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黒い仏 / 殊能将之

2005-08-05 17:36:37 | 読書

書名:黒い仏
著者:殊能将之
出版:2004年1月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062739364
価格:580(税込)


「ハサミ男」に敬服し「美濃牛」で失望した殊能将之ですが、「美濃牛」と同時購入した「黒い仏」を読み終えました。
結論から書くと…うーん、何じゃこりゃ。

美濃牛で登場した自称名探偵の石動戯作が、福岡のはずれの辺鄙な土地・阿久浜にある寺に眠っているらしい唐伝来の秘宝捜索を大生部から依頼される。
助手のアントニオと共に福岡へ向かい寺で資料を調査するが、漢文が読めない石動は四苦八苦。
その頃、福岡市内のアパートで男性の他殺死体が発見される。
博多県警の刑事達が被害者と喫茶店で一緒だった女性を捜索し、阿久浜へやってくる。
捜査の結果、女性の知人の大生部が容疑者として浮上するが、大生部は殺害当日、石動達と会って調査を依頼していたというアリバイがあった。

…と、ここまで書いたあらすじだけならフツーにミステリーの範疇なんですが、実際にはとんでもない方向へ展開してます。
(以下ネタバレ)

実は寺の住職や僧侶達は妖魔で、そこに比叡山の僧兵が乗り込んできて、秘宝を巡って暗躍しているのでした。
石動の助手のアントニオも実は能力者で、この争いに巻き込まれたりしてます。
石動は大生部のアリバイがトリックだと説明し、全然的外れだったのですがそのストーリーの方が都合が良いので妖魔は過去へ戻って石動の説の通りに行動したことにしてしまいます。
最後に石動が秘宝のありかの謎解きをしてしまったため、妖魔と僧兵たちの死闘が始まることに。

「名探偵の謎解き」やら「本格ミステリー」というモノに対して「おしりペンペン」してるよーな話です。
こういう設定からの視点だと「名探偵の謎解き」という行為がいかにバカバカしく見えることか。
一生懸命アリバイ工作のトリックを暴くっつーのも虚しい限り。
という感じで、作者は「根底からひっくり返された感」を読者に抱かせたかったんだと思います。
やりたかったことは理解できるんですが、コレが小説として面白いかどうかっつーと、個人的にはダメでした。

石動は相変わらず自称名探偵ですが謎解きした後でもキレてる人間に見えなくて、敬服しないだけならともなく感情移入もできず、キャラとしてイマイチなまま。
夢枕獏なんぞに溺れてしまっている自分にとっては、妖魔や闘いのシーンの描写は拙く寒いし。
肝心の「実はこんな設定だったんですが」という部分でも驚愕する訳でもなく、「あーそう、何でもアリの話なのね」「やっぱ買って失敗だったか」という失望感だけが残るのでした。

「こういう手もある」って得意気に言いたい話だったんでしょうが、そんな思いつきを披露するために1冊の小説にする程のネタじゃないんじゃないの? と思ってしまいました。
短編でも引っ張り過ぎに思えるだろうなぁ…ショートショートとしてならサクっと読み流せたんだけど。

本格ミステリー派の人はこの展開に憤ってたりするようですが、自分は「美濃牛」が合わなかったので過度な期待感は全く持たずに読んだお陰か、「黒い仏」では「あぁやっぱりダメだったか」という虚しさだけで、怒りを感じる程ではなかったです。
色んなジャンルの小説を読んでるんで、別にどんな荒唐無稽な話でも受け入れられるんですが、最も肝心な点「娯楽小説として面白いかどうか」という点で落第してるからなぁ。

せめて設定自体のどんでん返し部分を最後まで引っ張って、ラストの数ページでひっくり返してくれたら、かなりインパクトがあって面白かったかも知れないんですけどね、残念。

こうして殊能将之で1勝2敗で負け越してしまいました。
「鏡の中は日曜日」ってのが良さ気という噂を聞いたんで、せめてタイに持ち込むために読んでみようかなと思ってます。
それもハズしてたら、自分的には「殊能将之は一発屋」になってしまうのですが、果たして。


美濃牛 / 殊能将之

2005-08-01 17:38:31 | 読書

書名:美濃牛 MINOTAUR
著者:殊能将之
出版:2003年4月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062737205
価格:1090(税込)


先週の東京出張の移動時のヒマつぶし用に。
殊能将之の「ハサミ男」がとても良いデキだったんで、他の作品はどんなもんなのかなぁということでこの「美濃牛」と「黒い仏」も一緒に購入しました。
しかし「美濃牛」、分厚い文庫本です…フツー上下巻に分けるんじゃないかってくらいの厚みだし、値段も1000円超で新書と大差ないやんって感じ。
こりゃー読み応えがあるなぁと期待感タップリで読み始めます。

雑誌社からの依頼で、フリーライターの天瀬はカメラマンの町田と共に、岐阜の山奥の洞戸村暮枝地区へ向かう。
暮枝の鍾乳洞内にある泉に浸かって癌が奇跡的に治癒したという話をがあり、その泉について取材するのが目的だった。
雑誌社に話を持ち込んだ石動に村を案内されるが、肝心の鍾乳洞は地主の羅堂真一が立入禁止にしており、取材できない。
調査するうちに、この取材はスポンサーである大手建設会社が暮枝地区に計画しているリゾート開発の提灯記事のためであることが判明。
適当に仕事を済ませて帰ろうとする天瀬と町田だったが、台風が岐阜を直撃するので通過するまで滞在を延長することに。
しかしその嵐の夜、羅堂真一の息子哲史の首なし死体が発見される。

