hiyamizu's blog

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リチャード・ムラー『今この世界を生きているあなたのためのサイエンスⅠ』を読む

2011年03月23日 | 読書2
リチャード・ムラー Richard A. Muller著、二階堂行彦訳『今この世界を生きているあなたのためのサイエンスⅠ』2010年9月、楽工社発行、を読んだ。

カリフォルニア大学バークレー校の「学生が選んだベスト講義」(文化系学生対象)に選ばれた物理学教授の講義をベースにしている。
別冊のⅡ巻は、宇宙空間の利用と地球温暖化。(ゴアの『不都合な真実』は、プロパガンダであり、科学ではない)

原著のタイトルは、"Physics for Future Presidents: The Science Behind the Headlines"で、「未来の指導者のための物理:見出しの裏にある科学」といった意味だろう。
まえがきに
もしあなたが世界の指導者だったら、・・・テロリストが・・・放射能汚染爆弾を仕掛けた、という報告を聞いてから、あわてて科学顧問に電話をかけ、事態の重大さを知るために質問するようでは、あまりにも遅すぎます。


とあるように、原子力に関する基本的知識がなく、問題の重要度、ポイントに感が働かないような政治指導者、マスコミでは困る。例えば、放射性物質が飛び散り体に付いたりすると大変だが、放射線自体は距離を置けば大きな問題にはならない、ということも分からなければ、放射能というだけで、やたら怖がってしまう。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

この本は、センセイショナルなマスコミなどに惑わされないために知っておくべき最低限の科学的知識を講義したもので、現代では必須の知識と言える。

例として、3点を示す。(太字のタイトルは私の捏造)

原子力は知識がないと得体がしれないため、怖がらせるのが簡単
「この本も、あなたの体も放射線を出しています」、「原子炉はダイナマイトのように爆発することはあっても、原子爆弾のように爆発することはありません」これは本当。

スリーマイル島事故では燃料の冷却水がコンクリートの建家に流れだし、水に溶け込んだ放射性ガスが建家内部に満ちて圧力が上がったので、意図的に一部を外気に放出した。しかし、この結果発生したがん患者は計算上1名に過ぎない。住民が測定した放射能は全国平均より30%高かったが、これは現地の土にもともと含まれているウランのためだった。
(私は多分本当だと思うが?)

チェルノブイリ原発事故で、事故の15分後には放射能は最初の値の1/4に、一日後には1/15、3ヶ月後には1%以下に減少した。付近の住民3万人の被爆量は一人当たり平均45レムで、放射線症を誘発するには低く、ガンになる確率が1.8%増えものだった。通常でもガンで死ぬ確率は20%あり、それが21.8%に上昇することになる。つまり、3万人のうち、自然の原因で6000人がガンになり、さらに約500人が放射線のためにガンになることは科学に示せても、住民にストレス、金銭的犠牲を被る避難を強制するか否かは、科学の問題ではない。
(この部分を読むと、福島原発の事故などたいした問題ではないように思えてしまう)

太陽電池実用化の道は遠い
太陽光のエネルギーは1平米当たり1キロワット(約1馬力)で、普通の車を動かすことは未来永劫できない。また、太陽電池の発電効率は約15%で、家庭の電力をまかなうには20平米必要で、コスト的に電池寿命が20年以上必要となる。

エネルギー危機にはCO2を排出するが石炭が有望
石油価格が1バレル50ドル以上に上がれば、石炭から石油を作るフィッシャー・トロプシュ法が現実的となる。アメリカ、中国、インド、ロシアには石炭が豊富に埋蔵されている。



リチャード・A・ムラー(Richard A. Muller)
カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授。マッカーサー・フェロー賞(別名「天才賞」)の受賞者。政府の筆頭顧問を長年務める。米国や英国の多くの特別番組やドキュメンタリーに専門家として出演している。

二階堂行彦(にかいどう・ゆきひこ)
翻訳家。主な訳書に『最新ロボット工学概論』、キティ・ファーガソン『光の牢獄――ブラックホール』など。





以下、私のメモとしての目次

第一講 テロリズム 
1 9・11事件──何が起きたのか? 
*ビル崩壊の主原因は飛行機衝突ではなかった 
*崩壊の主原因はジェット燃料から放出された高エネルギーと高熱 
*大爆発は起こらなかった。起きたのは、高熱による物体の不安定化と鉄骨の湾曲 

2 テロリストと核兵器 
*テロリストが小型核兵器を一から設計・製造できるとは考えられない 
*高純度のウランかプルトニウムを入手しても、優秀な技術者がいなければ製造は不可能 
*北朝鮮の原爆実験は失敗だった。設計の20分の1以下の不完全爆発 
*小型核兵器によるテロが行われても、9・11事件を大きく上回る被害にはならない 
*大型核兵器の製造はテロリストレベルでは不可能 
*核兵器が盗まれ密売された場合の危険性 
*放射能汚染爆弾によるテロは比較的容易。大きな被害にはなりにくい 
*放射能汚染爆弾については、過剰反応が危険 
*真の脅威──ならず者国家による核兵器開発
 
3 バイオ・テロ 
*天然痘テロ──きわめて危険。実行されれば最大の犠牲者は発展途上国の人々に 
*炭疽菌テロ──手紙一通に推定2000万人分の致死量の菌が入っていた 
*炭疽菌テロ──数億人分の致死量の菌がまかれたが、死者は5人だった。なぜか? 
*炭疽菌テロの真相──いくつかのシナリオ 
*バイオ兵器は核兵器より入手・製造しやすく使い方も容易
 
第二講 エネルギー問題

4 エネルギー問題の知られざる真実(1) 
*石油の最大のメリットは、エネルギー量の大きさ 
*ガソリンと食物のエネルギー量比較 
*ガソリンと代替エネルギーのエネルギー量比較。もっとも有望なのはブタノール 
*ガソリンとその他エネルギーとのエネルギー量比較。アメリカの石炭のコストはガソリンの1/20。

 
5 エネルギー問題の知られざる真実(2) 
*エネルギーの「量」と並ぶ重要ポイントは、それが一定時間内にこなせる仕事量(仕事率) 
*馬一頭の仕事率=一馬力=一キロワット(1000ワット) 
*アメリカの総発電量は4500億ワット。10億ワットの大型発電所が450基必要 
*石油に代わるエネルギーを考えるなら、まず現状のエネルギー「用途」とエネルギー「源」を知る必要がある 
*「脱石油」実現の最大の課題は、代替エネルギーのコストを石炭以下に抑えること 

6 太陽エネルギー 
*誤解の多い太陽エネルギーに関する基本的事実 
*ソーラーカーの実用化は未来永劫ありえない 
*家庭用太陽電池普及のカギは、コスト低減と電池の長寿命化 
*太陽電池利用型発電所の成否のカギは、電池のコスト減と特殊材料の確保 
*太陽熱利用型発電所の成否のカギも、やはりコスト減
 
7 石油の終焉? 
*「もうじき石油が枯渇する」は本当か? 
*石炭から石油をつくる「フィッシャー・トロプシュ法」を使えば、石油は数百~1000年以上もつ
 
第三講 原子力
 
8 放射線の基礎知識 
*放射線量200レムの被爆で病気に。300レムなら死亡確率50% 
*ふまえておくべき「閾値効果」 
*放射線を不必要に恐れるべきではない。低レベルの放射線は自然環境の一部 
*放射線とガン──ガンと放射線にはどの程度関連があるのか? 
*チェルノブイリ原発事故──住民三万人が平均45レムを被爆。事故による住民のガン死は約500人 
*住民を避難させたのは正しい選択だったのか? 
*事故によるガン死は推定総計4000人。住民にとってより深刻な、ストレス・喫煙・飲酒によるガンと心臓病死
 
9 放射性物質の基礎知識 
*原子核の爆発により放射線が放出され、放射性物質の「放射性」が「崩壊」していく 
*放射性物質が元のレベルの半分になるまでの時間を「半減期」という 
*半減期が一回過ぎれば放射性物質の危険性は1/2に、10回過ぎれば1000分の1になる 
*原発事故の際にもっとも危険なのは、半減期が中間の長さの放射性物質 
*さまざまな放射性物質と半減期の長短に由来する危険性/利便性 
*放射線で人間が突然変異するとか、チェルノブイリでは先天性欠損症が多く見られるという説は、本当なのか?
 
10 核兵器を知る(1)
*核兵器の三タイプ──ウラン爆弾、プルトニウム爆弾、水素爆弾 
*爆発のカギは「核連鎖反応」──高エネルギーを出す核分裂の連鎖──を起こせるかどうか 
*原子爆弾の誕生──第二次大戦とマンハッタン計画 
*アメリカの原爆製造成功のカギは「臨界質量」を少なくする方法を考案できたこと 
*ウラン型(広島型)核爆弾──構造は単純。比較的簡単につくれる 
*ウラン型(広島型)核爆弾──難しいのは高純度のウラン235の精製・入手 
*ウラン濃縮の二つの方法 
*最新のウラン濃縮法「遠心分離法」。パキスタンから北朝鮮などに供与された 
11 核兵器を知る(2)
*プルトニウム型(長崎型)核爆弾──プルトニウムの抽出・入手は比較的簡単 
*プルトニウム型(長崎型)核爆弾──設計は困難。北朝鮮の実験失敗も不純物による「早すぎる爆発」 
*「早すぎる爆発」の解決策「爆縮」には、著しく高度な技術が必要 
*「爆縮」を成功させられるのは国家レベルの組織。テログループでは無理 
*水素爆弾──「二段階の爆発」で核融合を起こす爆弾 
*水素爆弾の設計を可能にした二つの機密技術 
*水素爆弾の放射性降下物と爆風はきわめて危険 
*史上最大の爆弾──ソ連の水爆 
*実は爆弾は小さいほうが破壊力が大きい 

12 原子力(1) 
*感情論に陥らないために事実の理解が必要 
*核爆弾は核連鎖反応を「一気に」起こす。原子炉は核連鎖反応を「持続的に」起こす 
*核爆弾には高純度(核兵器級)の核燃料が必要。原子炉は低純度(原子炉級)の核燃料でよい 
*多くの人が原子炉は「原爆のように爆発しうる」と考えているが、それはありえない 
*原子炉が「ダイナマイトのように爆発する」ことはありうる。チェルノブイリで起きたのがそれである 
*原子炉内では、ウラン→ネプツニウム→プルトニウムという変換が行われつづける 
*「再処理」とは、廃棄物からプルトニウムを抽出すること。北朝鮮が事前同意に違反して行っているのがこれ 
*高速増殖炉──「原爆のように爆発しうる」タイプの原子炉
 
13 原子力(2) 
*「チャイナ・シンドローム」という仮説──冷却材流出事故による最悪の事態の想定 
*スリーマイル島事故の現実──冷却材流出事故によって実際に起きたこと 
*チェルノブイリ──設計上の欠陥による「反応度事故」(核連鎖反応の暴走) 
*「冷却材流出事故」も「反応度事故」も心配不要。安全なペブルベッド型原子炉 

14 核廃棄物 
*核廃棄物について、反核の立場から考えてみる 
*核廃棄物に関するわたしの見解──地下貯蔵計画を進めるべき 
*プルトニウムの毒性は過大評価されがち。胃から吸収されるという俗説も間違い 
*劣化ウランに関する事実と議論
 
15 核融合制御 
*核融合制御実現のための三つの方法 
*A トカマク核融合炉 
*B レーザー核融合 
*C 常温核融合 


Ⅱ巻 目次
第四講 宇宙空間の利用
16 衛星の基礎知識1
17 衛星の基礎知識2
18 重力を応用したテクノロジー
19 人類の宇宙進出
20 不可視光線による監視
第五講 地球温暖化
21 温室効果
22 証拠1
23 証拠2
24 役に立たない解決策
25 誰にでも実行可能な解決法1
26 誰にでも実行可能な解決法2
27 新しいテクノロジー





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