中村文則著「掏摸[スリ]」2009年10月、河出書房新社発行を読んだ。
孤独な腕の良いスリがとてつもない闇の男に引きずり込まれていく。クールでありながら、虐待されている万引少年をかばい続ける。絶望しているようでありながら、懸命に生きようとする主人公が魅力的だ。大江健三郎賞受賞作。
著者は、HPで、この作品について、こう言っている。
完全にのめり込んで書き続けて、小説に自分が奪われるような感覚がありました。作者自ら言うのもなんだか妙ですが、これは、僕の代表作です。この小説を書くことができて、本当に良かった。
都会に動く天才スリ師の物語ですが、過去の友人や恋人、売春婦とその子供、僕がこれまでに書いた中で最大の悪の人物である木崎など、様々に登場します。
小説の魅力、本の魅力を、能力の許す限り、最大限に出そうと考えました。純文学ならではの深みを追求しながら、読みやすく、かつ物語としてもスリルのあるもの。文章を次々と読む快感というか、小説でしか味わえない、「文章の快楽」を念頭に置きました。悪だけでなく、温かさ、も今回は意識しました。小説家になって7年が経ち、一つの到達点に来れたように感じています。
・・・
この小説も依頼を受けたのは約5年前で、ようやく完成となりました。
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どこにでもあるような小説はいらないです。僕は僕の小説を書いていこうと、密かに決意した小説でもあります。『その入ってはいけない領域に伸びた指、その指の先端の皮膚に走る、違和感など消えうせる快楽を――』ぜひ読んでみてください。
(ちなみにタイトルの『掏摸[スリ]』は、『スリ』というふり仮名込みのタイトルです。)
都会に動く天才スリ師の物語ですが、過去の友人や恋人、売春婦とその子供、僕がこれまでに書いた中で最大の悪の人物である木崎など、様々に登場します。
小説の魅力、本の魅力を、能力の許す限り、最大限に出そうと考えました。純文学ならではの深みを追求しながら、読みやすく、かつ物語としてもスリルのあるもの。文章を次々と読む快感というか、小説でしか味わえない、「文章の快楽」を念頭に置きました。悪だけでなく、温かさ、も今回は意識しました。小説家になって7年が経ち、一つの到達点に来れたように感じています。
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この小説も依頼を受けたのは約5年前で、ようやく完成となりました。
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どこにでもあるような小説はいらないです。僕は僕の小説を書いていこうと、密かに決意した小説でもあります。『その入ってはいけない領域に伸びた指、その指の先端の皮膚に走る、違和感など消えうせる快楽を――』ぜひ読んでみてください。
(ちなみにタイトルの『掏摸[スリ]』は、『スリ』というふり仮名込みのタイトルです。)
初出は「文藝」2009年夏号
中村文則は、1977年愛知県東海市生れ。福島大学行政社会学部卒。作家になるまでフリーター。
2002年「銃」で新潮新人賞、(芥川賞候補)
2004年「遮光」で野間文芸新人賞、
2005年「土の中の子供」で芥川賞、
2010年本作「掏摸」で大江健三郎賞を受賞。
その他、「悪意の手記」「最後の命」「何もかも憂鬱な夜に」「世界の果て」
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)
ハードボイルド風のエンターテイメント。財布などをスルときの手口やその微妙な感覚を描き切っている。著者は、「純文学ならではの深みを追求しながら、」と言っているが、私はいい意味で、完全なエンターテイメントだと思う。
スリの経験のない私は(当たり前田のクラッカー。きまりきんちゃん、あたりきしゃりき)、読んでいてついついドキドキしてしまう。巻末に著者が参考にしたスリ手口の本、4冊が示されている。小説書くのも大変だ。
悪の帝王、木崎がちょっと大げさで、話に厚みが少ないが、ともかく面白く読める。