むーん…クレタ島の迷宮の怪物ミノタウロスの話を下敷きにして横溝正史風に描いたミステリー、でしょうか。
最後までキッチリ読んだんですが、どーもなー…個人的には「期待はずれ」でした。
山奥の村での血なまぐさい連続殺人事件でおどろおどろしい雰囲気になるはずなんだけど、石動たちのコミカルなキャラのせいで中和されてしまって、それで読みやすくなったのかというとそーでもなく、中途半端になって終わっただけのように思えました。
ページ数はこの3分の1で十分だったんじゃなかろーか…要らん末節をダラダラ書かれて、無駄に長い話になっているとしか感じられませんでした。
ミノタウロスの話についてもっと詳しく知ってれば楽しめたんでしょうか? …あんまりそうも思えないんだけど。

という訳で「美濃牛」は個人的にはハズレでした、残念。
今は「黒い仏」を読んでますが、また石動が出てくるんでちょっと期待できなくなってます。
飛びつくのが早過ぎたかな~。


再読・ハサミ男(ネタバレ)

2005-07-20 23:47:09 | 読書
殊能将之の「ハサミ男」を読み直しました。
どんでん返しのお陰で一時的に失見当識になったんですが、再読してみて自分がどのようにまんまとひっかけられたのかを確認しようかということで。

■フェアだったのかも?な点

再読して気付いたのは、ハサミ男の正体が女性だということを隠していない部分もいくつかあったということ。

例えば樽宮由紀子を尾行して観察するシーンで「わたしから見ても美人だと思えるくらいだから、同世代の男子生徒には、さぞかしもてることだろう」。
最初に読んだときに「お目が高いわたしから見ても」の意味と捉え「ハサミ男、お前何様なの?」と思って少し違和感がありました。
「わたしから見ても」というのは「女の子にあまり興味が無いわたしから見ても」と解釈することにして読み進んだんですが、ココは「女のわたしから見ても」だったんですね。

また殺鼠剤を飲んで自殺を図った翌朝「トイレで用を足したあと、立ち上がったわたしは、洋式便器をのぞきこんで仰天した。便器が真っ赤に染まっていたからだ。一瞬、出血したのかとあわてたが、そうではなかった。殺鼠剤を着色していた赤い色素が代謝され、尿となって排泄されたのだ。」
サクっと読み進んだので気付きませんでしたが、ハサミ男は洋式便器に座って用を足していました。
大便だった可能性も無くはないですが、前後の文章からすると小便だけだったようにしか思えません。
ただこの場合、自殺を図った直後で体力的に弱っていたハサミ男が、立ったまま用を足すのが困難だった可能性はあります。
しかしその前の文章で「翌朝、ベッドで目覚めたときも、なにひとつ苦痛や不快感は感じなかった。」とあるので、体調は悪くなかったはず。

立って小便をしなかったから男性ではないと決め付けることはできませんが、このシーンから女性かも知れないと考えることもできなくはなかったかと。
「一瞬、出血したのかとあわてたが」というのは血尿のことと思って読んでましたが、今になって思えば生理の方だったんでしょうか、切れ痔かなとも考えてたんですが…
ちなみに自分は自宅では小便でも洋式便器に座って用を足してます…別に嫁さんに指導された訳ではないんですが、トイレを汚したくないんです。
立って用を足すとかなりアクロバティックな体勢を取らない限り多少は周囲へ飛び散るので。
トイレ掃除も普段は自分の担当じゃないけど、キレイに越したことはないので。

■様々なトラップ

前述のようにフェアな点もあったものの、やはり様々な小道具によって主人公の「ハサミ男」は男性であると思い込ませる工夫がなされています。
マスコミが言うところの「ハサミ男」を主人公が客観的に「彼」と呼ぶ点。
主人公の食事がいつも簡単なトースト程度だったり、服装がセーターにジーンズ、スニーカーだったりする点。
主人公の人格もほとんど男だし、別人格の医師も男なので、たまたま安永知夏という女性の肉体にハサミ男の人格が入っていたという設定でしょうか。
でも一番大きいのはやはりタイトルでもあるマスコミの通称「ハサミ男」ですね。

また主人公が日高光一であると思い込ませるための工夫としては、体格に関する話がありました。
主人公は自分のことを「でぶのフリーター(わたし)」とコメントしており、「わたしは体重に不自由な人、いいかえれば、でぶである。体重は言いたくないし、最近計測していないから知らないし、考えたくもない。」と独白してます。
しかし磯部から見た主人公は「知夏は化粧もしていなかったし、ダイエットにも関心がないらしく、ふっくらした健康的な体つきをしていた。」という程度で、他の刑事たちの反応にしても特段安永知夏を「太った女」と評している記述はないことから、客観的な見た目よりも主人公自身は過剰に「自分は太っている」と捉えていたようです。
そういった点は女性的なんですが、主人公自身の人格はかなり男性的なはずなので、この辺りはちょっと違和感が。
でもハサミ男の人格の女性の好みからすると、安永知夏は「でぶ」だったということなんでしょうか。

さらに主人公はアルバイト先の岡本部長に「きみ、何歳だった?」と年齢を聞かれ「二十六です」と答えています。
そして捜査会議では容疑者の情報が「名前は日高光一。年齢は二十六歳」と伝えられ、読者にとってはついに主人公の本名が明かされたのかと思い込んでしまいます。

■再読の感想

なるほど、こういうやり方で読者をひっかけてくれたのか、と楽しみながら再読してました。
ハサミ男の正体の件が衝撃的だったので、ラストの真犯人の正体の方は見当がついてたこともあってイマイチ興味が持てないまま読み流してました。
再読のときはハサミ男の件は認識した上で読んだため、刑事たちが真犯人に迫る過程の方を楽しめました。
「そーかヤツはここでボロを出して疑われはじめたのか」「あぁ、ここで磯部が余計なことを…」「そうだった、この写真撮影はあの目的でだったっけ…」などなど。

こうして再読してみると、ハサミ男話と樽宮由紀子殺人事件を強引に絡めた豪華2本立てストーリーだったんだなぁと改めて認識できました。
よくデキた小説でした、「ハサミ男」。


