F・H・バーネット 作 猪熊葉子 訳
堀内誠一 画 福音館古典童話シリーズ 24
『小公子』や『小公女』でおなじみのバーネット作。
『秘密の花園』は翻訳がたくさんでているけれど、これは1979年初版で1996年17刷というロングセラーの名作である。442ページ。
映画や舞台、ドラマにもなっているほど有名で、タイトルだけは知っていて、気になっていたのだけれど、読んでみて、あまりの面白さにのめり込み、1日で読了。
バーネットは、自身も幼いころに父をなくして苦労した経験から「もとは富裕でありながら零落し、けれど再び幸せになる」というパターンの「小公子」「小公女」を書いていて、これも同じ傾向。
バーネットが小説を書いていた1870年後半はイギリスがインドを植民地化していて、「小公女」のセーラのお父さんもインドで成功してお金持ちになっていて、この『秘密の花園』のメリーのお父さんは官吏であるが、やはりインドで豊かな暮らしをしていた、という共通項がある。
現在の私の大人の見方でいうと、植民地搾取して、現地住民を安くこき使っていた成金族という事になるわけで、翻訳された言葉には、現在では使われない人種偏見の言葉がそのままになっている。(他の翻訳は読んでいないけど、きっとこういう蔑視語は使っていないのだろうな)
けれど、そういうものを差し引いてもこれは素晴らしい本であり、堀内誠一氏のさし絵が、鉛筆画でとてもマッチしている。
堀内さんの絵は絵本でよく知っているのに、こういう絵は初めて見た。
さて、ストーリー。
インドで生まれたメリーは、忙しい父、美しいが、社交好きで子供に関心のない母にほっておかれながらも、ほしいものは何でも与えられ、インド人の乳母や召使いにかしづかれながら、わがままいっぱいの自分では何もできない10歳の女の子に成長した。
ある日、コレラが流行して、あっという間に両親が亡くなり、インド人の雇い人達は全員逃げ出して、屋敷にたったひとり取り残されてしまった。
父の同僚に救われて、本国イギリスに渡り、母方の伯父のもとに引き取られる。
荒野に建つ邸は600年前の100部屋もある立派な家であり、敷地もまた広大であった。
けれど伯父も子供に関心がなく、女中頭のメドロックもメリーに関わりたくない様子である。
暖かい部屋と食事や衣服は与えられるけれど、誰にも構われないメリーは召使のマーサの助言で外の庭園を散歩するようになる。
庭師のベンと知り合い、ムクドリから誰も入ってはいけないといわれている「秘密の庭園」への鍵と入口を教えられる。
外へ出るようになったメリーは顔色もよくなり、痩せこけた身体はふっくらとしてくる。
マーサの弟のディッコンは不思議な少年で、動物が彼を慕い、鳥と言葉が通じる。そして誰からも好かれている。
ディッコンと知り合った頃、メリーは、もうひとつの秘密を発見する。
それは、偏屈な伯父に息子がいたことである。
部屋に閉じこもったままの病弱なコリンは、メリーと心を通じるようになり、やがてディッコンと3人で10年間も放ったままの秘密の花園を手入れして、素晴らしい庭に作りあげていく。
この物語には実にたくさんの教えがあり、「外へ出て活動することは健康の源」となること、「たくさん仕事をして、運動すると食欲がわき、食事をおいしく食べられる」こと。
「病気は心がつくるものである」こと。「暗い考えは自分次第で消えていくものである」こと。
つまりは精神が健康なら肉体も健康になるのだ、という事になる。
「小公子」や「小公女」のように最初から「いい子」でない、ひねくれもので、わがままで、思いやりのない子供が主人公というのに最初はとまどいがあるけれど、誰にでも良くなっていく可能性があるのだ、という思想がこの物語のテーマなのではないだろうか。
残念なのは、大人である現在の私としては、なんて教育的なのだろうという穿った見方をしてしまうのだけれど、子ども時代に読んだならもっと単純に楽しめたかなあと思うのである。