柚月裕子著『パレートの誤算』(2014年10月20日祥伝社発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
念願の市役所に就職がかなった牧野聡美は、生活保護受給者のケアを担当する事になった。 敬遠されがちなケースワーカーのという職務に不安を抱く聡美。先輩の山川は「やりがいのある仕事だ」と励ましてくれた。その山川が受給者たちが住むアパートで撲殺された。受給者からの信頼も篤く、仕事熱心な先輩を誰が、なぜ? 聡美は山川の後を引き継いだが、次々に疑惑が浮上する。山川の知られざる一面が見えてきたとき、新たな惨劇が……。
不満を漏らす聡美に、山川は理想を語る。しかし、その山川が訪問先のアパートの火災で死体となって発見された。そのアパートには暴力団員が出入していて、詳細なケースワーク記録を残していた山川がそのことには触れていなかった。超高価な腕時計を集めていたことなどから、聡美に「山川は果たして?」と迷いが生じる。
生活保護不正受給の可能性を調べるべきだという小野寺にこ同調し、聡美たちは問題のアパートの受給者を調査し、ケースワークし始める。
初出:月刊誌「小説NON」2012年4月号~2014年2月号に隔月連載したものを加筆・訂正。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの?)(最大は五つ星)
生活保護費の不正受給は話題になりがちだが、率としては非常に少なく(1%以下だという)、より取り上げるべきは、保護を受けるべき多くの人が保護されていないという問題の方だと思う。それなのに、話題の種が多いからといって、生活保護費に蟻のように群がる人間たちの方を面白おかしくとりあげる姿勢には反感が湧く。
本書は、結論から言っても安直な生活保護批判ではないのだが。
聡美のお馬鹿さにはうんざりする。生保受給者に同情してお金を立て替えるとは、受給者の自立を促す目的に反し、けっして褒められる行為ではない。小野寺のことをまったく理解していないし、オッチョコチョイ過ぎる。
パレートの法則はたしかに、どんな社会、組織でも上部20%の人々で支えられていて、80%はお荷物という意味なのだが、その上部20%の人々だけを集めて組織を作ると、その組織の80%の人々は働くなるという。もともと絶対的に出来る人はいなくて、「俺は出来る、エリートだ」との思い、評価があると、必死に働くということに過ぎないのではないだろうか。要するに、下部の80%の人々が上部を作っているとも言えるのだ。
「下にいるからと言って私を馬鹿にするな!」と言いたい。
主な登場人物
牧野聡美:主人公。津川市役所福祉保健部社会福祉課(生活保護担当)の臨時職員。
高村:同・臨時職員
小野寺淳一:同・課員
西田美央:同・課員。仕事よりも結婚相手探し。
山川亨:同・主任。社会福祉課8年目の古株。37歳。仕事、とくにケースワークに熱心。
倉田友則:同・課長補佐。
猪又孝雄:同課長
牧野昌子:聡美の母。心臓に持病あり。
牧野亮輔:聡美の兄
若林永一郎:津川署刑事課の警部補。
谷:若林の部下の刑事。
金田良太:聡美の兄・享輔の同級生。地元で有名な不良だった。
生活保護受給者(徳田真、安西佳子、加藤明、安田憲一、白川正志
立木智則:安西佳子の内縁の夫。道和会高坂組系の暴力団員。