤高の高貴さが個性的でキャラが立っている。

 

謎は、(1)紘子と康宏の関係がどんなもので、どうなるのか? (2)なぜ康宏は、装束・道具を捨てて巡礼を続けたのか? (3)なぜ康宏は自殺したのか? だが、(1)は長すぎてダレル。(2)も納得しかねるし、(3)は最後に肩透かし。

 

 

篠田節子の略歴と既読本リスト

 

 

若い住職の言葉:「どんな経緯にあったにせよ、どんな亡くなり方をなさるか、などということは、最後の、最後の、ほんのささいな分かれ道に過ぎないのですよ。ご安心ください。お父様はちゃんと成仏なさっています」(p64)

 

孫の相手を一日して見送ったその夜は、疲労とともにとてつもない虚無感に襲われる。幸福の後ろに、感触も温度も音も何もない深い穴が空いていた。(p288)

 

康宏が連れて来た女性を診た医師は碧に言う。「…お父さんは終着駅を見つけたんです。お父さんは俗世の生活のすべてを捨てた後、身一つになって帰るべきところを探していたんですよ。それで波の間にそんな場所を見つけ、一人で帰っていった。そういうことです」(p314)

 

 

補陀落渡海(ふだらくとかい):那智の補陀洛山寺の住職は60歳ごろになると、小さな「補陀洛渡海船」に乗って帰らぬ旅へと船出した。目指したのは南方海上の観音浄土。

同行二人(どうぎょうににん):太師様に守られて二人で巡拝するという意味。「どうこうふたり」ではない

無財七施(しちせ)の修業:お金が無くてもすぐできる施し。優しいまなざし、手を差しのべる身施(しんせ)。

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