心では重すぎる / 大沢在昌

2005-07-13 18:22:11 | 読書
闇先案内人」で大沢在昌の面白さを再認識し、「心では重すぎる」に手を出しました。
久々の探偵・佐久間公シリーズってことなんですが、そんなシリーズあったっけ? と思いつつ読み始めます。


書名:心では重すぎる
著者:大沢在昌
出版:2004年01月 文藝春秋(文春文庫)
ISBN:416767601X(上巻)/4167676028(下巻)
価格:上下巻各661(税込)



読み始めてからやっと思い出しました、佐久間公。
若造の探偵なんだけど、オヤジ探偵では理解できない・入っていけない若者の世界に浸透できる利点を活かして人捜しするのが得意なヤツでした。
そんでもって仕事のせいでケッコーとんでもねー事件に関わってしまってドタバタする話だったっけ。
その佐久間公もオッサンになってしまった今回の小説、ぼんやり過去のシリーズを思い出したりもするんですが「そういやそんなこともあったっけ」程度のいい加減な記憶の状態で読みました。

麻薬常習者の社会復帰を支援する施設セイル・オフの運営をしている佐久間公は、私立探偵の仕事も正式に再開していた。
探偵の仕事として、失踪したかつての人気マンガ家「まのままる」の捜索を金持ちのファンから依頼される。
依頼人は以前マンガ家志望だったが、まのままるの才能を目の当たりにして自信をなくし夢を諦めた過去があった。
まのままるの現在の居場所を捜索していくが、弟のところまで辿り着いた時点で公は殺されそうになる。
公はこのマンガ家の行方調査と併せて、最近セイル・オフへ入所した雅宗のことが気にかかっているため、雅宗が縄張りにしていた渋谷の情報も収集しようとしていた。
調査を開始した矢先、最近セイル・オフに入所した雅宗を心理的に依存させ支配している女の「飼犬」であるラリった男が公を待ち構えており、雅宗に関する調査を止めるよう警告する。
公はその男と雅宗の「飼い主様」である女・錦織令と会うが、周囲へ憎しみを放射する強烈な個性を持った16歳の少女は雅宗を死なせると宣言する。
雅宗に関する情報収集対象と考えていた錦織令だが、まのままるの行方調査上でも関係があることが次第に明らかになってくる。

まのままるの行方を調べていく際に得られる情報としての、週間少年漫画誌製作サイドの話が面白いです。
人気が無くなるまで描き続けさせるのはそんな感じなんだろうと思っていたものの、新聞に匹敵する程の発行部数の話や担当編集者との合作のようになるケース、アシスタントの話や出版社内での漫画雑誌部門の扱われ方など、とても興味深かったです。
他にも暴力団のマネーロンダリング用の宗教法人や医療法人の話など、リアルに嫌な話が次々と出てきてそれはそれで面白い。

「飼い主様」錦織令登場時のインパクトは強く、「魔女かおまえは」みたいな感じ。
公が理解できないってのもジェネレーションギャップどころの話じゃないし、たまたまカリスマ性のあるただのイカれ女じゃねーのかこいつはと思いました。
こんな女の相手をしてたらどう考えてもすぐブチ切れてしまいそうですが、冷静に理解しようと努める公が次第に令の素性を明らかにしてきます。
調査の過程で沢山の人間に恨まれ殺されそうになりながらも、関わってしまったために調査を続ける公。
培ってきた洞察力や情報収集能力によって的確に求める情報へと近づいていくのですが、状況的にはますますドツボにはまって肉体的な危険度は高まるばかりでヒヤヒヤ。
もう完全にヤバ過ぎなんだからとっとと手を引いてくれよ~と思いつつ、ストーリーに引き込まれて読むことを止められなくなっていきます。

この前読んだ「闇先案内人」でもこの「心では重すぎる」でも、大沢在昌の小説で面白いなーと感じているのは主人公のセリフの説得力です。
例えば公が調査で色々な人に話を訊くために説明する際の、冷静で的確で筋と芯が通っているセリフ。
「こんなの絶対、即自分の言葉で口から出てこないぞ」と思われる程、十分に吟味された言葉が書かれているんですが、小説内では公が淡々とそのセリフを語るのでそのシーンを読んでいるだけでも素直に「スゲー」と感じてしまって面白いです。

以前の佐久間公シリーズのような派手さは抑えられてて、かなり地味になった印象がありますが、乾いた重厚感が出てきていて前よりもとても面白くなっていると思いました。
やっぱ良いですね、大沢在昌。


ハサミ男 / 殊能将之

2005-07-05 18:15:14 | 読書
この前の出張時に殊能将之の「ハサミ男」を読みました。
前回の出張は、夜は比較的早く仕事が終わったので、移動時だけでなくビジネスホテルに居る間もヒマしてました。
おかげでかなり読書が進みました。


書名:ハサミ男
著者:殊能将之
出版:2002年8月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062735229
価格:770(税込)


書店でこの本を見かけて、かなり気にはなっていました。
解説者も書いていたように、自分もやはりジョニー・デップの「エドワード・シザーハンズ」を連想しましたね。
しかし全然知らない作家なんで、ハズしてたら痛いな~と思って躊躇してました。
出張前の本漁りで勢いがついてたので、チャレンジするか~と思って買ってしまいました。

「ハサミ男」を読む前に「破線のマリス」を読んだのですが、残念ながら自分には合わない話で撃沈。
なんとかヘコんだ気持ちを挽回してくれと願いながらハサミ男に入りましたが、期待以上に盛り上げてくれたので大正解でした。

