ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

どっちがいい?

2012-04-27 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
池田は、あん時の膏を軟膏に変えて、俺の火傷を手当てしようとしたから、
いいって。何でもねぇよ。
「これが何でもない?」池田は強引に俺の腕を引っ掴んで、掌に軟膏を塗って、
気持ち悪ぃ。よく、男の手ぇ撫でられるな。出来りゃ、女の肌の方が…、
「悪いが、俺は、お前でホッとした」
んだそりゃ?
「この手が女のだったら、それこそ…辛い」
“医者はな、いちいち感傷的になってちゃ務まらん”
優男が。それじゃ、ドクターに成れねぇよ。
「ん…」あぁあ、黙っちまった。
一言で、イチイチ、傷付くなよ。これじゃ、
俺の瞼の奥に焼き付いた、全身火傷で死んだ女の話は出来ねぇな。
池田、お前、女にモテんだろ?
「モテてたとして、何の意味がある?」
女嫌いか?
「…の、逆だ」俺の手に、ぐるぐると仰々しい包帯なんて巻きやがって、メシ食えねぇだろ。
お前でも、モノにできない女がいんの?
丁寧に巻かれた包帯を見て、池田に視線を移した。
「亡くなった…らしい」
らしい?
「遺体が、上がらないんだ」
壇ノ浦か。
「あぁ…」あぁ、一人の女に感傷的になっちまって。ダメだこりゃ。密偵務まらねぇな。
女の死に目なんか、合わねぇ方がいいって。
「そうかもな。ただ、一年以上経っても、彼女の死を受け入れられずにいるんだ」
密偵もただの人間だな。
さて、問題です。
女の最期を見せ付けられ、否応なく、死を納得させられる方と、
女の死をあやふやにされ、生きている可能性に泳がされる方と、
どっちがいい?


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