しいかのブックトーク

毎月読んだ本や日常の諸々を記録します。

ほかならぬ人へ

2013-04-18 18:56:07 | こんな本読みました

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 白石 一文 著    祥伝社文庫


 
第142回直木賞受賞作。

 帯に「愛の本質に挑む純粋な恋愛小説」とあるので、ちょっとうんざりかなあと思ったらとんでもない、涙がでそうになる感動作である。

 誰でも恋愛の経験があり、世の中の小説・映画・舞台もろもろに恋愛ドラマがあふれんばかりにある。

 この小説は読者の恋愛、人を好きになった時のあの気持を、記憶の奥から引っ張り出し、ゆさゆさと揺さぶりをかけてくるのだ。

 設定や環境や性格は違えど、上手くいったりいかなかったりした過去の体験を思い出さずにはいられない。

 大体、恋愛というのは上手くいったのでは小説にはならなくて、障害や邪魔やトラブルがある事によって気持が高ぶり、読んでいるこちらもやきもきドキドキさせられるのである。

 「ロミオとジュリエット」状態、不倫などがそのいい例であり、この小説でも、自分が好きな相手に想われず、想われない相手に想われてという、うまく噛み合わない恋愛ドラマが進行する。

 互いに両想いであれば、万々歳であり、うまくいくはずであるが、それが除々に上手くいかなくなることがあるのも世の常である。

 そして誰もが知っている。「恋は盲目」

たいした相手でもないのに、何故あんなに好きになったのかしら、と。

好きに理由はないのであり、それはきっと単なる思い込みなのだと思う。

 「ベストの相手をみつける」、これはまさに運だね。

死ぬまでにベストの相手をみつけられるのだろうか、そしてそれはそんなに大切な事?

 解説に「自分の個人的な感情や記憶が呼び起される小説が、絶対的にいい小説だ。」というのがあり、『ほかならぬ人へ』はまさに自分の実体験の「ほかならぬ人」が思い起こされる小説である。

 是非、自分の「ほかならぬ人」に思いをはせてほしい。