中日春秋
2021年11月13日
<橇(そり)の鈴さえ寂しく響く/雪の広野(こうや)よ町の灯よ>。東海林太郎が歌った戦前のヒット曲『国境の町』はそう始まる。舞台はソ連に近い旧満州の町か。遠い古里と故国に残る人へ、募る思いが歌ににじむ
▼節は<一つ山越しゃ他国の星が/凍りつくよな国境(くにざかい)/故郷はなれてはるばる千里/なんで想いがとどこうぞ>と続く。寒風が吹く季節の異郷の景色が、心に冷たく迫るようだ
▼故郷を離れ、冬が近づく国境の森に今さまよっている人たちは何を思おう。ポーランドに近い旧ソ連のベラルーシ西部の森で、難民数千人が立ち往生している
▼西欧の見方によると、過去にない種類の攻撃が行われているという。ベラルーシが、遠く離れた中東から欧州行きを望んでいる人々を、欧州連合(EU)の一員の隣国ポーランドに送り込もうとしているそうだ。経済制裁を科してきたEUに、混乱をもたらすための「人間の盾」「駒」が難民であると指摘される
▼ポーランドは入国を拒んだ。行き場を失った人々に死者が出たとも報じられている。子どもも多いという難民を材料にした攻撃が本当なら、人道上許されないだろう。他国の星の下、駒になった人に異国の景色はどう映っているか
▼後ろ盾のロシアを含めEUとの関係が緊迫している。寒さは厳しくなっている。難民が凍りつくような目に遭わないことを祈りたい、国境の森である。