しいかのブックトーク

毎月読んだ本や日常の諸々を記録します。

宇江佐真理さんの本

2010-03-28 11:01:35 | こんな本読みました

『ひとつ灯せ ー大江戸怪奇譚-』  徳間書店

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料理茶屋「平野屋」の隠居、清兵衛(53歳)は、友人甚助に、とり憑かれていた死神を追い払ってもらったことがきっかけで、「百語りの会」に参席するようになる。

出席者は、菓子屋の利兵衛(60歳)、一中節師匠のおはん(30代)、町医者玄沢、論語塾の慧風、奉行所同心反町(そりまち)で、3人の男は30代から40代というところ。

毎月、まわりもちでそれぞれの家で、理屈では割り切れない、世の中の様々な話を語り合う集まりなのである。

 いわゆる、おばけ話と違って、妙に現実味があったりして、微妙なこわさがある。

この「こわさ」は、最後の方にいくほどこわくなり、読み終えた後、とにかく、「こわい」。

人間が「こわい」とおもうのは、自分の「死」であり、それが、この小説の本題なのではないだろうか。

『幻の声ー髪結い伊三次捕物余話』   文藝春秋

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 廻り髪結いという、床をもたず、お客の家に直接上がり髪を結う伊三次(20代半ば)は、 同心「不破」に気に入られ、岡っ引きの手伝いをしている

 髪結い仕事の合間に事件の聞き込みをする。

 江戸の人々の生活がこまやかに描かれ、髪結いの仕事についても、よくわかる。

 芸者お文との愛をからめ、情のある物語が5編。

 選考委員満場一致で、オール読み物新人賞を受賞している。

『深川恋物語』  集英社

Photo_7  6編の短編集。

 恋愛にからむ江戸の庶民の哀歓が描かれる。

 1編目「下駄屋おけい」は、町で2番目の蔵持ち「伊豆屋」のお嬢様。

 近所の下駄屋の幼馴染、巳之吉に想いを寄せている。

 けれど、店の格が釣り合わず、放蕩三昧の巳之吉は、行方不明になる。

 そんな時、浅草の履物問屋からの縁談があり、けいはそれを受けてしまう。

 けれど、巳之吉への想いは断ちがたく、戻ってきた巳之吉に会った途端、縁談が嫌になる。

 自分の想いを貫く「おけい」の強さ、それを見守る周りの人たち。

 悪い人間がでてこなくて、最後がほおっと温かい気持ちになる話である。

 他に「花火職人の信次」、「凧師の末松」、「大工の佐吉」、「乾物問屋手代 久助」など。

 宇江佐さんの時代小説は、どれも江戸が舞台で、江戸っ子の心意気が、さわやかで気持ちよく描かれる。

 人情に厚い人たちが出てくるので、優しい気持ちが伝染して、読後感がとても良い。


子どもの本フェスティバル つづき

2010-03-25 08:42:26 | 行ってきました

 〈子どもの本フェスティバル〉の裏話です。

 写真は、準備中の「子どもの本わくわくマーケット」の様子。

 このコーナーは、 ゲートシティ大崎の中に入っている「文星堂書店」さんが本を売っていて、ここに並べられた本はトーハンが運んできて、売上は、文星堂に入るのだそうです。

 なので、レジには文星堂の社長さんがすわり、お店の方やトーハンの方、そしてJPIC,JRAC,とスペースの割に、大勢のスタッフがいました。

 辞典類だけは、文星堂の本で、終わったらもとにもどし、残りの本はトーハンが持って帰る、というシステムだそうです。

 JPICや、「文字・活字推進機構」からの本もあるのですが、スペースが少なくて、あまり売れなかったようです。

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 このイベントは、東京都と品川区の教育委員会が後援していて、東京23区全部の小学校にチラシを子ども達に配布するよう、JPICから、依頼の電話をしたそうです。

 でも、葛飾区、ほかいくつかの小学校からは「いらない」と言われたそうで、学期末で忙しい小学校では、余計なお仕事を増やしたくないらしいです。

 主催は、JPICや文字・活字文化推進機構の他「JBBY(日本国際児童図書評議会)」。

 協力が日本児童図書出版協会、紙芝居文化の会、アフリカ子どもの本プロジェクト。

 特別協力が、生命保険協会とゲートシティ大崎。

 実に多くの方の力で成り立っていて、会場にいると、いろいろな方の出入りがあり、すごく実感しました。

 