主人公は連続猟奇殺人鬼で、女子高生を2人殺害している。
殺害した遺体にハサミを突き立てるので、マスコミから「ハサミ男」と呼ばれていた。
次の犠牲者の女子高生を選んで接近していくが、ハサミ男が実行する前に別の何者かによってその女子高生が殺害されてしまう。
しかもハサミ男による殺害に見せかけるため、遺体にはハサミが突き立てられていた。
ハサミ男は不本意にもその遺体の第一発見者になってしまう。
自分の仕業に見せかけようとする行為に憤慨するハサミ男。
ハサミ男の別人格である「医師」にも煽られて、殺人鬼であるハサミ男自身が真犯人を突き止めるために行動を開始する。

という奇想天外な設定の巻き込まれ型素人探偵モノで、リアリティなんて全くありませんが、軽いノリでとても楽しいミステリーでした。
主人公兼探偵が連続猟奇殺人鬼というのもスゲー話なんですが、気がつくとこの殺人鬼に感情移入して応援してしまっているところが悔し楽しい。
破線のマリス」では主人公にこれっぽっちも感情移入できなかったもんなぁ…やっぱり登場人物に何らかの共感など感情移入ができないとツラいですね。

イカレたハサミ男の主観から展開する独特の世界と、捜査を行う刑事達がハサミ男に迫っていく視点が交錯し、ヒヤヒヤしながら読み進みます。
それにしても連続猟奇殺人鬼の色白で太った不気味な男が主人公なミステリーってどうなのよ?と思いつつ。
ハサミ男の設定もとても面白くて良かったです。
毎週土曜日に自殺を試みては毎回失敗するところとか、妙に博識な別人格「医師」が現れるとか、頭の良い女の子に執着して付け狙うところとか。

最後のどんでん返しには見事にしてやられましたが、まんまとノセられても気分爽快でした。
しかし「え? え? 何? 何それ?」と見当識を失う羽目に陥ったんで、もう一度最初から読み直さないといかんですね。

この「ハサミ男」がとても面白かったので、殊能将之の他の作品にも手を出そうと思ってます。
他にはどんなのがあるのかな?

闇先案内人 / 大沢在昌

2005-07-02 23:58:15 | 読書
久々に大沢在昌を読みました。
この「闇先案内人」も読み終えてからちょっと時間が経ちましたが、記憶を頼りに感想を。
実は今「心では重すぎる」を読みかけなので、それを読み終える前に先に読んだ方について書いておこうかと。


書名:闇先案内人
著者:大沢在昌
出版:2005年05月 文藝春秋(文春文庫)
ISBN:4167676036(上巻)/4167676044(下巻)
価格:上下巻各590(税込)


大沢在昌には新宿鮫から入ってます。
自分は夢枕獏のファンなんですが、何かのシリーズの後書きで新宿鮫を絶賛していたので、読んでみる気になって試してみたんでした。

少し時代が旧い感じですが、それは自分が入るのが遅すぎたから執筆時期とのズレがあるせいですね。
べっとりした蒸し暑い雰囲気のハードボイルドで、とても面白く気に入りました。
以後、新宿鮫シリーズを読破した後、他の作品も読み漁りました。
かなりお気に入りの作家なんですが、多作になるに連れてだんだん安っぽい小説になっていった感じがして、最近はあまり読んでませんでした。

新宿鮫シリーズの最新もちょっと敬遠してました…というのも、自分はシリーズものって内容を記憶しているウチに次を読まないと気が済まない性質なのです。
そのため、続編が出るまで間が開いたシリーズの場合、そのシリーズの1巻から読み直すという羽目になります。
夢枕獏の各シリーズも毎回読み直しなんでキツいキツい、キマイラとか魔獣狩りとかもう助けてくれ~と思いながら読み直してます。

鮫シリーズは面白いんですが、あのべっとりした雰囲気で精神的に疲れてしまうので、また最初から読むのもちょっとしんどいかなと思って敬遠していたという訳です。
しかし書店で色々物色していたけど気に入りそうな本が見当たらず、消去法的に久々の大沢在昌となった訳でした。

さて「闇先案内人」ですが、逃がし屋の葛原が主人公。
警察や闇金融≒ヤクザに追われる人間を海外へ逃がすのが仕事で、逃がし屋が介在したことさえ気付かせないよう痕跡を消して逃がしている、関東ではトップクラスの逃がし屋チームを運営している。
その葛原に警察官僚から依頼があり、秘密裏に日本へ入国しアメリカと接触しようとしている某国(ってどう考えても北朝鮮)の独裁者の息子に接触し、公にしないまま本国へ逃がして欲しいと言われる。
この男の日本国内での行動をサポートしているのが成滝という関西トップの逃がし屋だった。
この葛原は濡れ衣の殺人容疑で指名手配され逃亡しているという秘密があった。
警察官僚はその秘密に関する情報を把握した上で葛原を脅迫し、チームの仲間も抑えたため、葛原自身も逃げることができない。
やむを得ず、成滝のチームの行動を予測し、ターゲットを追うことに。

読んでいて気付いたのは、大沢在昌のあのべっとりした雰囲気が無くなって、乾いた感じになっていた点。
以前の、どうにもちょっと安っぽい小説のときにもべっとりした雰囲気は無かったですが、アレは単に手を抜いただけっぽかったです。
この闇先案内人は内容もちゃんと気合が入ってて面白いし、アツいのはアツいんですが、昔の泥臭くべっとりした湿気が無くなって、淡々とした乾いた感じになっていると思いました。
ノンストップで息をつくヒマも無いんですが、乾いた雰囲気のお陰でそれ程疲労せずにサクサク読み進めました。
葛原のプロ意識の描き方がシブくて良いですね。
ヒーロー的なキャラじゃなく、自身も警察に追われる身で逃がし屋という仕事をする地味な男なのに、冷静に判断し行動する様が格好良いです。

また特に印象深かったのは、ただ成り行きを見守りたかったがために、歴史的な出来事の当事者よりも多くの犠牲を払ったかも知れない傍観者の話。
歴史には残らないけど、確かにそういう人間達が居たのかも知れないなぁと思わされました。

