しいかのブックトーク

毎月読んだ本や日常の諸々を記録します。

博士の愛した数式

2006-01-20 22:54:13 | こんな本読みました

Hakasenoaishita 小川洋子/著  新潮文庫

 明日、1月21日(土)より映画が公開されるので、それに合わせてUPしようと思っていました。

「僕の記憶は80分しかもたない」という博士。 その博士に合わせて心を砕く優しい家政婦と息子のルート。

登場人物が善人ばかりなので、とても純粋で静謐な物語である。

物語には、色々の数式が出てくる。 数学の苦手な私はいちいち理解できないのだけど、作者の小川氏は、数学者の藤原正彦氏に会ってインタビューしたり、数学の本を読んだりして、この本を書いており、数学という今まで別世界であったものにちょっぴり近づいた、親しみを持ったという感がある。

 前にブックレビューした藤原氏の本にもあった、「フェルマーの最終定理」がここでも出てくる。 一生をこの証明にかける人がいるというのは、すごい事実である。

 友愛数、素数の美しさには、なるほどね、と思い、ちょっとだけ数学に詳しくなった気がしてしまう。

 ところで、主人公の私と、博士の間には、どんな友愛感情があったのだろうと考える。下世話な小説なら、博士と私の間で何かあったりするのだけれど、この小説では、そういうものが全くなく、まことに綺麗な関係なのである。

 そして、それが12年も続いていくという、心と心の結びつき、尊敬、優しさ。

きれいな、きれいな物語である。


語られなかった皇族たちの真実

2006-01-10 14:59:10 | こんな本読みました

Katrararenakatta_1   竹田恒泰 著   小学館

 女性天皇を認めるか、女系天皇はどうか、など論議されている中でのタイムリーな本である。

  昭和21年、戦争で負けた日本は、占領政策により、14宮家のうちの11宮家を臣籍降下した。  残り3宮家は、天皇の直宮である。

 竹田氏は、臣籍降下した旧皇族竹田家の生まれ。

 表紙の写真は、皇籍離脱する宮家のために開かれたお別れ会。

 さすがに、皇族の末裔だけあって、皇室の歴史に詳しい。  戦争時の皇族方の考えや行動など、とても興味深い。

 すごく面白いのは、伏見宮第19代当主邦家親王の話。  32人の子沢山で、その中で11人が成人し、それぞれ宮家を創設。皇族を一気に増やした。

 11宮家が全て邦家親王の子孫というのは、もちろんのこと、昭和天皇の皇后が、伏見宮の傍系である久邇宮の出身であることから、今上陛下以下の天皇ご一家すべてが邦家親王の子孫となる事である。

 そして、この本で、竹田氏が訴えている事は ただひとつ。 

「天皇とは男系によって継承されるものであり、男系によって継承されてきた天皇こそが『万世一系の天皇』である」という事。

 要するに、女系はだめよ、ということで、三笠宮寬仁親王も、文芸春秋2月号に女系反対論を述べているようです。

 この論議については、何もいう事はないのだけれど、感想としては私のような一般庶民からすれば、血筋にこだわる必要がそんなにあるの?と思ってしまう。

血筋にこだわっているのは、当事者の家系だけであって、その他には、何の関係もない。 生まれが純血とか貴いとか、そんな身分差別はない方がいいよ。

 天皇は、血筋正しいから尊敬するわけではなく、人間性の問題だから。

 竹田氏たちは天皇の血を引く人たちだから、「宮家は、天皇家の血のスペア」と言って、女系でなく、自分達が皇位を継ぎたいんじゃないの、とつい穿った見方をしてしまう。

 女系だとお婿さんの家系の血が混ざるというけど、男系だってお嫁さんの家系の血が混ざるんだから、フィフティフィフティだと思うけどね。


4日間の奇跡

2006-01-05 08:50:01 | こんな本読みました

4kakannokiseki  朝倉卓弥 著   宝島社

 映画化されたものを観たいなあと思っていたのに、行けないまま終わってしまった。 

 本は3日間で読んだ。 

第3回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作品。 でもミステリーというのではなく、過去を背負った人間同士が心の癒しを求める物語。

まず、感じたのは、解説にもあったけど、東野圭吾『秘密』と同じ設定じゃない、という事。

 事故で心が入れ替わる、という仕掛け。 でもかつて、大林宣彦監督『転校生』も同じ設定だったよね。 あの時は、なんて斬新な発想!と夢中になったけど。

 けれど、千織の中に真理子が入るという設定は、単なる舞台であって、「心というものが、肉体を離れて存在する」という不思議な事実、脳の未知なる領域について、読みながら一緒に考えてしまうのである。

