綿矢りさ著『かわいそうだね?』2011年10月文藝春秋発行、を読んだ。
デビューから10年、まだ子供と思っていた綿矢さんも、はや28歳。ようやく中篇2作より成る5作目が出版された。
「かわいそうだね?」
百貨店のブランド店で働く28歳の樹理恵(じゅりえ)の恋人は、アメリカ育ちで無口な隆大(りゅうだい)。ところが彼が、元彼女のアキヨが就職できず困っているので自宅に居候させる、ダメというなら樹理恵とは別れる、と言い出す。
彼が好きなのは樹里恵というのだが、ワガママが言えない性分の彼女は迷って・・・。
「亜美ちゃんは美人」
さかきちゃんと亜美ちゃんは高校時代に出会い、大学、社会人、と常に一緒。さかきちゃんはちょっと天然で、自分よりはるかに美人の親友に、常に複雑な思いを持つ。そして卒業して2年後、人からほめられ続けた亜美ちゃんが「初めて本気で人を好きになった」と相手を連れてきた。彼の職業説明は意味不明、チンピラ風で、亜美ちゃんを下僕のごとく扱う。
初出 かわいそうだね?:「週刊文春」2011年2月10日号~5月19日号
亜美ちゃんは美人:「文學界」2011年7月号
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
ダイナミックな筋立てや、奇抜さはないが、ところどころに綿矢さんらしい細かい観察、ささいな心理描写が光り、全体を見下ろす冷静な目で描かれている。物足りなさは残るが、小さな冴と、女性のいやらしさを描いていながらほんわかした雰囲気がある。
「亜美ちゃんは美人」は、美人とそれなりの二人の組み合わせで、昔から良くある話で新味はない。細かな心理描写と、亜美の心をとらえる上っ調子の男性の描写がだけが光る。少女2人を“ちゃん”づけで語る三人称で書いているのだが、文自体はさかきちゃんからの視点だ。ちょっと違和感があるが、こんな試みも面白い。
以下、本筋に関係ない点をいくつか。
7ページほど携帯メールの引用が続くのが今時。また、パンプスの語りがナウイ(??)。
パンプスを買うかどうか迷っているお客に、友達が「うーん。わりとメスっぽい感じ?」という。
これって、表紙の絵にあるパンプスのこと?
樹理恵は英会話の外国人講師に相談を持ちかける。会話の英文のあとに、彼女が理解したとおりのいいかげんな直訳の日本語が並ぶ。 “エックス(ex)”という単語をクリスマスとか十字架とかのことだろうかと解釈したままで、元恋人を指す言葉とは訂正されないままになっている。
これらも、なにか必死で、新しげな表現を探し、雰囲気をだそうとしているようで、綿谷さんを応援したくなる(美人は得)。
まったくベッドシーンは登場しない。「身体を重ねてひさしぶりの彼の肌のぬくもりに愛が深まったのも事実。」とあるだけだ。これも、綿谷さんファンのおじいさんには嬉しい。
綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える』
2010年、『 勝手にふるえてろ』
文藝春秋の特設サイトより
「かわいそうだね?」
樹理恵(じゅりえ):百貨店勤務でしっかり者の28歳。同い年の彼氏・隆大と交際順調だったはずが、彼の家に元彼女のアキヨが転がり込んで以来、悩みが絶えない毎日に。
隆大(りゅうだい):28歳、会社員。アメリカ育ちのため日本語にやや不慣れ。7年間つき合うも帰国後にふってしまった元彼女を助けるため、自宅に受け入れる。
アキヨ:30歳、無職。学生時代から家出同然でアメリカで暮らすが、隆大と一緒に帰国。家賃が払えなくなり、就職活動期間中だけ彼の家に住むことに。
綾羽(あやは):樹理恵の職場の後輩。年下ながら修羅場経験豊富なため、こと恋愛面では頼れる相談相手。隆大&アキヨ・元サヤ説を主張。
「亜美ちゃんは美人」
さかきちゃん:顔のパーツは地味ながら野性的な色気も備えたまあまあの美人。だが「抜群の美人」と並ぶと不利は否めない。高校時代からずっと冷静に亜美ちゃんと友達づきあいしてきた。(私は、最後の最後に坂木蘭と署名があり、“さかき”が苗字だとわかった)
亜美ちゃん:嫉妬や陰口すらはねのけて誰もが夢中になるほど可愛く、居るだけで視線が集まる容姿に恵まれたうえ、性格も悪くない。高校時代からさかきちゃんを「親友」として特別扱いしてきた。
長野さん:さかきちゃんと亜美ちゃんが大学で所属した山岳サークルの幹事長。
小池くん:大学時代に「亜美研究会」なるサークルを一人で立ち上げておきながら、生身の亜美には関心がないと言い切る変わり者男子。卒業後、さかきちゃんに意外な指摘を……。
崇志(たかし):大学卒業後に亜美ちゃんが出会い、「初めて本当に人を好きになった」とまで言わしめる彼氏。だが、紹介されたさかきちゃんは驚愕することに!