 私たちJRACは、「読書アドバイザー」として、お客さんの読書や選書の相談にのったり、おはなし会をするためとして、派遣されました。

 何人かに「相談」を受けましたが、難問で、満足のいくお答えができなかったものがあったので、ここに載せます。

《質問》

 本の読み聞かせをしている方から。

 若いお母さんから「本の読み聞かせばかりしていると、自分で本を読まなくなってしまうのではないか」と聞かれたが、なんと答えればいいのでしょうか。

 が聞かれたら「そんなことないですよ。今、本をたくさん読んであげていれば、ある程度の年齢になって、自然に自分で読むようになりますから。」と答えてしまいます。

 でも、それじゃダメなんですって。

 だって、「自分で読むようにならない」かもしれない。

 そんな曖昧な答えで、納得するお母さんではない そうです

 教育熱心で、小学校のお受験をめざすようなお母さんなので、もっと「ガツンと論理的に納得させられる言葉」を教えてほしい、との事でした。

 もうひとりのJRACメンバー、Hさんも呼んで、ふたりでお話をきいたのですが、「ガツン」というような説明言葉は知らないのです。

 自分で読むようになるきっかけは、まず、字を覚えて、そして、「いい本」に出会える事であり、私たちの読み聞かせは、そのお手伝いをしている訳なのですが。

 読み聞かせを聞いた子どものうちの何パーセントが、本好きの子どもに成長したという数字もないし、論理的説明は無理。

 直接、そのお母さんから質問をうけているわけでないので、難しいのですが、質問者の方は、納得する答えが得られないまま、帰られました。

 ここからは、私個人の考え。

 つまり、若いお母さんは、わが子を「本好き」にしたい、と思っているわけです。

 読み聞かせをしていて、本好きになる保障が欲しいのです。

 でも、本好きにならなくたって、いいじゃん、と私は思います。

 本読む人が偉いわけではなし、本読まなくても、別の分野が楽しければそれで結構。 本の他にも楽しい世界はたくさんあり、それを自分でみつければいいのです。

 もちろん、本読まないより、読んだ方がずっといいに決まってる。

 子どもというか、ひとりの人間を思い通りにできるわけがない。

 読み聞かせは、「本にふれる環境作り」のひとつだから、過度の期待をかけるようなものではない、と考えます。

 「本は楽しいよ」というメッセージを子ども達に伝えるだけで、その先はそれぞれでいいと思うのです。

〈追記〉

このイベントにはもうひとつ、お部屋があって、アフリカの本や世界のバリアフリー絵本、家族のきずな絵本コンテスト受賞作品の展示。

中川ひろたかさんの絵本ライブ、長野ヒデ子さんとのワークショップ、藤田浩子さんの講演、その他たくさんの企画があり、1日充分楽しめるものでした。


子どもの本フェスティバル

2010-03-22 23:45:29 | 行ってきました

 子どもの本フェスティバル

 3月20日(土)から22日(月・祝)まで、ゲートシティ大崎で「国際子どもの本の日」記念として、行われました。

  地下1階のギャラリーでは、本の展示や講演会があり、ホールでは、子どもの本の販売がありました。

 私は、本の販売のお手伝い。

 お手伝いといっても、レジではなく、本を整理したり、案内をしたり、おはなし会をするのです。

 緑色のエプロンに「JPIC読書アドバイザー」という札をつけているので、いろいろと質問をうけました。

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 ホールは吹き抜けになっていて、広々として開放感があります。

 

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 最終日の今日は、午前中はお客さんが少なかったのですが、午後から大勢になり、紙人形劇「ぞくぞく村のおばけたち」(末吉暁子さん原作出演)の頃は、満席で立って見ている方も多かったです。

 私とHさんは、おはなし会をしました。

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 集まった子ども達は、とてもよく聞いてくれて、手遊びや指人形などもしました。

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 絵本中心の本棚には、ミリオンセラーの絵本やよく売れている本、定番の本などおなじみのものばかり。

 「どこに何の本があるか、案内できるように、場所をよく見ておいて下さい。」と言われて、じっくり本棚をながめ、手にとってみたりして、楽しみました。

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三びきのこぶた

2010-03-16 07:06:08 | インポート

『三びきのこぶた』  イギリス昔話  瀬田貞二  福音館

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今月のおはなし会で、大型絵本「三びきのこぶた」を読んでいます。

 「三びきのこぶた」はさまざまな作家や出版社からでていますが、これが定番といえるもので、瀬田貞二、福音館から出版。

 

「三びきのこぶた」はイギリス昔話で、亜流が多々あり、結末が違うものがたくさんあります。

  

これは、最後におおかみが3番目のこぶたに食べられちゃう話で、「兄さんたちを食べたオオカミを食べるのは共食いではないか」との感想もあります。

 

読むと5分以上かかるので、小さい子が多いおはなし会ではどうかなあ、と心配でしたが、よく聞いてくれました。

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『3びきのかわいいオオカミ』

ユ-ジ-ン・トリビザス/文   こだまともこ/訳

ヘレンオクセンバリ /絵   冨山房

 これは、ぶたが悪役となり、弱くてやさしいオオカミの家を破壊していきます。

 家の破壊シーンがすさまじい。


切羽へ

2010-03-10 19:55:13 | インポート

『切羽へ』  井上荒野  新潮社

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 どこの島とは書いてないけれど、方言からすると、九州地方であろう。