 浅倉氏は、音楽の知識、脳の知識に精通していて、脳のメカニズムについての薀蓄を、なるほどなるほどと興味深く読んだ。

 倉野医師の奥さんは、植物人間状態であるけれど、生きているといえるのかいえないのか。  

 一体、自分を自分と認識しているものは何なのだろう。 心の主体が脳であっても、自分ではどうしてそうなのかは、解明されていない。  宇宙規模で考えてしまう、壮大な疑問である。

 映画は、きっとピアノの曲がすてきに流れているんだろうな。 DVDが出たら是非観たいと思う。

 


ALWAYS 三丁目の夕日

2006-01-04 23:25:16 | 映画

3cyoumenoyuuhi  暮れも押し詰まった30日に観て来ました。

 この画像は、竜之介とヒロミと淳之介3人でライスカレーを食べているところですが、いい場面です。

 昭和33年が舞台で、この映画作ったのがこの年代を知らないひとばかり、そして、綿密なリサーチの上で、CGで作られたセットというのが、「その時代っぽくありながらう~ん」という風景である。

 三丁目商店街の舞台となっているのが、港区虎ノ門あたりということで、港区生まれの私には、懐かしい風景なのだけれど。 歳がばれちゃうけれど、この年代には幼児期で、記憶はおぼろげ。

 でも、道路があんなに広かったかなあとちょっと疑問。

 とにかく懐かしいのは都電。

 昔の東京は、縦横に都電が走っていて、もちろん都バスもあるけれど、銀座にも新宿にも都電で行かれて、よく利用していました。 廃止直前には渋谷の学校まで、毎日乗っていたので、懐かしさがひとしおあります。

 サラリーマンだった父が、冬と夏のボーナスをもらうと、家族で銀座か新宿に行って、ご飯を食べてくるのです。 クリスマスには、必ず銀座に行ってローストチキンを買い、不二家でクリスマスケーキを買うというのが定番で、銀座のネオンが美しくて、印象に残っています。 

 帰りは、眠くなった私と弟の為、タクシーで帰ろうかということになり、家までタクシーに乗ってうとうとしていました。 

 東京タワーは、港区の誇りで、333メートルという東京いや、世界一のタワーは何かにつけて話題になっていたし、何度か遊びにいきました。

 氷の冷蔵庫、そしてその後の電気冷蔵庫、テレビ、洗濯機と家庭に入ってきたのはこの映画と同じ頃。 きっと一番普及率の高い時代だったのでしょう。

 映画を観ながら、過去のさまざまな事を思い出し、ノスタルジックな想いに浸りました。


海に沈む太陽

2006-01-04 20:53:33 | こんな本読みました
Uminishizumutaiyou

 梁 石日(ヤン・ソギル)著   筑摩書房

  昨年の今頃、梁氏の『血と骨』を読んで衝撃を受け、映画化されたものも観ました。
『血と骨』が凄まじかったから、この小説は、すんなりと読めました。
 
 イラストレーターの黒田征太郎氏の青春時代が下敷だとの事。
 
 妾の子として生まれ、父が死に、貧乏に嫌気がさして家出して、船員から土方、バーテン、デザイン会社、アメリカで白人の召使、そしてニューヨークへ行き、念願のデザイナーとなっていくのだけど、すべてが事実ではなく、フィクションがかなりあるようだけど、主人公の輝雅が、どうなっていくんだろうという期待で読み進んでいった。
 男1匹という言葉があるように、男には、野望があり、地位や富を求める気持がものすごく強いのだなと思う。
いや、女だってそう、人間には、上をめざす欲望があるのである。
 輝雅の生き方は、客観的には危なっかしくて、もっとこうすればいいのにとか自分だったら的に考えるが、感心するのは、どの場面でも精一杯、一生懸命にやっているという事。
 これは、なかなかできない。
意に添わない事をやらされた場合、ふてくされるか、適当にして、早く逃れることを考えるのだけど、輝雅は逃げない。
希望を捨てないで頑張れば、道は開けると示唆してくれている。
 ニューヨークから再び、日本へ行って出直そう、という所で終わっているので、きっと続編が出るはずで、出版を期待している。