hiyamizu's blog

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久木綾子『見残しの塔』を読む

2012年05月31日 | 読書2

久木綾子著『見残(みのこ)しの塔 周防国五重塔縁起』文春文庫ひ25-1、2012年1月文藝春秋発行、を読んだ。

裏表紙にはこうある。
時は室町中期。宮大工を志願して九州の隠れ里から出奔した青年・左右近(さうちか)。一方、若狭の国から母を尋ねて旅に出たのは、新田義貞の血を引く清らかな姫・初子(はつこ)。国宝・瑠璃光寺五重塔建設に賭ける番匠たち、・・・


500年以上前、若き宮大工が周防国(現山口県)の瑠璃光寺で、五重塔建立という夢を叶える。一方、南北朝の戦いに敗れた新田一族末裔の娘の母を求める旅がからむ。

初出:「文芸山口」2004~2007年連載、新宿書房2008年9月刊



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

登場人物が多く、話が複雑だ。幾つもの話が絡んでいる。宮大工・左右近との絡みが少ない初子の話は別の小説にして、左右近に絞った方がよかったと思う。

人名や大工道具などの事物の名前が当時のまま(?)で書かれており、頭に入りにくい。当時の宮大工の工具、工法などよく調べ、おそらく時代考証などもきちんとしているのだと思うが、一方で読みにくくしているのも事実だ。

しかし、何よりも驚くのは、作者の年齢だ。
若き日に同人誌で活動していた久木氏は、伴侶を亡くして70歳になったとき、山口市にある瑠璃光寺五重塔を見て、その瞬間、塔を作った人たちの物語を書こうと思ったという。さらに「此のふでぬし弐七」と番匠(大工)が墨書した国宝の巻斗(板)に出会い、左右近という若者を心の中に誕生させた。
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解説に櫻井よしこ氏が書いている。
久木氏は取材に14年、執筆におよそ4年、さらに1年を推敲に費やし、89歳のとき、世に問うた。
この本を書くため、保存修理中の岡山県の五重塔に東京から通い、宮大工に1年弟子入りし、月一度新幹線で姫路に通い中世史の講座を5年間受けめ、80歳でパソコンを習い始めた。



久木綾子(ひさぎ・あやこ)
1919年東京生まれ。
1940年比叡山で1年修業後、松竹大船撮影所報道部勤務
1945年結婚
1990年(70歳)文学に戻る決心をして、勉強、取材開始
2008年(89歳)本書出版で作家デビュー
2010年(91歳)『禊の塔 羽黒山五重塔仄聞』


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