阿川佐和子、井上荒野、大島真寿美、島本理生、乃南アサ、森絵都、村山由佳著『最後の恋 Premium つまり、自分史上最高の恋。』新潮文庫 あ-49-4、2011年12月新潮社発行、を読んだ。7人の女性作家が激しい恋の始めとその後を描いた短篇集。
「甘い記憶」大島真寿実
高校生のとき、たががはずれたように抱き合ってばかりの好きな人がいた。別れてしまい泣いて泣いていたら、彼の祖母が言う。「あんたさんも狂いやすい質(たち)とみえる」この先も狂って地獄を見るに違いない。しかし、地獄は案外耐えられる。甘美な記憶が一つあれば。」
「ブーツ」井上荒野
ロック仲間のひとりがやめて旅館の婿になるという。「そのブーツ、ふみつけられたいほどかっちょいいよ」という男に、「あとでやってあげるわよ」と言い返す。
「ヨハネスブルグのマフィア」森絵都
40歳を前にしてもみくちゃにされた男と別れて10年。職場の同僚と結婚して、偶然あの場所でまた彼に会う。
「森で待つ」阿川佐和子
夫が出ていったまま長く森で暮らす老女の家に、2番目の妻を名乗る若い女性が現れる。
「ときめき」島本理生
崖から勇敢にも飛び込む青年を海はやさしく包みこみ、月は冷静に語る。
「TUNAMI」村山由佳
大地震により4時間かけて帰宅した女性は、TVで信じられないほど悲惨な津波の様子に圧倒される。しかし、彼女の目下の心配は、17年一緒だった猫の容態が最悪なことだ。そんなときにやってきたのは、この猫を一緒に拾ったモト彼だった。そして彼女は、私がいなければ生きていけない相手の方を選ぶ。
「それは秘密の」乃南アサ
政治家である彼は台風の激しい雨の中、車を運転していて、トンネルの出口で前方の道路が崩れ去っていることに気づく。トンネルの中にも土砂崩れがあって路線バスが埋もれていた。生きていた女性を救出し、そのトンネルの中で、二人は一夜を明かす。閉じ込められた状況での政治家と普通の主婦の心の触れ合い。
初出:「yomyom」vol.14,14,21,18,18,21,15
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
激しい恋そのものより、去った後の話が多い。恋は落ちるものであって、書くものではないということか。現在の恋より、過去の恋の方が心に沁みて書くに値するらしい。
かって我を忘れた恋は、すっかり消えてしまったわけではなく、心の底にくすぶっている。しかし、かっての恋が再び燃え上がることを、その上に積み重なった日々が、苦しく美しかった記憶として抑えこんでしまう。そんな恋の短篇集でした。