中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

うつ病も労災の対象になります(続々編)

2016年05月31日 | 情報

ここでは、会社側の立場で考えてみましょう。

もし、うつ病をり患したと疑われる従業員が出現したとします。
これが、就労中のけが、病気ならば労災に当たりますので、会社は従業員に代わって労災申請の手続きを代行し、
さらに、然るべき時期に、労基署へ私傷病報告を提出します。
ところが、うつ病の場合は、俄かに労災に当たるのか、私傷病なのかを判断できません。
しかし、会社は原則、私傷病として取り扱いますから、会社は当事者に、休業を認め、
それでも回復しない場合は、休職を命じることになります。
私傷病ですから、就業規則に定めている休職規程に沿って、対応することになります。
このまま、当該従業員から何らかの申し出もなく、かつ休職期間内に復職できないで、
規程に定められている休職期間が満了すると、従業員は円満退職ということになります。
なお、会社側は、私傷病として処理していますので、労基署へ私傷病報告を提出しなくても、
労災隠しには当たらないと考えられています。
なお、コンプライアンスの遵守を社是としている場合は、うつ病をり患した原因を特定し、
労災に当たると推定できる場合は、労災申請の手続きを進めることになります。
会社としては、これを貴重な経験として捉え、メンタルヘルス対策に真剣に取り組むことが重要です。

一方で、稀に労働者から、「これは労災ではないのか?」という申し出があることがあります。
これには対応方法が、いくつかに分かれます。
まず、労災に該当しないと自信があれば、当該従業員の自由にさせればよいでしょう。
ただし、「会社側の意に反して、労災申請をするということは、会社側とあなたとの間に、
決定的な対立関係が生じることになる」とくぎを刺すことを忘れないでください。
因みに、これは脅しになることはないのですが、言い方を間違えると誤解を生じかねませんので、気を付けてください。
次に、労災に該当する可能性がある場合です。この場合は対応がいくつかに分かれます。
原因が、毎月100時間を超える長時間残業をしていた、誰の目からも明らかなハラスメントを受けていた、
等の場合には、労災申請が認められる可能性がありますので、労基署の決定を受け入れざるを得ないでしょう。
労災が認定されいているにもかかわらず、争いに持ち込む企業があるのですが、
敗訴する可能性が高いのですから、むやみに争うことをせず、示談に持ち込むことが賢明でしょう。

さらに、労災か、私傷病か、どちらに該当するのか判然としない場合は、
まず、精神疾患をり患した原因を究明することから始めなければなりません。
曖昧な妥協は、将来に禍根を残すことになります。

なお、このような場合でも、当該従業員が労災申請する前に、示談に持ち込むこともできます。
即ち、従業員にとって、労災申請が認められ、民事損害賠償を勝ち取っても、
具体的に得られるものは、数百万円程度の金銭と、争いに勝ったという満足感だけです。
しかも、労災申請や裁判(調停も含む)で争うということは、会社側と決定的な対立関係になるので、
労働者側のメリットが少ないことを説明し、当該従業員に労災申請を断念させることも考えてください。
その代わり、完全復帰できなくても継続して就労できるような条件を提示することも考えられます。
このような穏やかな対応が、最善とは言えないまでも、次善の良策ではないでしょうか。

これまで一般的なレベルでの対策を述べてきました。
しかし、まだまだ全容を述べるに至っていません。
しかも、うつ病対策は、基本的には個別対応ですので、これから先を詳述するのは難しいことです。
結論としては、うつ病をり患する従業員をつくらない職場環境にすることが最善策なのですが、
なかなか理想どおりにはなりません。次善の策を用意しておくのが、現実的な危機管理対策です。


 

 

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うつ病も労災の対象になります(続編)

2016年05月30日 | 情報

続編を上梓するのに少し時間が空きすぎました。しかし、「上梓」という表現は大袈裟かもしれません。閑話休題。

殆どが労災ではないかとう、小生の指摘に対して、厚労省も同様な見解を持っていることを
証明する文章がありますので、以下に紹介します。
なお、当局に問い合わせてみると、面接指導の取り組み姿勢を述べているのであって、
指摘されるような意味合いではない、と否定しています。
しかし、当局の見解に100歩譲ったとしても、職場内にストレスの要因が、少ない、または、殆どないのであれば、
企業にストレスチェックを義務付ける理由が存在しないのではないでしょうか。
精神疾患にり患する原因が、ほとんど職場にあることから、ストレスチェックを義務化したのでは
ないのでしょうか?

しかし、みなさんどう判断されますか?
まず、言葉の解釈です。
一般的には⇒[形動]特殊な事物・場合についてでなく、広く認められ行き渡っているさま。
       普遍的。「一般的な考え方」
基本的には⇒[形動]物事の基本となるような性質をもっているさま。「その意見には基本的に賛成だ」

次に文章の解釈です。
〇高ストレス状況では、一般的には、職場や職務への不適応などが問題となりうることから
⇒「高ストレス状況では、普通では、またはほとんどの場合、職場や職務への不適応などが問題となりうることから」、
 と解釈できます。つまり、労災に該当することがほとんどだということでしょう。
〇基本的には、ストレスの要因が職場内に存在することを想定して、
⇒つまり、精神疾患に繋がるストレス要因は、ほとんどが職場内に存在する、ということでしょう。
一般的には」基本的には」という同義語の表現を重ねて使用するということは、何故なのでしょうか。
マニュアルには、法的根拠はないそうですが、「言霊」そのものでしょう。

