hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

平野啓一郎『ある男』を読む

2019年03月15日 | 読書2

 

平野啓一郎著『ある男』(2018年9月30日文藝春秋発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。

宮崎に住んでいる里枝には2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。ある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。

悲しみにうちひしがれた一家に「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実がもたらされる……。

 

第70回読売文学賞受賞作品。

 

武本里枝は、横浜で結婚し、長男・悠人と次男・遼に恵まれたが、次男は2歳で亡くなり離婚し、宮崎の実家へ戻り、谷口大祐と称する男と出会い、再婚。娘・花が生まれ、4人で幸せな生活を送っていたが、谷口が林業の仕事中に事故で亡くなる。谷口は実家とは縁が切れたと言っていたが、連絡し、駆けつけた谷口の兄・恭一は写真の男は弟ではないと言う。

「谷口大祐」は戸籍上存在し、免許証、保険証を持っていて、婚姻届も出した。また、この男(Xとする)が語った過去は、大祐本人の過去とおおよそ一致していた。

城戸章良:弁護士。在日三世で日本国籍。3歳下の妻・香織はOLで、4歳の颯太という息子がいる。

後藤美涼:谷口大祐のかっての恋人。ウエブデザインの仕事をし、夜はバーを手伝う。

 

 

平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)

1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。京都大学法学部卒。

1999年在学中に『日蝕』で第120回芥川賞を受賞。

2004年、文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在。

2008年から、三島由紀夫文学賞選考委員。

2009年以降、日本経済新聞の「アートレビュー」欄を担当。

2014年、フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。

小説は、『葬送』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』(芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞)、『ドーン』(ドゥマゴ文学賞受賞)、『かたちだけの愛』、『空白を満たしなさい』、『透明な迷宮』、『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞)

エッセイ・対談集『私とは何か 「個人」から「分人」へ』、『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』等。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

この人生を生きている自分とは、本来の自分なのか、などと考えさせてくれる。極端に違う環境に育っても、戸籍という殻を脱いだら、まったく違う自分になれるのだろうかなど考えさせてくれる。

城戸の在日という出自の問題や、いつまでも赤の他人のために何かしようとする夫が理解できない妻の香織とのずれ、などの問題が絡み合い、著者の筆力もあり考えさせる良い本になっている。

 

しかし、ストーリーは複雑で、Aが戸籍交換でBにさらにCになど、複雑で途中で混乱する。Aが実はBだったというたぐいの話は、楽しく読み進められないのでやめてほしい。

 

城戸が調査中に知り合う美凉が、ためらう城戸をよそに、反ヘイトデモに軽々と参加してしまうなど「いいね!」。

「わたしの人生のモットーは“三勝四敗主義”なんです!」……「わたし、こう見えても、ものすごい悲観主義者なんです。――真の悲観主義者は明るい!っていうのが、わたしの持論なんです。そもそも、良いことを全然期待していないから、ちょっと良いことがあるだけで、すごく嬉しいんですよ。」

 

 

衒気:げんき。自分の才能・学識などを見せびらかし、自慢したがる気持ち。

 

 

 

以下、ネタバレ

 

 

 

 

小見浦(こみうら):戸籍交換を仲介するブローカー。「交換じゃなくて、身元のロンダリングですよ。」

城戸が偶然見た死刑執行されていた小林謙吉の描いた絵が、里恵に見せてもらった「X」の描いた絵によく似ていた。小林謙吉の息子が誠で、小林の離婚後は母の旧姓となり「原誠」となった。原誠こそが「X」だった。原はボクシングで新人王になる直前に華々しい立場に立つことを避けて失踪した。殺人犯の子どもとして過酷な人生を歩み、自分の過去を捨てるために戸籍交換した。

 

原誠(=「X」):曽根崎義彦と戸籍交換し「曽根崎義彦」となり、さらに戸籍交換し「谷口大祐」に。

曽根崎義彦:やくざの子供。原誠と戸籍交換し「原誠」に、さらに田代と戸籍交換して「田代昭蔵」に。

田代昭蔵:知的障害者。曽根崎義彦(=「原誠」)と戸籍交換し、「原誠」となった。

谷口大祐:「曽根崎義彦」(=「X」)と戸籍交換し、「曽根崎義彦」になった。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする