しいかのブックトーク

毎月読んだ本や日常の諸々を記録します。

蛙鳴

2011-09-21 18:56:39 | こんな本読みました

Photo_2  

 莫言(ばくげん・モォイエン)/作

 吉田富夫/訳   中央公論社

人民共和国が成立した1949年中国の人口は約5億4千万人だったのが、1981年には10億人の壁を超えてしまった。

そこで、「一人っ子政策」が実施されるが、実際にはこれを遵守するのは難しく中国の大きな問題となっている。

莫言の叔母は故郷の村で産科医を務めた実在の人物である。

それまで村では「取り上げばば」と呼ばれる産科に何の知識もない婆がタオルや鶏卵のお礼ほしさにめちゃくちゃな取り上げをしていた。

妊婦の上に馬乗りになったり、麺棒でお腹を押さえつけたり、腕を膣に突っ込んで子宮ごと胎児をひっぱりだしたりしていたので、妊婦と胎児の多くが亡くなってしまっていた。

そこへ颯爽と現れたのが、産科の勉強をして、科学的知識のある叔母であり、16歳で初めて取り上げをしてから、その腕の確かさから村人の尊敬を集め、4年間で約1600人もの赤ん坊を取り上げ、その後もどんどん助産の数を増やしていく。

けれど、中国共産党に入党して、一人っ子政策開始後は、逆に胎児を葬る立場となる。

計画出産委員会の副委員長として、予定外妊娠を阻止するべく身体を張って活動する。

叔母と自分と親戚と友人の出生から今日までを1人称で書いてあり、文化大革命をはさんで大きく変化する中国の政治と農民の暮らしが描き出される。

書き方が「尊敬する杉谷義人先生へ」という手紙文の形式で綴られるのだが、その杉谷先生のモデルが「大江健三郎」氏ではないかという解説文がある。

大江氏は2002年に莫言氏を訪ね、叔母さんの産婦人科医師にも会い、莫言氏に小説を書く事に興味を示したという。

 ペンネームの「オタマジャクシより」というのがどういう意味かは後半で明らかになるのだが、ネタばれで書いてしまうと「蛙」の子供であり、精子をも意味する言葉なのである。

469ページの分厚い本であるが、面白くてやめられず、どんどん読み進んでしまう。

タイトルの「蛙(ウワ)」は赤ん坊を意味する「娃(ウワ)」と同音であり、中国古代伝説で人類を作ったとされる女媧の「媧(ウワ)」とも同音である。

蛙は嫌いという莫言であるが、「蛙声」は幼い時から耳になじんだものであり、そこから題名が生まれたそうである。

数少ない、過去に読んだ中国文化大革命に関わる本で印象的だったのは『毛沢東の私生活』李志綏(リ・シスイ)著

Photo 

1994年発行。今から7年も前に読んだのだけれど、時の権力者、それらを取り巻く人間の様子を主治医である著者が綴っている。 

毛沢東って、一生のうち一度も歯を磨かなかったんだ、とか女性に目がなく、気に入った女性をすぐ我がものにしていた、とかつまらないことばかりを覚えている。

あとは、『ワイルド・スワン』ユン・チアン著

Photo_3

これもやはり7年位前に読んで印象的だった。

中国の女性3代の歴史がそのまま中国近代史になっている。

文化大革命、中国人の考え方などがこれらの本を読むと少しわかり、私の中で色々な出来事が紐ついていく。


マチルダはちいさな大天才

2011-09-14 18:41:01 | こんな本読みました

Photo

 ロアルド・ダール/著   宮下嶺夫/訳 

 クェンティン・ブレイク/絵   評論社

 公文の英語M教材(大学レベル)に載っています。

 マチルダは4人家族。

インチキ中古車会社経営の父親と、ビンゴが大好きでマチルダを置いていつも出掛けてしまう母親。

5歳年上の普通の兄。

マチルダは1歳半でなめらかに言葉をしゃべり、3歳になる前に字が読めるようになった。

家の中に散らかっている新聞や雑誌をみていて、ひとりでに字を覚えたのだ。

4歳になるともうすらすらと読めるので、本が読みたくなる。しかし、この家には本などなく、母親のクッキングブックだけで、マチルダはこれを暗記してしまう。

父親に本を買ってとねだると、本など必要ない、テレビがあるじゃないかと断られる。

ひとりで村の図書館へ行き、子どもの本をすべて読んでしまい、大人の本も次々と読みこなしてしまう。

親切な司書が本を借りられる事を教えてくれて、家で本を読みふけるようになる。

 こんなに賢い子どもなのに、愚かな両親はマチルダに何の関心も持たず、バカだまぬけだと罵倒するのだ。

 ある日の夕食、家族全員で居間でテレビを観ながら、膝にTVディナー(冷凍でメインや付け合わせなどの料理が一皿に盛られているもの)を載せて食べているとき、マチルダは「ダイニングルームで夕食を食べたい」と言う。

父親は、夕食はTVを観ながら食べるものだと言い切る。

本をたくさん読んで、これは普通の考えではないと知っているマチルダは、腹が煮えくりかえり、父親に小さな復讐をしようと決意する。

・・・ここまでで公文教材が終わっていて、あー我慢できない、続きが読みたい~~~で続きが読みたくてたまらなくなり、図書館で借りて、1時間ほどで読んでしまった。332ページであるが、児童書なので、一気読みできる。

 さて、父親や母親へ罰をあたえることで精神を保っていられるマチルダは、5歳で小学校へ入学。

子供が大嫌いで暴力的な女性校長に賢さと超能力で立ち向かうマチルダ。

唯一の大人の理解者、担任の若く美しいハニー先生。

 読んでいて、ハッと思いだした。

大分以前にTVで放映されていた映画だ!

校長がおさげ髪の女の子の髪をつかんでぐるんぐるんまわして砲丸投げみたいにぶーんと放りなげるシーンを覚えている。

 調べたらその通り『マチルダ』というタイトルで映画化されている。

 作者のロアルド・ダールは「チャーリーとチョコレート工場」の原作者であり、数々の短編や「予期せぬ出来事」などを書いている。

 最後はとってもすてきな結末なのだけど、この本の面白さは、賢い女の子が愚かな大人をやっつける痛快感、いい人と悪い人が極端に描かれているので、感情移入しやすい。

 そして、読書をする大切さ。

本を読むことは、すごいことなんだ、と強く感じられる。