 (調べたら、長崎県崎戸町だそうである。父上の光晴氏、ゆかりの町)

 養護教諭をしているセイと絵を描いている夫。

 島に赴任してきた音楽教師石和。

 セイと石和が惹かれあっているのがよくわかるのに、二人の間には何も進展がない。

 こういうのも恋愛小説というのだろうか。

 タイトルの「切羽へ」は人の名前だと思っていたら、最後に説明があった。

 「トンネルを掘っていくいちばん先を切羽というとよ。トンネルが繋がってしまえば、切羽はなくなってしまうばってん」

 実際の生活の中で、想いがありながら、結ばれない、というのはよくある事であり、これが切羽とどう結び付くのか、すごく考えてしまった。

 奔放な教師、月江や、老人のしずかさんの存在感がすごくあり、印象に残る。

 波乱に身を任せることなく、淡々と島の暮らしをしていくセイ。まっとうすぎて、ちょっと物足りない気がしてしまう。


『雷桜(らいおう)』

2010-03-04 19:58:45 | こんな本読みました

『雷桜』  宇江佐真理  角川書店

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 久しぶりに本を読んで、泣きました。

読むのをやめられず、この世界に浸りきっていました。

何故、涙が出るかというと、「せつなさ」です。

書評を書く時には、「ネタばれしてはいけない。初めて読む楽しみ、発見する喜びを奪ってはいけない」そうなので、ネタばれしないように、紹介します。

 時は徳川11代、家斉の時代。

 艶福家の家斉の17男、斉道は、御三卿のひとつ、清水家の当主である。

 癇が強く、わがままな斉道に家臣は苦労していたが、用人の榎戸は斉道を盛りたてていくべく、もと百姓の助次郎を家臣へ登用する。

 助次郎が殿である斉道の夜伽に、自分の妹「遊」の話を聞かせると、殿はことのほか、興味を示す。

 その話とは、初節句の日、村の庄屋である瀬田家から、何者かに妹が連れ去られ、行方がしれなくなり、10年以上もたってから、家に戻ってきたのである。

山からおりてきた奇態な格好の「遊」に、村人は「狼女」とうわさする。

 山で育った自由奔放な「遊」と斉道は、運命の出会いをするのだ。

 人が奥まで入り込むことのできない瀬田山、その瀬田山に桜が散る場面、田園風景が美しく、目に見えるようである。

 時代小説でありながら、ファンタジーのような物語。

 宇江佐さんの書く人物は、人情にあふれ、気難しい斉道も、本当は心優しい人として描かれる。

 この作品は、今年の秋に、蒼井優主演で映画化されるそうです。

 斉道役は岡田将生。


静子の日常

2010-03-03 21:10:10 | こんな本読みました

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『静子の日常』  井上荒野   中央公論社

 なんてすてきな装丁でしょ。

 天使かなあとおもったけど、よく見ると、これはおばあちゃん(静子)が、プールで泳いでいる様子なのです。

 他にも何人も泳いでいる人がいるでしょ。 この水色はプールの水なのです。

 さて、これほど素敵なおばあちゃまが、一体実際にいるのでしょうか。

 75歳の静子は、家族の心配をよそに、フイットネスクラブに通い、努力して、バタフライで25メートルを泳げるようになるのです。

 家族関係がうまくいくように、さりげない心配りをしている。

 ネットで出会い系にはまっている息子、愛一郎を諌めるため、新聞配達の男の子から、パソコンを習い、簡単に覚えてしまって、息子のパソコンを操作。

 息子が「出会い系の美人」と会っているレストランに、さりげなく居合わせたり、書店で、「出会い系の美人」と出会うはずが、嫁と出会うように策略したりする。

 嫁も息子も、高校生の孫娘も、静子さんには一目おいて、頼っている。

 名前の通り、静かでおっとりしているけれど、しっかりと自分を持った人だ。

 かつての想い人「茗荷谷大五郎」とも、きっぱりとしている。

 立派すぎて、「宇宙人」のような静子さん。

 昔、『コメットさん』というTVドラマがあったけど、静子さんも、宇宙から家族の絆を深めるべくやってきた人、のように思える。

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 井上荒野さんは、作家、井上光晴氏の娘さんで、直木賞作家である。

 「荒野」さんというのは、本名ですって。

 私は荒野さんの絵本『ひみつのカレーライス』が大好き。

 カレーを食べていたら、種が入っていて、それを、お父さんが庭に埋めたら、大きくなって、お皿のはっぱや、福神漬けの花が咲き、大きな実がなる。

 その実を割ると、なんとも美味しいカレーライス(実は2種類あり、ライスとカレーに分かれている)が出てくる、というおはなし。

 これを読むと、カレーが食べたくなる。

 これを読んだだけで、「ただものではない作家」というのがわかった。

 絵はあの「トマトさん」の田中清代。 アリス館から出版。