中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

在宅勤務と「ズーム疲れ」

2020年06月12日 | 情報

アメリカの場合です。日本も同様でしょうか?

コロナ禍の新常態 在宅勤務と「ズーム疲れ」
ニューヨーク 河内真帆 2020/6/1 日本経済新聞

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)を機に人との付き合いが制限され、在宅勤務や遠隔教育が続くなか、精神的な疲労に悩む人が増えている。パソコンかスマートフォンがあればどこからでも参加できるビデオ会議が急増したことで、これまでとは異なる緊張を強いられるようになったからだ。米国では、最も利用されているビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」をもじった「Zoom fatigue(ズーム疲れ)」という新語まで登場している。

シカゴ市で公立のミドルスクールに通うコウボウ・ナカ・ミハエリ君(12)の学校は3月半ばに閉鎖され、オンライン学習に移行した。とはいえ、先生がライブで指導するのは多い日で1日3回ほど。1回の指導は40分程度で、あらかじめ出された宿題と課題を15人のグループごとにビデオで学習するだけで、あとは全て自習だ。自宅にパソコンのない家庭に公平を期すためで、学校と生徒の距離はすっかり遠くなった。

「先生がそばに居ないことがとても不安のようです」と母親のキミヨさんは話す。算数の問題の解き方がわからずに泣き出したこともあった。しかたなく動画投稿サイト「ユーチューブ」で検索し、解説を見ながら親子で解決したという。

オンラインでのミーティング予定などを忘れないようにグーグルカレンダーに記入するなど母親が一緒にスケジュールを管理しているため、キミヨさんの負担も増えている。そんな毎日にコウボウ君もリモート授業より「学校に行く方がずっと勉強しやすいな」とため息をつく。

■ビデオ会議、隣人にも筒抜けカナダのモントリオール市にある研究機関でリサーチャーとして働くミケーラ・ドルヤードさんは毎日、仕事の打ち合わせを上司と一対一でビデオ会議で行う。「ちょっとした音声の切断や画像のぶれ、対面ならあり得ない細かな障害」にストレスを感じるという。また、アパートをシェアして暮らす自宅では、他の住人にも会話が筒抜けになってしまい「隣人に聞こえていると思うと、仕事の内容やプライバシーに関して自己意識過剰になってしまう」と気疲れが絶えない様子だ。

人々のストレス解消を助けるはずの仕事も例外ではない。

ボストン郊外でヨガインスタラクターとして働くニール・タイラーさんは、従来のスタジオレッスンを「ズーム教室」に切り替えた。自らがカメラの前でしっかりとポーズをとって指導する必要があるため、「2カ月で3キロもやせた」と苦笑する。レッスン中に飼い犬が「教室」に飛び込んでこないようにドアにカギをかけたり、在宅勤務の妻とズームの時間帯が重ならないように調整したり、と毎日余計な手間がかかり、気疲れは募る一方のようだ。

米労働省の2018年の調査によると、米国でテレワークをしている人の割合は労働人口の23.7%だった。調査会社のギャラップによると、3月中旬時点で職場から自宅勤務かフレックスタイム制度を選択肢として与えられた人の割合は39%だった。だがこの数字も、3月末時点では57%まで急増したという。また、4月上旬時点でのテレワークの割合は62%となり、同社が調査を始めた3月中旬時点から倍増したという。

データ分析会社スタティスタが3月に行った調査では、米国で最も利用されている仕事仲間との通信手段は1位のメールに続き、2位にはズームやグーグルハングアウトのようなビデオ会議が浮上した。

■至近距離で顔を見続けるストレス

実際、ズーム利用者は過去4カ月で30倍の3億人超と急成長を遂げた。メールアドレスなどを登録してアカウントさえ作れば無料で利用できる簡易さもあって、仕事以外での用途が広がったことも利用者増に拍車をかけた。米国内で外出制限が始まった3月半ばには、ズームを介したリモートでの「飲み会」や「ダンスパーティー」など多くのイベントが開催されるようになった。米グーグルや米フェイスブックもビデオ会議システムの開発・導入に乗りだし、利用者の選択肢も増えた。

ではなぜ、ビデオ会議ツールを使うとストレスがたまるのだろうか

スタンフォード大学のコミュニケーション学部教授でバーチャルリアリティー(VR)の専門家、ジェレミー・ベイレンソン氏が、「ズーム疲れ」のメカニズムを解説してくれた。同氏は「ズームでの会議中は参加者の顔をずっと凝視することになる。ずらっと並んだ他人の顔を見続ける一方、自分も常に凝視される」ことが誘因になっていると指摘する。

脳は人の顔に特に注意を払うようにできている。しかも実生活の中でクローズアップされた顔を見るのは、ごく親密な関係にある人だけに限られる。画面上でこれをずっとやり続けることは、相当な疲労につながる」と分析するベイレンソン教授は、こんな結論を引き出した。「仕事の生産性を高めるソフトウエアは、社会的な人間関係を模倣するのには向いていないということだ

■まだ不慣れな日常とデジタルツール

だが、パンデミックが収束しても在宅勤務へのシフトは続き、ビデオ会議の利用機会も増えそうだ。同時に、自宅待機の長期化をきっかけに、米国でも精神的不安やうつ病、アルコール依存症、家庭内暴力など心と体への影響が多岐に広がっている。プライバシーを確保できずに、家族との関係が悪化したという話も多く耳にする。コロナ禍で一変した日常に、慣れないデジタルツールが入り込んで来たとなれば、人々が抱えるストレスが増幅してもおかしくない。

コロンビア大学国際公共政策大学院のスティーブン・コーエン教授は「世の中がどんどん変わればコミュニケーションの方法も変わる。ビデオ会議もその一つだ。新しいことを学ぶという好奇心が大事だ」と話す。

本来、デジタルツールは仕事の効率アップや日常生活を豊かにするためにある。ビデオ会議ツールは職場だけでなく、学校や様々な社会活動でも活用が広がっていくだろう。コロナ禍を契機に「ニューノーマル(新常態)」が問われるなか、ズーム疲れに屈することのないよう、ビデオ会議ツールとも上手に付き合っていく必要がありそうだ。

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