柴田元幸著「ケンブリッジ・サーカス」2010年4月、スイッチ・パブリッシング発行を読んだ。
ポール・オースターなどの翻訳で知られる柴田さんのエッセイ集だ。東京、ロンドン、ニューヨーク、オレゴンなどで柴田さんの行動が綴られている。多少の作り話や、多くの妄想が混じっているが、生い立ちや、青年期の放浪?など興味深い話がつづく。
現在の自分が、イギリス留学時代の自分を眺めながら、もし安食堂に入っていたら変っていた人生を夢想する「ケンブリッジ・サーカス」を本の題名にしている。この話は、柴田さんの小説?「バレンタイン」にも出てくる。
「六郷育ち-東京」が面白い。昭和が残る町、六郷には、「あんたのお母さん、元気?」と10年以上前に亡くなった母親のことを会うと必ず聞くボケたおばさんがいる。彼女はだいたいが1960年代から80年代に居る。柴田さんは結局彼女の話に途中で合わせきれず怒らしてしまう。
東京の人は歩くのが早いというが、平均時速3.8kmくらいで、ニューヨーカーは4.7kmほどだという。
(私が初めてニューヨークへ行ったのは、日本にはキャリアウーマンなどという言葉がなかった30年ほど前だ。朝の通勤時、大股で歩き、追いぬいていく女性たちの勢いに驚いた。あっという間に通り過ぎ、そして強烈な香水の香りだけが残った。)
アメリカと日本の子供時代がどう違うかというテーマでの、柴田さんとポール・オースターの対話が面白い。
オースターが初めて自分の小遣いで買った本は「エドガー・アラン・ポー 詩と小説選集」。10歳だった。柴田さんは大学2年まではほとんど漫画のみ。
日本もアメリカも昔は良い公立高校があったが、今は良い教育を受けられるのは高い金を払う私立のみ。今の両国の子どもは、明日は今日よりいいはずだと信じられずに育っていく。
8歳のとき、オースターはかんじんのときに鉛筆を持っていなかったためにウィリー・メイズのサインをもらいそこねた。奇跡的経緯があって、52年後、メイズのサインボールを手にすることになる。
柴田さんと2つ上の兄は、アメリカやイギリスのロックを聞いて育ち、お兄さんは自由を求め、若くして渡米し、市民権をとった。柴田さんは遠くから憧れる以上のことはしなかった。今、二人は会えば、互いに敬意をもち時を過ごすことができる。お兄さんの日本を見る目が年とともに少しずつ良い方に変ってきたという。
初出は、「Coyote」など。東大・本郷キャンパス迷走中は一部書き下ろし
柴田元幸(しばた もとゆき)は、1954年東京生まれ。東京大学教授、専攻現代アメリカ文学。翻訳者。訳書は、ポール・オースターの主要作品、レベッカ・ブラウン『体の贈り物』など多数。著書に『アメリカン・ナルシス』『それは私です』など。『生半可な学者』は講談社エッセイ賞を受賞。村上春樹さんと翻訳を通してお友達でもある。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)
柴田ファンの私自身にとっては、四つ星のお勧めなのだが、一般の人は、少年の頃の自分など幻に出逢うという同じような話にあきるかもしれないと三つ星にした。
この本には、丸っこい柴田さんの字で書いた小さな400字詰め原稿用紙が特別付録として付いている。題名は「夜明け」で、初めて「遠くに来たなあ」と思った小学2,3年生の頃の記憶の話だ。これも柴田ファンには嬉しい。
ポール・オースターなどの翻訳で知られる柴田さんのエッセイ集だ。東京、ロンドン、ニューヨーク、オレゴンなどで柴田さんの行動が綴られている。多少の作り話や、多くの妄想が混じっているが、生い立ちや、青年期の放浪?など興味深い話がつづく。
現在の自分が、イギリス留学時代の自分を眺めながら、もし安食堂に入っていたら変っていた人生を夢想する「ケンブリッジ・サーカス」を本の題名にしている。この話は、柴田さんの小説?「バレンタイン」にも出てくる。
「六郷育ち-東京」が面白い。昭和が残る町、六郷には、「あんたのお母さん、元気?」と10年以上前に亡くなった母親のことを会うと必ず聞くボケたおばさんがいる。彼女はだいたいが1960年代から80年代に居る。柴田さんは結局彼女の話に途中で合わせきれず怒らしてしまう。
東京の人は歩くのが早いというが、平均時速3.8kmくらいで、ニューヨーカーは4.7kmほどだという。
(私が初めてニューヨークへ行ったのは、日本にはキャリアウーマンなどという言葉がなかった30年ほど前だ。朝の通勤時、大股で歩き、追いぬいていく女性たちの勢いに驚いた。あっという間に通り過ぎ、そして強烈な香水の香りだけが残った。)
アメリカと日本の子供時代がどう違うかというテーマでの、柴田さんとポール・オースターの対話が面白い。
オースターが初めて自分の小遣いで買った本は「エドガー・アラン・ポー 詩と小説選集」。10歳だった。柴田さんは大学2年まではほとんど漫画のみ。
日本もアメリカも昔は良い公立高校があったが、今は良い教育を受けられるのは高い金を払う私立のみ。今の両国の子どもは、明日は今日よりいいはずだと信じられずに育っていく。
8歳のとき、オースターはかんじんのときに鉛筆を持っていなかったためにウィリー・メイズのサインをもらいそこねた。奇跡的経緯があって、52年後、メイズのサインボールを手にすることになる。
柴田さんと2つ上の兄は、アメリカやイギリスのロックを聞いて育ち、お兄さんは自由を求め、若くして渡米し、市民権をとった。柴田さんは遠くから憧れる以上のことはしなかった。今、二人は会えば、互いに敬意をもち時を過ごすことができる。お兄さんの日本を見る目が年とともに少しずつ良い方に変ってきたという。
初出は、「Coyote」など。東大・本郷キャンパス迷走中は一部書き下ろし
柴田元幸(しばた もとゆき)は、1954年東京生まれ。東京大学教授、専攻現代アメリカ文学。翻訳者。訳書は、ポール・オースターの主要作品、レベッカ・ブラウン『体の贈り物』など多数。著書に『アメリカン・ナルシス』『それは私です』など。『生半可な学者』は講談社エッセイ賞を受賞。村上春樹さんと翻訳を通してお友達でもある。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)
柴田ファンの私自身にとっては、四つ星のお勧めなのだが、一般の人は、少年の頃の自分など幻に出逢うという同じような話にあきるかもしれないと三つ星にした。
この本には、丸っこい柴田さんの字で書いた小さな400字詰め原稿用紙が特別付録として付いている。題名は「夜明け」で、初めて「遠くに来たなあ」と思った小学2,3年生の頃の記憶の話だ。これも柴田ファンには嬉しい。