デビューから10年、まだ子供と思っていた綿矢さんも、はや28歳。ようやく中篇2作より成る5作目が出版された。
「かわいそうだね?」
百貨店のブランド店で働く28歳の樹理恵(じゅりえ)の恋人は、アメリカ育ちで無口な隆大(りゅうだい)。ところが彼が、元彼女のアキヨが就職できず困っているので自宅に居候させる、ダメというなら樹理恵とは別れる、と言い出す。
彼が好きなのは樹里恵というのだが、ワガママが言えない性分の彼女は迷って・・・。
「亜美ちゃんは美人」
さかきちゃんと亜美ちゃんは高校時代に出会い、大学、社会人、と常に一緒。さかきちゃんはちょっと天然で、自分よりはるかに美人の親友に、常に複雑な思いを持つ。そして卒業して2年後、人からほめられ続けた亜美ちゃんが「初めて本気で人を好きになった」と相手を連れてきた。彼の職業説明は意味不明、チンピラ風で、亜美ちゃんを下僕のごとく扱う。
初出 かわいそうだね?:「週刊文春」2011年2月10日号~5月19日号
亜美ちゃんは美人:「文學界」2011年7月号
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
ダイナミックな筋立てや、奇抜さはないが、ところどころに綿矢さんらしい細かい観察、ささいな心理描写が光り、全体を見下ろす冷静な目で描かれている。物足りなさは残るが、小さな冴と、女性のいやらしさを描いていながらほんわかした雰囲気がある。
「亜美ちゃんは美人」は、美人とそれなりの二人の組み合わせで、昔から良くある話で新味はない。細かな心理描写と、亜美の心をとらえる上っ調子の男性の描写がだけが光る。少女2人を“ちゃん”づけで語る三人称で書いているのだが、文自体はさかきちゃんからの視点だ。ちょっと違和感があるが、こんな試みも面白い。
以下、本筋に関係ない点をいくつか。
7ページほど携帯メールの引用が続くのが今時。また、パンプスの語りがナウイ(??)。
パンプスを買うかどうか迷っているお客に、友達が「うーん。わりとメスっぽい感じ?」という。
・・・あたし、安いコストで作られてるし、デザインもケバいけど、いい男ひっかけたくて~、とパンプスが頭の悪そうな声でしゃべりだし、お客さんがだまって靴から足を抜く。
これって、表紙の絵にあるパンプスのこと?
樹理恵は英会話の外国人講師に相談を持ちかける。会話の英文のあとに、彼女が理解したとおりのいいかげんな直訳の日本語が並ぶ。 “エックス(ex)”という単語をクリスマスとか十字架とかのことだろうかと解釈したままで、元恋人を指す言葉とは訂正されないままになっている。
これらも、なにか必死で、新しげな表現を探し、雰囲気をだそうとしているようで、綿谷さんを応援したくなる(美人は得)。
まったくベッドシーンは登場しない。「身体を重ねてひさしぶりの彼の肌のぬくもりに愛が深まったのも事実。」とあるだけだ。これも、綿谷さんファンのおじいさんには嬉しい。
綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える』
2010年、『 勝手にふるえてろ』
文藝春秋の特設サイトより
「かわいそうだね?」
樹理恵(じゅりえ):百貨店勤務でしっかり者の28歳。同い年の彼氏・隆大と交際順調だったはずが、彼の家に元彼女のアキヨが転がり込んで以来、悩みが絶えない毎日に。
隆大(りゅうだい):28歳、会社員。アメリカ育ちのため日本語にやや不慣れ。7年間つき合うも帰国後にふってしまった元彼女を助けるため、自宅に受け入れる。
アキヨ:30歳、無職。学生時代から家出同然でアメリカで暮らすが、隆大と一緒に帰国。家賃が払えなくなり、就職活動期間中だけ彼の家に住むことに。
綾羽(あやは):樹理恵の職場の後輩。年下ながら修羅場経験豊富なため、こと恋愛面では頼れる相談相手。隆大&アキヨ・元サヤ説を主張。
「亜美ちゃんは美人」
さかきちゃん:顔のパーツは地味ながら野性的な色気も備えたまあまあの美人。だが「抜群の美人」と並ぶと不利は否めない。高校時代からずっと冷静に亜美ちゃんと友達づきあいしてきた。(私は、最後の最後に坂木蘭と署名があり、“さかき”が苗字だとわかった)
亜美ちゃん:嫉妬や陰口すらはねのけて誰もが夢中になるほど可愛く、居るだけで視線が集まる容姿に恵まれたうえ、性格も悪くない。高校時代からさかきちゃんを「親友」として特別扱いしてきた。
長野さん:さかきちゃんと亜美ちゃんが大学で所属した山岳サークルの幹事長。
小池くん:大学時代に「亜美研究会」なるサークルを一人で立ち上げておきながら、生身の亜美には関心がないと言い切る変わり者男子。卒業後、さかきちゃんに意外な指摘を……。
崇志(たかし):大学卒業後に亜美ちゃんが出会い、「初めて本当に人を好きになった」とまで言わしめる彼氏。だが、紹介されたさかきちゃんは驚愕することに!