この「闇先案内人」がかなり面白かったので、書店でみかけても「ちょっと内容がウザそう」と思って手に取らなかった「心では重すぎる」も買ってしまいました。
もうすぐ読み終わるので、いずれまた感想を書くつもりです。

破線のマリス

2005-06-27 23:54:33 | 読書
今日6/27(月)から7/1(金)まで東京へ出張するので、土曜日の夕方の通院リハビリの帰りに、移動時のヒマつぶし用の本を書店で物色しました。
悩んだ末に選んだのは、大沢在昌「心では重すぎる」上下巻と野沢尚「破線のマリス」。
そのとき読みかけだった藤原伊織「雪が降る」はすぐ読み終えそうだったけど、もう1冊未読の殊能将之「ハサミ男」もあることだし、とりあえず往路は大丈夫かなと。
復路用の本は帰りに現地調達ってことで。

で、まずは「破線のマリス」から読んでみました。
前夜は録画番組の消化と真夜中の仔犬のトイレの後始末などに追われて寝不足だったため、大分空港行きのバスの中で猛烈な睡魔に襲われあまり読書が進みませんでしたが、コレだけは読み終えたので。


書名:破線のマリス
著者:野沢尚
出版:2000年07月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062649071
価格:650(税込)


野沢尚の作品を読むのは初めてです。
予備知識としては黒木瞳で映画化されてたっけなっつーのと、福井晴敏「川の深さは」に勝って乱歩賞を獲ったっつーことだけ。
福井晴敏の「川の深さは」「TWELVE Y.O.」「亡国のイージス」のシリーズはかなり好きなので、「破線のマリス」がどれほどのもんなのかと確認する意味もあって選んでみました。
ちなみに「終戦のローレライ」も面白いのは面白かったんだけど、ダイスのシリーズの方が好きですね。

さて破線のマリス。
TV局の報道番組の映像編集担当の女性が主人公。
独断で映像を編集し暴走気味だが、彼女が作り出す映像は評判が良く、番組視聴率で実績をあげており、彼女が作った映像によって疑惑のあった人物が自白する結果になるなどの功績もあって、上層部も黙認している状態。
その彼女へ郵政省の人間が内部告発としてある映像を納めたビデオを提供する。
そこには最近、ビルから転落して死亡した弁護士を尾行する男の姿が写されていた。
主人公はその提供映像を使って報道番組の特集コーナーの映像を編集し、大きな反響を得るが…

読みながら思ったのは、期待した方向と違う方へ話が進んでいくなぁということ。
いやてっきり主題は郵政省の男の話の方だと思ってたんですが、そっちのオッサンの話ばっかりかいって感じで。
主人公の女性はこれっぽっちも感情移入できないタイプ、まず子供より仕事っつーのが理解できんし。(許せねぇ)
ミステリーっつーか、結局謎は解き明かしてないまま終わるんでミステリーでもないし、ビデオを誰が撮ってたのかも分かってたし、何だろう、何を言いたいんだろうという感じ。
TVでヤラセとか恣意的な映像を流す行為について批判し警鐘を鳴らすっつーことがテーマのドラマ?

何だか最後まで肝心な点がほったらかしにされたまま終わったという印象でした。
オッサンの不気味さ加減も、告発ビデオかまたはあの盗み撮りビデオの撮影に関わってたりすればインパクトあったんですが、単にキレやすいだけのオッサンレベルだったし。

という訳で、個人的な感想としての結論は「イマイチ」でした。
自分には合わないタイプの小説だったようです、残念。
決して福井晴敏を擁護するために、こっちを否定してる訳じゃないと思うんですが…。

さぁ、次は「ハサミ男」行ってみよう。

蚊トンボ白鬚の冒険 / 藤原伊織

2005-06-17 17:53:53 | 読書
5/23の東京出張の帰り際、羽田空港内のショップでイオリンのが文庫化されてたのを見つけたので確保しました。
最初、上下巻と気付かずに下巻だけ手にとってレジに並び、さて読むかと思ったら下巻だったんで慌ててショップへ戻り上巻も買ってきました。
売店のレジのお姉さん(←世辞)が気付いて、微妙な苦笑いを浮かべられつつ。

読み終えてからちょっと時間が開きましたが、感想などを。


書名:蚊トンボ白鬚の冒険
著者:藤原伊織
出版:2005年04月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062750554(上巻)/4062750562(下巻)
価格:上下巻各661(税込)


藤原伊織には「テロリストのパラソル」から入りました。
自分はかなり保守的な人間で、なかなか新天地を開拓しようとしません。
なので本を読むときも気に入った同じ作家のものだけを選んでしまいがちです。
しかしいつもいつもお気に入りの作家の新作が出ているはずもないので、そんなときはやむを得ず「面白い小説無いかな~」と読んだことの無い作家の本を物色しています。

「テロリストのパラソル」は本の紹介が何やら良さ気だったので、買ってみました。
ハードボイルドって大沢在昌くらいしか読まないんだけどな~と思いつつ。
結論から書くととても面白くて気に入ったので、続けてイオリンの「ひまわりの祝祭」「てのひらの闇」と読み進みました。
ちなみに「ダックスフントのワープ」「雪が降る」は未読です。

イオリンの主人公って、ハードボイルドっちゃーそうなんだろうけど、単なる無鉄砲というか自暴自棄というか、自分を捨ててるだけな気がしなくもない。
ポリシーというか矜持があってそういう姿勢をとり続けてる人間なんだけど、昔大切にしていたものを失ってしまって、今は自分を大切にしない生き方をしている人間。
もう失うものがないから怯むことがないし、自分自身さえ守ろうとしていない感じ。
そんな男があることで事件に巻き込まれて、何があったのか、真実は何なのかを知るために、その無鉄砲っぷりで淡々と前へ前へと突き進んでいく訳です。
最初は敵だった奴から何故か気に入られて助けられるようになったり。
そんな展開をしつつ自分を取り戻していく、という話なのかと思ったらあんまりそういう訳でもなく最期までマイペースな感じ。
ってゆーのがそれまで読んできた小説の印象でした。

