しいかのブックトーク

毎月読んだ本や日常の諸々を記録します。

阪急電車

2011-05-31 14:23:55 | こんな本読みました

Photo 有川 浩

 幻冬舎

 宝塚駅から西宮北口駅までのたった8駅の今津線。

孫を連れた正義感の強い時江、婚約者を後輩に寝とられた翔子、暴力をふるうカツヤに苦しめられている女子大生のミサ、派手なオバさんグループにしかたなくつきあっている康江、女子高生悦子、同じ大学の美帆と圭一、小学生のショウコちゃん、などが互いに知らない間柄でありながら、同じ電車に乗ったことで接点を持ち、からみあう人間模様のドラマである。

 幸せの連鎖、親切の連鎖がここに繰り広げられ、見知らぬ人からの一言に救われたり、新たな決心をしたりするのである。

 読んだらやっぱり映画を観たくなり、ちょうど上映中。

映画はほとんど原作通りで、リアルに今津線や駅の様子を見られるのが嬉しい。

この線を利用している人にとってはたまらない映画だろうなあ。

 難点はひとつ。

翔子が引き出物のグラスが割れたのを駅のゴミ箱に捨てる場面があるが、原作では分別して紙にガラスをくるんで捨てた、とあるのに、映画では紙袋ごとどーんと捨てたこと。

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また、原作にはないが、映画ではいい事を言っていた。

「だれでもやりきれない思いを持っている。それは、死ぬほどではないけれど、誰にも言う事ができずに、ひとりで抱えていなければならないのだ。」


面白南極料理人

2011-05-18 15:47:38 | こんな本読みました

Photo 西村 淳 著

新潮文庫

私たちは、南極というとどんな想像をするだろうか。

この本には可愛いペンギンの絵が和田誠氏によって描かれているが、著者である西村氏が向かったのは、南極の昭和基地から離れること1000キロ、標高3800メートル平均気温マイナス57℃の世界で最も過酷な観測地帯といわれる「ドームふじ観測拠点」なのだ。

ここにはペンギンやアザラシはおろか、どんな生物もウイルスさえ生息できない白い砂漠なのである。

 「第38次南極地域観測隊 ドームふじ」越冬隊は9名で、西村氏はその調理担当。(海上保安庁より参加)

 隊員は気象学者や大気学者、医師、通信社、自動車メーカーなど、各分野のベテランである。

 タイトル通り、この本では料理の話が中心となる。

 この本を読むまで、私は南極の観測隊の方がどんな食事をしているかなど想像したこともなく、漠然と「宇宙食」のような、簡便にできる携帯食をもっていくのかなあと考えていた(お湯を注ぐだけでできる、とかね)。

 けれど、1年間もかの地で生活していくのに、そんな食事では続くわけがなく、まずは食糧調達の記述に驚く。

 肉は松坂・米沢・三田からAUビーフまで、黒豚・いのしし・鴨・馬・七面鳥からチキンまでありとあらゆるもの。

 マグロのトロやヒラメやカツオやありとあらゆる魚類、玉葱・人参・じゃがいも・ニンニクの芽・アスパラ・白菜・芽キャベツ・コーン・絹さや・インゲン・ホウレンソウ・春菊・オクラ・ニラ・かぼちゃ・タケノコ・菜の花・レンコン・ピーマン・長ネギetc.とにかくあらゆる野菜類。

 ビール・ウイスキー・ブランデー・ワイン・焼酎などの膨大なアルコール類。

 卵や牛乳も可能で、おはぎ・柏餅・桜餅・鯛焼き・冷凍ケーキなどの菓子類、つまりは日本で手に入るだけのほとんどの食材を持っていくのである。

 材料が足りないからちょっと買いに行くというわけにいかないので、慎重に吟味するが、それでも買い忘れがあるそうで・・・。

 全部で11トンの飲料や食材をドームへと運びこむ。

 つまりは、日本国内で生活するのとほとんど同じ様な食事、しかも高級食材の豪華なメニューが食卓に並ぶのである。

 宮内庁御用達の米沢牛ひとり1キロのステーキとか、伊勢海老まるごと1匹づつ入った味噌汁、マグロ・カツオ・タコ・イカ・甘エビ・牡丹エビ・ほっき貝を混ぜた「バラちらし」にはキャビア・ウニをトッピング、という具合。

〈ある日の献立〉

 朝食  味噌汁  納豆  漬物  佃煮  ふりかけ  わさび漬け  果物缶詰

 

 昼食  エビチャーハン  海草サラダ  にらと卵の中華風スープ

 夕食  ロブスターカツレツ&バターソース  シシャモ焼き(冷凍大根おろし)  野菜  コロッケ  冷凍ほうれんそうバターソテー

 この他にも誕生会メニューでは

【前菜】  鴨スモーク  カマンベールチーズ  からすみ  ハムの和風マリネード

【小鉢】 花イカのネギ和え

【酢物】 赤貝  冷凍キュウリ  わかめ

【造り】 マグロ 牡丹エビ  しめ鯖  おご  とさか

【焼き物】 小鯛  はじかみ生姜

【揚げ物】 天ぷら(エビ・キス・アナゴ・牛蒡)

【椀物】 鴨南蛮そば

【その他】  赤飯・香のもの

 という家庭料理どころか、高級レストランなみの献立なのである。

 他に屋外での焼き肉やジンギスカンのパーティ、鰻やカニなど、豪華豪華。

 1年もの間、氷に閉じ込められているのだから、「食べる」事だけは力を入れるという考えにはなるほどとうなずける。

 ここでは水が貴重であり、毎日たくさんの氷をとかして水を作るのだ。

 観測や設備などたくさんの大変な作業や仲間との交流が、面白おかしく語られてにやにやしてしまう。

 映画化されて、DVDも出たのでさっそく借りて来て観た。

 原作とはちょっと違う内容ではあるが、充分面白かった。

 ちなみに、この本では1996年11月に出発した話なので、今から15年位前のことで、現在はドームの生活も、もっと進化しているのかもしれない。

http://www.youtube.com/watch?v=TzRvOKLd-kU

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堺 雅人 主演

2009年公開