辻堂ゆめ著『トリカゴ』(2021年9月30日東京創元社発行)
本書の表紙裏にはこうある。
蒲田署刑事課強行犯捜査係の森垣里穂子は、殺人未遂事件の捜査中に無戸籍者が隠れ住むコミュニティを発見する。そのコミュニティ、通称“ユートピア”のリーダーはリュウ、事件の容疑者ハナは彼の妹だったのだ。無戸籍者を取り巻く状況を知った里穂子は、捜査によって彼らが唯一安心して暮らせる場所を壊してしまうのではないかと苦悩する。だが、かって日本中を震撼させた“鳥籠事件”との共通点に気づき……。辻堂ミステリーの到達点、著者最高の力作!
第24回大藪春彦賞受賞作
名取宏子は、鳥とともにアパートの一室に、養育を放棄し子供二人を数年間、監禁していた(鳥籠事件)。その後、施設に保護されていた被害者の3歳の将太と1歳の桃花が誘拐され、行方不明となった。
森垣里穂子:蒲田署刑事課強行犯捜査係。夫は陽介、娘は結菜。
林部海人:里穂子の相棒の新米刑事。24歳
羽山圭司:警視庁特命捜査対策室刑事。長身、濃い顔。合理主義。尊大。
園村勝代:無戸籍者支援団体代表、政治家
カナウチ食品株式会社(社長は叶内丈)の工場の倉庫に居住する無戸籍者。
ハナ:叶内花を名乗る。無戸籍。恋人の斎藤敏樹への暴行を自供し検察へ送ったが、全面否認し釈放。
リュウ:グループのリーダー。ハナの兄。27歳。
中年男性のテッペイ。中年女性のヨシコ。30歳のタクロー。21歳のルミカと好青年風のアッシの2歳の娘がミライ。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
無戸籍者というテーマでこの小説を貫いていて、生活上の具体的困難例を種々例示して、さらに最後の方では近年改善され始めた法律、運用などについて実例で詳しく説明している。
ハナとリュウの本当の名前、親は誰か、という謎自体が、私には重要なことではないと感じる。また、斎藤敏樹を襲ったのはハナか、それとも別の誰かなのかという謎も、全体からすれば些細な問題と思えてしまう。
里穂子が警察官としてのルールを簡単に破ってまでも無戸籍者に柔軟に対応していて、ペナルティがないのが、不自然。