ストーリー展開を書くと↑こうなっちゃうんですが、すごいなと思ったのは何というか小説全体の乾いた雰囲気。
乾いてるんですよね、そんでもって息苦しいというか、読んでいてツラくなるんです。
読むのがツラいんじゃなくて、ツラい気持ちを楽しまされる羽目になるというか、何というか…主人公のそのあまりにも自分を守らないっぷりがツラいんですね。
かなり非現実的な主人公なんで、自分と比較してツラくなるとかそんな話ではなく、「頼むからもっと自分を守ることもやってもらえないだろうか」とヤツの身を心配しながら読んでる感じです。
つまりは自分も「何故か主人公を助けてくれるようになる他の登場人物」と同じ気持ちにさせられてるってことなんでしょうか。
この辺の感想は当然、人によって違うはずなんで参考にならないでしょうが、未読で興味をもたれた方は是非どうぞ。

さてやっと本題の「蚊トンボ白髭の冒険」です。
主人公の頭の中に蚊トンボ(ガガンボ)が入ってしまい、その蚊トンボが「白髭」と名乗って脳内から話しかけてくるという、いきなりファンタジックな展開。
この白髭は主人公の筋肉を一瞬だけなら超人的に動かすことができるという設定。
アパートの隣人の男がさらわれそうだったのを助けたばかりに、株屋とヤクザのすったもんだに巻き込まれていきますが、白髭の能力のおかげでピンチを切り抜けていきます。
何だかこれまで読んできたイオリンの小説とは全く違うノリだったので戸惑いますが、読み進んでいくと主人公はいつもの無鉄砲野郎なので安心できます。
相変わらず乾いた雰囲気ですが、ファンタジックな設定と白髭との軽いノリの会話に中和されて、楽しく読むことができました。
いつもなら主人公と一緒に苦しみながら読んでるもんなぁ…それでも終盤はやっぱちょいツラかったけど。

元々イオリンはありえねーって感じの人間が主人公なので、開き直って今回のように堂々とファンタジーにした方が良いのかも。
主人公と関わっていく隣人の株屋やそれを追う巨漢のヤクザ、年上のヒロインや怪人カイバラなどの登場人物も面白いです。

「テロリストのパラソル」とのノリの違いが受け入れられない人がいるかも知れませんが、自分にはとても面白い小説でした。
これまで「ダックスフントのワープ」はちょっと敬遠してて未読なんですが、「蚊トンボ白髭の冒険」を読んでからはチャレンジする気になってきました。
「雪が降る」も読んでおこうかな。

ダイスをころがせ ! / 真保裕一

2005-05-26 18:39:48 | 読書

書名:ダイスをころがせ!
著者:真保裕一
出版:2005年04月 新潮社(新潮社文庫)
ISBN:4101270244(上巻)/4101270252(下巻)
価格:620(上巻)/580(下巻) (税込)



真保裕一には「ホワイトアウト」から入りました。
巷で映画が人気のようだったので、原作を読んでみようという気になったのがきっかけ。
乱暴に言うと「日本版ダイハード1:ダム編」みたいな話で、めちゃめちゃ面白かったです。

コレで気に入って次々に真保作品を読み漁りました。
小役人シリーズを気に入り、ちょっと毛色の変わった「奇跡の人」のデキも良かった。
自分が一番好きなのは、偽札を作る話「奪取」です。
ディテールも良いんですが、「仲間達と一緒に計画を進めていく」というストーリーに心が躍らされました。

さて「ダイスをころがせ!」ですが、本屋で物色していたら真保裕一のが文庫化されてたんで、手に取ってみました。
文庫裏のあらすじを読むと、選挙…? へ?
真保裕一、選挙話なんか書いちゃって…コレ、面白いの?
選挙の裏話でサスペンスとかなら分からないでもないんですが、どうやらストレートな「選挙に出る話」のようです。
「どうでしょうか、この私が○○に立候補して、その過程を小説に書くというのは!?」という「やぶれかぶれ」的な実録小説でもないし。

あまり期待できないかなと思ったんですが、真保裕一だしってことで買ってみました。
最初は引き気味で読んでましたが、コレが意外に面白かったんです。

失業中の主人公駒井は、高校時代の友人天知から「次の衆議院議員選挙に立候補するから手伝ってくれ」と言われ、選挙参謀として働くことに。
資金も知名度も組織の後押しもない状態なので、頼みの綱は政党政治にうんざりしている無党派層の浮動票。
選挙にかかった費用を1円単位で全てホームページで公開し、公正で金のかからない選挙活動をアピールする作戦からスタートします。
しかし駒井の妻は選挙活動を仕事として認めてくれず別居に、また天知の祖父の汚職疑惑が判明、更に何者かによる妨害工作も続き前途多難…

最後までまっとうな選挙活動話でした。
天知の祖父の汚職疑惑の調査や、昔の恋人と天知の関係を疑ったり、妨害工作に悩まされたり、金をかけない方法を模索して四苦八苦したりと、選挙という大イベントへ向けて、色々な問題を乗り越えつつ準備を進めていきます。
面白く読めたのはやはり「奪取」のように「仲間たちとの活動」というストーリーが楽しいからでしょうか。
ラストの終わり方も良いですね。

自分自身は権利の行使ってことで必ず投票には行ってますが、正直「政治家には期待できん」いう諦観は持ってます。
この小説を読んで何か考えが変わったかと言われると、残念ながらそれは無いですが、選挙に関する手続きやら制度やらが「こんな風に政党に都合の良いものになってるんだ」という情報が得られた点は良かったかなと。


顔 FACE / 横山秀夫

2005-05-19 21:18:47 | 読書
顔 FACE / 横山秀夫

書名:顔 FACE
著者:横山秀夫
出版:2005年04月 徳間書店(徳間文庫)
ISBN:4198922330
価格:620(税込)


これも東京出張の移動時間に読んだ本です。

横山秀夫の小説は「陰の季節」だけ読んだことがあって、それなりに面白かったんですが、残念ながら短編ってあんまり自分の中では評価されてないんです。
自分にとって、読書ではとにかく没入したいので、ある程度の長さが必要なんだと思います。
それでどうしても長編贔屓になってしまって、短編は「ちょっとした時間つぶし」役という不遇な状況に。

横山秀夫原作の「半落ち」は嫁さんが観たいと言っていたので、正月頃にWOWOWで放映してたのを録画してました。
先日、やっと観た嫁さんの感想は「ちゃんとした映画だった」と彼女にしては高評価でした。
ちなみに録画していた映画の方は、空き容量が不足気味だったんでソッコーで削除されました。
日本人にしか分からないであろう寺尾聰の演技が気に入った、ということなんですが、自分は観てないので分かりません。
またそのうちWOWOWで放映されるので、そのとき録って観ようと思ってます。

嫁さんの評価を受けて、きっと原作の小説も面白いんだろうと期待。
本屋の文庫コーナーで「半落ち」を探したんですが見当たらず…どうやらまだ文庫化されてないようです。
売れてるウチは文庫化しないだろうから、待つしかないな。(本は文庫でしか買わない人です)

と、諦めてたところで「顔 FACE」という本が発売されているのを発見。
「陰の季節」で婦警が失踪する話があったんですが、その婦警を主人公にした話とのこと。
短編だけど同じ主人公のシリーズなので、これなら没頭できるかも、と思って購入。

主人公は似顔絵担当の婦警。
「陰の季節」では問題を起こした側(でも原因は上司)でしたが、この「顔」では彼女がその事件を乗り越えていく様を、警察組織と組織に属する人間たちのさまざまな問題も絡めつつ、いくつかの似顔絵関連エピソードを通して描いてました。

個人的には主人公の婦警の性格が固過ぎるように思えて、あまり感情移入できなかったんですが、小説としては面白かったです。
「なんかウマいなぁ」という印象で、派手さは無いけど玄人好みって感じ。
この話、仲間由紀恵が主演で映像化されてるそうで、ちょっと観てみたいですね。
「ごくせん」は全く観てないんで、自分にとって仲間由紀恵は「ヤンクミ」ではなくトリックの「貧乳マジシャン・山田奈緒子」なんですが。


未確認家族 / 戸梶圭太

2005-05-14 23:09:35 | 読書

書名:未確認家族
著者:戸梶圭太
出版:2004年12月 新潮社(新潮文庫)
ISBN:4101248338
価格:620(税込)


最高にヒドイ小説でした。(←ベタボメです)
あまりのヒドさに面白すぎて、読むことを止められなかったくらい。
ちょっと前に読んだ戸梶圭太の「アウトリミット」もなかなかバカバカしくキョーレツで面白かったのですが、この「未確認家族」もかなりヒドい。

援助交際世代の妻とブチ切れ世代の夫は互いに過去を隠して結婚していたが、妻が過去に関わった事件で投獄されていた男が出所し復讐を始める。
さらに夫が以前関わった電波系イカレ女も現れ、妻に嫌がらせを開始。
子供は泣き叫び姑は怒り狂い夫はブチ切れて暴力をふるい男は昔の女を騙して殺しイカレ女は包丁を持って乗り込み…

ろくでなしオンパレードって感じで次々にタガが外れたダメっぽい人間達が現れます。
比較的マトモなのはスポーツジムの兄ちゃんと姑に迫ってた爺さんくらいかな。
一番イカレてたのはもちろん電波女ですが、保護観察官も男の父親も出鱈目でナイスでした。

相変わらずタランティーノっぽい展開で、ノンストップなバカっぷりが最高です。
冒頭に終盤のクライマックス前のシーンを入れてたのは「レザボア・ドッグス」ぽかったし。

この小説の中で「激安人間」「激安犯罪」といった「激安」という言葉が何度も出てきました。
ナンシー関がよく、ある種のタレントを評して「安い」と書いていたのを思い出します。
この表現を見たお陰で、「あぁそうか、自分が彼らに対して抱いている感情というか評価というのは『安い』という言葉でものすごく的確に表されるんだ」と感心したものです。
それが更に「激安」なので、どれ程の低レベルっぷりのトホホ感か分かっていただけるでしょうか。

それにしてもナンシー関を失ったのはつくづく惜しい。
今のところ、自分にとって21世紀最大の損失です。
あれほどの洞察力、表現力、消しゴム彫刻能力を兼ね備えた人は二度と現れないんだろうなぁ。(最後のはそんなに重要でも無いんだけど)

話を戻して。
戸梶圭太は「かなりイイ」と思ってましたが、「未確認家族」を読んで更に評価が上がりました。
もっと彼の作品を漁って読んでやろうと思ってます。


マークスの山 / 高村薫

2005-05-09 14:18:44 | 読書

書名:マークスの山
著者:高村薫
出版:2003年1月 講談社(講談社文庫)
ISDN:4062734915(上巻)/4062734923(下巻)
価格:上下巻各681


出張の移動時に読む本が無くなってしまい、羽田空港で慌てて買ったものです。
「直木賞受賞」という肩書きが目に留まったのですが、自分の中で直木賞は「宮部みゆきの『火車』のような傑作をマトモに評価できない賞」というダメダメ君扱いになっているので、イマイチ押しが弱い。
でも何だか聞き覚えのあるタイトルだったので、この本を選びました。

マークスのイカレっぷりよりも、下らない因習だらけの警察組織内の描写が重くてキツかったです。
マークスが暴れてるときの方がテンポ良く読めて楽しい…って何だか間違った読み方をしてしまったような気が。(それはそれでイイんですか?)

