hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

道尾秀介『月と蟹』を読む

2011年03月21日 | 読書2

道尾秀介著『月と蟹』2010年9月文藝春秋発行、を読んだ。

父をガンで亡くし、鎌倉の海辺の町へ転校してきた小学五年生の慎一は仲間はずれになっている。同じ転校生で両親の愛情を失った春也が唯一の友達で、「ヤドカミ様」と呼ぶ残酷な願い事遊びを考え出す。100円欲しい、いじめっ子をこらしめる、他愛ない儀式が子供たちの切実な願いへと変わり、周りの大人に、やがて彼ら自身にも襲いかかる。
過失で息子と自分の足を失った慎一の祖父と、彼のために母を亡くした少女がからみ、夫を亡くした慎一の母は恋人を作り、気になる少女は親友に笑いかける。
祖父は「お前、あんまし腹ん中で、妙なもん育てんなよ」と言うが、心の闇は次第に大きくなり・・・。

道尾さんは5回目の候補作の本書で第144回直木賞を受賞。

初出:「別冊文藝春秋」2009年11月号~2010年7月号



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

道尾さんが直木賞ねらいで、丁寧な情景描写で雰囲気を出して子どもの世界を描いている。特に何が起こるわけではなく、淡々と進む。子供の頃の哀しい出来事を描いてから、大人になってからトラウマゆえの悲惨な話が始まるいつもの展開かと思ったのだが、そのまま子どもの世界だけで描ききる。

比較的淡々とした小説なのだが、大人の事情に振り回され、いじめや虐待にあって、ヤドカリの気味の悪い遊びの世界へ逃げこんでいく。しかし、だんだんと狂気を強めていく少年達。暗い海辺の町、山の上の秘密の隠れ家、ゆったりと進む事の成り行きが、狂気の世界へ徐々に落ち込んで行く。
少年を心配し、理解しようとする酒好きの義足の祖父が良い味を出している。



道尾秀介の略歴と既読本リスト

コメント
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