hiyamizu's blog

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東浩紀「クォンタム・ファミリーズ」を読む

2010年06月21日 | 読書2

東浩紀著「クォンタム・ファミリーズ」2009年12月、新潮社発行を読んだ。

2007年、小説家で、西洋思想史を専門とする大学教員でもある葦船往人(あしふねゆきと)はある日、彼の娘だという人物からの電子メールを受け取る。それは2035年の世界に暮らす彼の娘からのものだというのだが、彼にはそもそも娘はいない。
翌春、米国へ呼び出され、帰国すると別世界に入り込んでいる。空港のゲートでは、幼年時代のその娘が、妻と並んで出迎えていた。そこには「ぼくの知らない人生の痕跡があった」。
この世界には存在しなかった家族が、交流できないはずなのに量子(クォンタム)コンピュータのネットワークによって相互干渉する。並行世界に生きる家族が、時空の垣根を越えて交錯し、壊れた家族の絆を取り戻そうとする量子家族クォンタム・ファミリーの物語。
三島由紀夫賞受賞作品。



量子力学の多世界解釈では、並行する世界が併存しているが、並行世界間は互いに干渉することがなく、連絡のとりようがない。
しかし、この作品では、2020年代に「ネットワークと並行世界の関係が公的に認められ」、別世界との通信が始まることになっている。我々は一応、なるほどと言って読み進めるしかない。



東浩紀(あずま ひろき)は、1971年東京都生まれ。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。1993年批評家としてデビュー
1998年『存在論的、郵便的』でサントリー学芸賞受賞
2006年東京工業大学世界文明センター特任教授
2010年この本『クォンタム・ファミリーズ』で三島由紀夫賞受賞
著書に『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』『キャラクターズ』(桜坂洋と共著)など多数。

本作品は、「新潮」に2008年5月号から2009年8月号に掲載されたものを大幅加筆修正、改題したものだ。



私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)

批評家東浩紀が単独で書いた初の小説で、三島由紀夫賞受賞ということで読んでみたが、最初からカントだ、ヘーゲルだと出てきて、やたらと難しい哲学の話になる。読み飛ばしながら進むと、量子力学の話になる。このあたりは、私は興味があり多少わかったような気になっているところなので、ふむふむと読む。しかし、
「2023年に、量子回路の数がある閾値を超え、ネットワークの直径が閾値を超え、かつ特殊なタイプの経路が出現すると命題空間全体が量子的に発散してしまう。」

と言ったあたりから、もっともらしく、あやしげになり、やがて、量子脳計算科学なるものが持ち出され、互いに干渉することがないはずの並行世界間がネットと通じてつながることになる。

こんな調子の話を、それでどうしたと読み進んで行くことは可能なのだが、登場人物が何十年かずれている世界間を移動し、名前も変わったりして、それを何回か繰り返すと、もう話の流れを追って行く気力をなくす。



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