自分は「10/21に何があったのか」という点よりも、「10/19に何があったのか」が気になってました。
両親が無理心中した際の一酸化炭素中毒がマークスにどんな影響を与えたのか、山を歩いて下って保護されるまでに何があったのか、その答えが知りたくて最後まで読み進みました。
結局、自分の読みが的外れだったりして答えは無く(得られず)。
親の無理心中に巻き込まれ、山の事件を知って行動を起こすマークスのイカレっぷりは、その行為の残虐さにも関わらず、可哀想に思えて仕方なかったです。

この小説の中で特に印象に残ったのはマークスの記憶障害です。
「覚えていられない」っていうのは何て恐ろしいことなんだろうと。
もし自分がそういう状態になったら、という不安を強く感じました。
なので今度、映画「メメント」を観てみようかなと思ってます。


バグ / 松岡圭祐

2005-05-02 23:14:01 | 読書

書名:バグ
著者:松岡圭祐
出版:2001年8月 徳間書店(徳間文庫)
ISBN:4198915644
価格:801


松岡圭祐の小説は、もちろん「催眠」から入りました。
菅野美穂の映画「催眠」を観る前に、原作を読んでおこうと思ったのですが、意外に面白かった記憶があります。
その後で映画を観たところ、菅野美穂が期待通りにキョーレツに怖くて良かったんですが、何だかそれだけって感じでした。
更にその後、続編の「千里眼」も読んでそこそこ楽しめたと思うのですが、次々に出る続編に何だか手が出ない状態でした。

さて「バグ」ですが、東京出張に行く前に大分空港の書店で購入しました。
移動時間の暇つぶしにする本を探したのですが、書店というか書籍コーナーといった感じで選択肢があまり無かったので、好きな作家の本が見当たらず、不本意ながら選んだと言う状態でした。
ちなみに好きな作家というのは、ジェイムズ・P・ホーガン、トム・クランシー、マイケル・クライトン、宮部みゆき、夢枕獏、大沢在昌、福井晴敏といったところ。

「バグ」のストーリーは、人気ゲームの新作の発売直後、ゲームをプレイした多数の子供たちが日本中で「黒いコートの男が襲ってきた」と錯乱し、パニックになるというもの。
設定に惹かれてこの本を選びました。
ゲーム開発の話や、特に将棋のエピソードが面白くて良かったです。

期待以上に楽しめたので、「催眠」から読み返してみて、ちゃんとシリーズを読んで行く気になってきました。

アウトリミット / 戸梶圭太

2005-04-25 18:03:21 | 読書

書名:アウトリミット
著者:戸梶圭太
出版:2005年02月 徳間書店(徳間文庫)
ISBN:4198922004
価格:661(税込)


東京出張での移動中、横山秀夫の「顔 FACE」という真面目な警察小説を読んだ直後にコレです。
メインの登場人物が刑事や警察官僚なんですが、どいつもこいつもイカれてるんで、「顔 FACE」と比べてものすごいギャップ。

戸梶圭太の小説を最初に読んだのは「赤い雨」でした。
赤い雨を浴びた人々が「悪いヤツ」にブチ切れてリンチするようになるって話で、日頃から不満に思っている連中をブチのめしてくれる話なので痛快です。(後半ヤリ過ぎだけど)
その後「溺れる魚」や「闇の楽園」を読んで「戸梶圭太のストーリーってタランティーノだなぁ」という感想を持つようになりました。
キョーレツなキャラが次々に出てきて、滅茶苦茶で暴力的な話がノンストップで同時展開してって、最後に「そんなんアリか」みたいにうまくいって終わり、みたいな。

アウトリミットもなかなかタランティーノでブッ飛んでて、19時までに取引できれば3千万円もらえるメモリーを巡る争奪戦です。
結局そのメモリーの中身(データ)が何だったかは最後まで分からないままですが、面白かったです。

このアウトリミットも「溺れる魚」みたいに映像化して欲しいです。
ちょっと血なまぐさいけど、バカバカしくって楽しい映像になりそうなので。


毎日かあさん2 お入学編 / 西原理恵子

2005-04-04 23:38:52 | 読書
読書のカテゴリーなのにマンガですが…

明日、急遽東京日帰り出張になりました。
そこで昼休みに、出張の移動中(バス~航空機~地下鉄)ヒマつぶしに読む本を買うため、本屋へ。

本屋に入った途端に目に入ってきたのが、平積みの「毎日かあさん2」。
買っていこうかと迷いましたが、嫁さんが買ってるかも知れないので保留。
念のため、発売されてることを嫁さんへメールしときました。

帰宅すると「毎日かあさん2」が食卓に置かれていました。
子供と散歩に行ったときに本屋へ寄って買ってきたそうです。(エライッ)
ソッコーで読破しました。

サイバラは元々嫁さんがファンだったんですが、自分も気に入ってハマってました。
特にこの「毎日かあさん」はサイバラ作品の中でも最高だと思っています。

相変わらずプロとは思えない崩れまくった線に毒々しい色使い。
ストーリーもギャグもセリフもキョーレツだし汚らしいしで、どう考えてもキワモノなマンガのはずなんですが、なぜかそこに描かれている子育てと家族と夫婦のドラマに感動してしまうのです。
あまりのバカバカしさに失笑しながらも、じんわりと涙が出てきやがるんです。
ちくしょー、こんなキタナイいマンガに感動させられている自分が悔しい。

自分も父親になったから、この話に感動してしまうんでしょうか。
泣いてしまうか、全く受けつけないかのどちらかだと思いますが、子を持つ親には是非読んでみて欲しいマンガです。

(追記)
前作の「毎日かあさん カニ母編」も併せてどうぞ。