藤井一至著『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』(光文社新書962、2018年8月30日光文社発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
土は地味だ。その研究者の扱いも、宇宙飛行士とは雲泥の差がある。空港で土とスコップの機内持ち込みを謝絶されて落ち込んでいる大人を見たことがあるだろうか。業務として土を掘っているのに、通報され、職務質問を受けることすらある。やましいところは一切なく、土を掘るのを仕事にしている。何を好き好んで土なんて掘っているのかと思われるかもしれない。家や道をつくるためでもなければ、徳川埋蔵金を捜すためでも……ない。100億人を養ってくれる肥沃な土を探すためだ。(「まえがき」を一部改変)
世界の土はたった12種類。しかし、毎日の食卓を支え、地球の未来を支えてくれる本当に「肥沃な土」はどこにある? そもそも土とは一体何なのか? 泥にまみれて地球を巡った研究者の汗と涙がにじむ、一綴りの宝の地図。
豊富な写真はカラーなので、赤土、黒土などの違いが良くわかる。
文章にはジョークがあふれていて、満腹ぎみになるほど。
第1章 月の砂、火星の土、地球の土壌
「土壌」=岩の分解したものと死んだ動植物が混ざったもの。
「腐植」=生物遺体が細かく分解され腐葉土となり、さらに微生物により腐植となり、一部は粘土と結合する。
「粘土」=直径2μm以下の微粒子。水や酸素や生物の働きがないと岩石は粘土にはなれない。
月には粘土がなく、火星には腐植がない。粘土と腐植のある土、それが地球の土。
第2章 12種類の土を探せ!
第3章 地球の土の可能性
第4章 日本の土と宮沢賢治からの宿題
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
教科書的な土の解説ではなく、著者が世界中を調査した流れにそって世界の土を解説している。土一途な突貫小僧的な土研究者の行動力は冒険を生み、話としては面白く読める。
写真や説明図がカラーで、かつ分かりやすい。
しかし、学術説明書的に全体を説明してから各論に入る説明でなく、あちらこちらにばらけて、話がジグザグに進むので、繰り返しも多くなりわかりにくくなってしまった面もある。
しかし、『バッタを倒しにアフリカへ』の前野ウルド浩太郎氏もそうだが、研究費確保が難しい学術分野のポスドクは、よほど破天荒なバイタリティーで突き進まないと研究継続が難しいという状況にあるのだろう。日本の直接的に社会に役に立つことがない基礎研究の将来が心配だ。
その困難さが、これらの著者の行動力を生み出してはいるのだが、おとなしく地道は研究者は生きていけないのか!
藤井一至(ふじい・かずみち)
1981年富山県生まれ。土の研究者。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員。
京都大学農学研究科博士課程修了。博士(農学)。
京都大学研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、現職。
カナダ極北の永久凍土からインドネシアの熱帯雨林までスコップ片手に世界各地、日本の津々浦々を飛び回り、
土の成り立ちと持続的な利用方法を研究している。
第1回日本生態学会奨励賞(鈴木賞)、第33回日本土壌肥料学会奨励賞、第15回日本農学進歩賞受賞。
著書に『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』(山と溪谷社)など。