しいかのブックトーク

毎月読んだ本や日常の諸々を記録します。

夜市(よいち)

2006-04-27 13:08:00 | こんな本読みました

Yoichi  恒川光太郎 著   角川書店

 子供の頃、迷いこんだ何でも買える夜市。そこは、人間世界とは異なった異次元空間だった。

 何かを買わねば元の世界に帰れないので、裕司は、野球の才能の器を買い、代金に5歳の弟を渡してしまった。

そのことを、ずっと後悔していた裕司は、10年後、再び夜市に行く。 

 弟を買戻しに。 人攫いの店を探して・・・。

 第12回(2005年)日本ホラー大賞受賞作。

 一緒に収録されている、『風の古道』も不思議な感覚のお話。

 目には見えないけれど、異次元とこの世界とはどこかで繋がっている、という気がしてくる。 ありえないのだけど、妙にリアル。

 『千と千尋』の世界を彷彿させる。


2006-04-25 11:02:23 | こんな本読みました

Dan  沢木耕太郎 著   新潮社

 妻の壇ヨソ子さんからの、『火宅の人』について書かれたもの。

 『火宅の人』については、モデルとなった恵子こと入江杏子さんの書いたもの、そしてこのヨソ子さん、それから、なんと壇一雄のお母さんの書いた本もある。

 望まずして、本の中にモデルとして、登場させられて、真実に近い、けれどすべてが真実でない諸々を書かれて、「ちがう、ちがう、それはそうじゃない」と言いたくて、でもじっと我慢していて、やっと「本当はこうなのよ」と言えるようになった、いう気持になった。

 ヨソ子さんという変わった名前の由来も明かされるし、ヨソ子さんから見た壇の姿もありありと描かれる。

 本は、どうしたって、「書く人の御都合主義」で書かれるわけであり、書く人の目からしかみられない。 恵子さんの本もそう。

 ヨソ子さんは、『火宅の人』の桂ヨリ子と、壇ヨソ子は、別のもの、と思おうと努力したようである。「冷たい女」ではないし、「出不精」でもないのだ、と〔本当のこと〕を語っている。

 興味を引いたのは、壇の臨終の際、絶筆となった句『モガリ笛 いく夜もがらせ 花ニ逢はん』の解釈について。

 ヨソ子さんは、このモガリ笛というのは、サンタ・クルスのモガリ笛、または能古島の家で聞こえたモガリ笛、あるいは病室の窓で鳴っていたモガリ笛ではないか、とあえて《恵子と別れた後》の事柄にこじつけている。

 恵子さんの本を読むと、このモガリ笛の「ヒューヒュー」という音は、まさに自分を指している、という。

 本名の久恵さんを、壇は「ヒイさん」と呼んでいたのが、あるときまちがえて「ヒューさん」と呼んでしまった。 けれどこの「ヒューさん」という呼び方が気に入って、手紙にも「ヒューさん」と書いていたと。

 だから、モガリ笛の「ヒュー」は、自分のこと、と書いている。

  これも、それぞれの御都合主義であり、真実は壇一雄だけが知っているのである。

 ヨソ子さんは、さまざまな事があったにもかかわらず、決して壇を嫌いにならなかった。最初に会った時の、颯爽とした印象がいつまでも残っていたから。


白夜行

2006-04-02 16:37:12 | こんな本読みました

Byakuyakou_1  東野圭吾 著    集英社

 TBSでドラマ化され、先日最終回となった。

 小学生が実の父親を殺すという衝撃的な内容に、ドラマに釘付けになり、すぐ原作本をさがしたのだけれど、どこの書店にも置いていない。

 『容疑者Xの献身』で直木賞を受賞した直後だったから、書店には東野圭吾コーナーが平積みで必ずあるのに、である。

 ところが、ある日突然、文庫本の『白夜行』が登場して、大量に置かれるようになった。表紙は、ドラマの主人公雪穂と亮司のアップの顔写真。

 いかにも急いで量産しましたという感じで、上下巻と分冊になっていたので、買うのをやめ、図書館でリクエストして、ちょうどドラマが終わったころ手元に到着。

 原作では事件の起きたのが昭和何年とか西暦何年と書かれていなくて、その当時の世相や出来事で年代を推定するしかけになっている。

 質屋の主人が殺されたのが水俣病など4大公害裁判が結審された時、亮司が高校生で、中年女性に若い男を紹介する商売の頃は、インベーダーゲームのブームの頃で、パーソナルコンピュータは100万もして、外部記憶装置はカセットテープだった。

 江利子が襲われる事件の頃は、ルービックキューブ、亮司は大学には行かないが友人の友彦が大学に入った頃、NECのPC8001が現れ、日本語ワープロをパソコンででき、フロッピーディスクが登場、キャッシュカードの偽造を作る亮司。

 パソコンショップ『MUGEN』の頃はPC88や98の時代で、ファミコンの「スーパーマリオブラザーズ」が爆発的人気で、それに伴い、ゲームの不正コピーや海賊版が出回る。

 栗原典子と亮司の同棲の頃は、チャゲ&飛鳥「SAY YES」がヒットしていた等々、その世相でああ、あの時代ねと思わせる、これまたすごいしかけである。 ドラマでは、何年、と画面にでていたから、この辺が違う点のひとつ。

 ドラマと原作が違うのは当然で、ドラマでは、最初から犯人や動機がわかっていて、その後の二人を追うという展開だったけど、原作では事件が次々に起き、二人の接点も描かれなく、真相が徐々に明らかになっていくのである。

 亮司と雪穂の純粋な愛がテーマという点では、ドラマはうまく描かれていて、泣かせる。けど、原作、絶対に読むべきでおすすめである。

ドラマのサイトはこちら↓

http://www.tbs.co.jp/byakuyakou/

 DVDがでるそうで、なんとDVD買うと、おまけに雪穂デザインの指輪がストラップとしてつくそうな。 指輪だけほしいなあ。