道尾秀介著『透明カメレオン』(角川文庫 み39-3、2018年1月25日KADOKAWA発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
ラジオパーソナリティの恭太郎は、素敵な声と冴えない容姿の持ち主。バー「if」に集まる仲間たちの話を面白おかしくつくり変え、リスナーに届けていた。大雨の夜、びしょ濡れの美女がバーに迷い込み、彼らは「ある殺害計画」を手伝わされることに。意図不明の指示に振り回され、一緒の時間を過ごすうち、恭太郎は彼女に心惹かれていく。「僕はこの人が大好きなのだ」。秘められた想いが胸を打つ、感涙必至のエンタメ小説。
桐畑恭太郎(キョウちゃん)は中学生の頃、美声と外見のギャップを笑われ、人と話せなくなりひきこもりになった。母が買ってきたラジオに救われ、ラジオパーソナリティとなった。
放送後いつものようにバー「if」に行くと、輝美ママ、常連のキャバクラ嬢の百花さんがいて、外で「ドン」という何か重い音が聞こえた。害虫駆除会社社長の石之崎さんが入って来て、さっきビルの入り口でヤクザみたいな男に絡まれた話をしていると、びしょ濡れの女の子(三梶恵)が迷い込んできて、「コースター」とつぶやいてママが渡したコースターを掴み、落として、すぐ店を出ていった。百花は「あの娘・・・、殺した、って言ったんじゃないのかな」。翌日入ってきた彼女は「あたしコースターが好きで、知らないバーに入っていろんなコースターを見て回って・・・」という。
ラジオの恭太郎の大ファンだという三梶恵は、美声に似合うイケメンのレイカを恭太郎だと思い込む。そこで、恭太郎はマネージャーになりすましレイカの背後から声だけ出して、三梶恵をだまさざるを得なくなる。
彼女の方にも嘘があって、恭太郎と常連5名は、彼女の考えたいい加減な殺人計画に協力してしまう羽目に陥る。
バー『if』での常連との会話の次に、ラジオ番組『1upライフ』での恭太郎の語り、最後に“実在の曲”紹介が続くという形を繰り返して話は進む。
KADOKAWA発の文芸情報サイト「カドブン」のインタビューに道尾さんが題名の由来を語っている。(本文にも143ページに同様な記述がある)
小学校の友だちで、カメレオンを飼ってるってウソをついてた友だちがいたんです。・・・そいつのうちに遊びに行った。そうしたら、玄関にあった造花のところにカメレオンがいるって言い張るんですよ。「茎に見えるけど、よく見ると尻尾でしょ」って。で、そう思って見ていたら、だんだん本当にカメレオンが見えてきた。いまにも動き出しそうな気がする。信じればそこにいるんだ、と思った・・・。そこから、誰もが胸に大事に抱えている、手放したいんだけど、手放せないものがあるんじゃないか、それが透明カメレオンなんじゃないか、と考えていきました。
本書は2015年1月にKADOKAWAが刊行した単行本を加筆・修正し文庫化したもの。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
話の構成はよくできていて、面白く読める。しかし、三梶恵がどう見ても信頼できず、策略がずさんで、これに乗って危険を冒すとはとても思えない。美人だとついついとなるのだろうか。コメディなんだからとして読むこともできるのだが。
最後の方の後藤との対決もドタバタで現実味がなく、ファンタジー風だ。
登場人物
桐畑恭太郎:ラジオ番組『1 upライフ』のパーソナリティ。ラジオではかっこいいふりをしているが、見た目は野暮ったい34歳。ラジオとバー『if』以外ではまともにしゃべれない。
三梶恵:ラジオの恭太郎の大ファン。24歳。嘘ついて、だまして彼らを利用し、・・・。
百花:キャバクラ嬢で、既婚者のオキタさんと結婚したいと妊娠する。
輝美ママ:バー『if』のオーナーママ。娘がいる。
石之崎:小さな害獣害虫駆除の会社を経営。体格は良いが、痔持ち。
重松:『仏壇の重』の七代目店主。
レイカ:本名は智行。ゲイバーで働くホステス。
餅岡(もちおか):ディレクター。恭太郎の声の魅力に気づき、パーソナリティに推薦。
後藤:悪徳産業廃棄物処理会社の社長。
メモ
恭太郎の部屋で、彼女が「しようか」という。彼は、困惑、狂喜、・・・。しかし、彼女は、長谷寺の写真に印刷された「紫陽花」を眺めていたのだった。
恭太郎は常連の5名の過去の話を面白おかしく、明るい話に脚色してラジオで語っていたが、実は5名はつらい過去を抱えてバー『if』に集まっていたのだった。そして、そんな中、恭太郎も・・・。