■2014年8月21日(木)~23日(土)
■メンバー:単独
■ルート
【21日】奈良田3:51~大門沢小屋7:13~大門沢下降点10:41~広河内岳11:22~池ノ沢下降~池ノ沢2480m12:16(泊)
【22日】泊地5:42~池ノ沢池6:18~池ノ沢小屋8:25~魚止ノ滝12:33~乗越沢出合13:05(泊)
【23日】泊地4:59~三国沢・農鳥沢二俣6:10~農鳥沢~稜線(2795m)7:36~農鳥岳8:49~大門沢下降点9:28~奈良田14:23
※地形図は一番最後に掲載
【プロローグ】
南アルプスのど真ん中を南北に貫き間ノ岳へ突き上げる大井川東俣の源流は、服部文祥のサバイバル山行の舞台になった場所であり、岳人誌にも何度かルートが紹介されていた。
登攀的な滝もなく、単独なら南アルプスの原始性にどっぷり浸かった泥臭い沢旅が楽しめそうで気になる存在だった。。
問題はこの長い大井川東俣にどこから入るかということ。一つは転付峠を越えて二軒小屋から崩壊した東俣林道を辿るルートがあるが、いかにも冗長で面白みに欠ける。
岳人誌では白根南嶺を越えて池ノ沢を下降するルートと、塩見岳から雪投沢を下降するルートが考えられると紹介されていた。
いずれのルートも、2万5千図には登山道が記されているが、20年ほど前に廃道化したらしい。ちなみに1990年版の昭文社エアリアマップには点線ルートで「道不明瞭」とか「危険」と表示されている。確か私が高校生の頃は普通に歩かれていたような記憶があるが、昭和の時代の台風で東俣林道が崩壊したのと同時に廃れてしまったのであろうか?
廃道とか古道と聞くと妙に心惹かれるものがある。
特に前者の池ノ沢ルートの途中にはかつて「南アルプスの真珠」と謳われた池ノ沢池があるという。
今や訪れる人も稀なこの秘境の池を是非この目で見てみたいということで、白根南嶺を越えて廃道の池ノ沢ルートを下り、大井川源流を辿り白根三山の稜線に再び登りあげる計画が組みあがり、お盆明けの比較的天候が安定した3日間で実行することにした。
【21日】
前日の午後、入山口の奈良田の駐車場で満天の星空を眺めながら車中泊とする。
翌朝4時前、ヘッドランプを点けて大門沢ルートを歩きだす。とにかく今日は標高差2000mを登らなければならないのだ。気温が上昇する前になるべく高いところまで登っておきたい。荷物は極力軽量化してきたが、沢旅には欠かせることができない、ビール1ℓ、バーボン、焼酎各1合とつまみ類はたっぷり担いできた。
大門沢ルートは高校2年の夏合宿で下降したことがあるが、登るのは今回初めて。
とにかく長くてキツイ、修行系というよりも地獄系のルートだった。
かなり疲れてようやくたどり着いた本日の最高点広河内岳。
大井川東俣をはさんで対岸に塩見岳が姿を見せてくれ元気が出た。
山頂から南へ目をやると白根南嶺のなだらかな稜線が笹山に続いており、こちらも魅力的だ。
さて、ここからがいよいよ廃道ルートとなる。
広河内岳から白根南嶺を見ながら池ノ沢の源頭に向かってモレーンと這松のカール状地形を適当にずんずん下降する。
カール状の底には薄っすらと赤ペンキのマーキングやケルンが確認でき、かつてここが道であったことを示していた。
カール状をさらに下ると植生が変わり、ヤブ漕ぎ少々、広河内岳から約1時間で標高2480mのダケカンバの森に着いた。
泊まり場のすぐ近くには池ノ沢の最初の一滴となる湧水があった。
池ノ沢池を泊まり場とするかどうか悩んだが、水場もあるしフラットで気持ちの良い泊まり場であったので今日はここまでとする。
火をおこしてから苦労して担ぎあげたビールでさっそく乾杯する。
至福のひと時だ。
薪はテントの半径10m以内ですべてそろった。
【22日】
今日も快晴の朝を迎えた。
これから現れる池ノ沢池に期待しつつ出発
泊まり場から少し下ると水流が現れたので沢靴に履き替える。
少し下降すると狭い沢から突然平らな空間が現れた。
南アルプスの真珠、池ノ沢池だ。
水は透明で底が見えるほど。直径は70m程度で、かなり大きい。
地図上ではティアドロップのような形をしている。
しばし池畔に座って神秘的な雰囲気に浸っていた。
池から下は水流も多くなり沢の下降となるが猛烈な倒木で荒れていた。倒木をまたいだりくぐったりで結構大変だ。
沢筋をなるべく外して、たまに現れる昔の登山道やケモノ道を辿りながらしばし歩くと、池ノ沢と大井川東俣の出合である広河原に到着した。
広河原の少し高台には池ノ沢小屋がある。20年位前までは管理人がいたそうだが、今はネズミ君に支配されているらしい。
中には囲炉裏があり、薪や食糧がデポされていた。
ここから東俣源流の沢旅がスタートする。
天気は快晴。気持ちの良い風が吹く河原をのんびりムードで歩き始める。
遠くに間ノ岳が見えた。
気持ちのよい流れがどこまでも続く。
いかにもという感じのトロ場だが、大井川東俣は数年前から禁漁区に指定されたので竿は持っていない。
ならば岩魚ウォッチングでも楽しもうかと注意してみたが魚影はあまり見えなかった。
東俣唯一の滝、魚止ノ滝は左から簡単に巻ける。
滝を越えると沢は天国系の渓相に変わり、30分で今日の泊まり場の乗越沢の出合に着いた。
二俣の少し高台にあり、よく整地された優良物件だ。薪も豊富にある。
時間はまだ14時だが、焚火をおこし瀬音を聞きながらビール、バーボン、焼酎と飲み進む。
18時頃から空が暗くなり夕立があった。
【23日】
朝起きると小雨がポツポツと降っていた。天気は下り坂のようだ。本降りになる前に沢を抜けたいところだ。
ヘッドランプを点けて5時に出発する。
今年は残雪が多いせいか、ところどころに雪渓の残骸があった。
この先、厄介な雪渓が出てこないことを祈りつつ先を急ぐ。この先で雨が強くなってきたので雨具上下を着る。
奥の二俣に到着。左は本流の三国沢、右は農鳥沢。今回は農鳥岳を越えるので農鳥沢をつめる。
すぐに水流が消えてハイ松やダケカンバのヤブ漕ぎとなる。農鳥沢を忠実につめると間ノ岳と農鳥小屋の間のトラバース道に出るはずなのだが、トラバース道のある標高2700mを過ぎても道は現れない。
気づかずに過ぎてしまったのか?とにかく上に上に行けば登山道に出るはずなので気にせず登っていくと農鳥小屋と西農鳥岳の間の稜線に出た。どこかで枝沢を間違えてしまったのかもしれないが、ショートカットできたので結果オーライだった。
西農鳥岳から間ノ岳と農鳥小屋。南アルプスの山の大きさが実感できた。
縦走して農鳥岳。ガスで視界なし。
ぐるっと周回して大門沢下降点に戻ってきた。
さあ、ここから奈良田まで長い長い下りが待っている。
標識の下にある鐘を2回勢いよく鳴らして稜線を背にした。