ストレスチェックマニュアルP64を参照してください。

面接指導の考え方
○ ストレスチェックは、自記式調査票によって実施されるため、
その時点での労働者の自覚の範囲での評価となるという限界があります。
ストレスチェック後の面接指導は、こうした自覚のある労働者が事業者に申し出た場合に、
ストレス反応に対しての対処行動(ストレスコーピング)の手助けとなり、
ストレスによる健康影響を少なくする(あるいは未然に防止する)効果が期待されます。
一方で、面接指導対象者に対して、直ちに専門医の受診を勧奨するものではないことに留意しなければいけません。
○ ストレスチェックにより面接指導の対象者とされた者に対する面接指導では、
医師は、ストレスチェックの結果を精査し、ストレスの要因について聴取して、対応を検討することが求められます。
○ 面接指導においては、業務外の出来事がストレスの原因となっていることもあることを考慮しつつ、
高ストレス状況では、一般的には、職場や職務への不適応などが問題となりうることから、
面接実施者は、基本的には、ストレスの要因が職場内に存在することを想定して、
まずは高ストレスの原因について詳細に把握して職場内で実施可能な対応を優先して促す観点で
面接指導に当たることが望ましいでしょう。
○ 労働者が既に専門医を受診している場合でも、
高ストレスの原因となるストレス要因が職場に内在しているものである場合には、
医療のみで解決することが極めて難しいと言わざるを得ません。
職場内で解決可能な問題があるかどうかについて職場の環境を熟知している産業医が
対応することが解決の糸口になる可能性が高いと言えます。

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厚労省が初めて企業名公表(続編)

2016年05月27日 | 情報

厚労省が長時間労働を改めない、悪質な企業名を公表すると発表したのは、
昨年の5月のことなのですが、この5月になってようやく第1号が実施されたわけです。
行政は、この件も含めて一般的に具体的な企業名を公表することを避けてきましたが、
「言うだけか」という悪評が聞こえたのでしょうか、ようやく実行しました。

企業名公表の厚労省通達では、中小企業は対象外となっていますが、
対象外となっているからと安易に考えずに、長時間労働や労基法違反をなくする努力をしましょう。
武田信玄の箴言を持ち出すまでもなく、有力な天然資源を産出できないわが国において、
人材は、唯一無二の財産です。

「違法な長時間労働を繰り返している企業に対する指導・公表について」

長時間労働に係る労働基準法違反の防止を徹底し、企業における自主的な改善を促すため、
社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を複数の事業場で繰り返している場合、
都道府県労働局長が経営トップに対して、全社的な早期是正について指導するとともに、その事実を公表する。

都道府県労働局長による指導・公表の対象とする基準

指導・公表の対象は、次のⅠ及びⅡのいずれにも当てはまる事案。
「社会的に影響力の大きい企業」であること。
⇒ 具体的には、「複数の都道府県に事業場を有している企業」であって
「中小企業に該当しないもの(※)」であること。
※ 中小企業基本法に規定する「中小企業者」に該当しない企業。
「違法な長時間労働」「相当数の労働者」に認められ、
このような実態が「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」こと。
1 「違法な長時間労働」について
⇒ 具体的には、労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反が認められ、
かつ、②1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えていること。
2 「相当数の労働者」について
⇒ 具体的には、1箇所の事業場において、10人以上の労働者又は当該事業場の4分の1以上の労働者において、
「違法な長時間労働」が認められること。
3 「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」について
⇒ 具体的には、概ね1年程度の期間に3箇所以上の事業場で「違法な長時間労働」が認められること。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000085321.pdf

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厚労省が初めて企業名公表

2016年05月26日 | 情報

新聞報道にあるように、社労士仲間の情報によると当該企業では、
是正指導の内容を真摯(しんし)に受け止め、
すでに社長を委員長とする社内プロジェクトを立ち上げ、
労働時間管理の徹底や業務の効率化などの取り組みを始めています。」とのようです。
もう少し早めに取り組んでいただければ良いのにと、残念な思いです。

違法な長時間残業と判断 厚労省が初めて企業名公表
NHK 5月20日

厚生労働省は、千葉市にある棚卸し業務の代行会社の複数の営業所で違法な長時間の残業があったとして、
この会社の名前を公表しました。長
時間労働を防ぐため、厚生労働省が行政指導の段階で企業名を公表することを去年、
決めてから企業名が公表されたのは初めてです。
厚生労働省によりますと、この会社は、千葉市にある棚卸し業務の代行会社、
エイジスで、従業員のうち63人が、違法に月100時間を超える残業をさせられていたということです。
厚生労働省は、この会社の4つの営業所でこの1年間に4回是正勧告を行ったということで、
違法な長時間労働が繰り返されていると判断し、19日に企業名の公表に踏み切りました。
厚生労働省は去年、長時間労働を防ぐ対策として、全国に展開する大手企業について、
行政指導の段階で企業名を公表することを決めましたが、企業名が公表されたのは今回が初めてです。
エイジスは全国50か所に拠点を持ち、昨年度の売り上げは179億円に上っています。
エイジスは「是正指導の内容を真摯(しんし)に受け止め、
すでに社長を委員長とする社内プロジェクトを立ち上げ、
労働時間管理の徹底や業務の効率化などの取り組みを始めています」とコメントしています。

違法に100時間超も残業… 国が企業名を初公表
テレビ朝日系(ANN) 5月19日

違法な長時間労働への行政指導で企業名を初めて公表です。
19日、厚生労働省から行政指導を受けたのは、千葉市にある棚卸し業務の代行会社「エイジス」です。
従業員63人が違法に月100時間を超える残業をさせられていたということです。
厚労省は長時間労働の対策として、行政指導の段階で企業名を公表する方針を去年に決めていました。
実際に公表されたのは今回が初めてです。

千葉労働局の是正指導
http://chiba-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/chiba-roudoukyoku/houdou/souken/2016519151112.pdf

 

 

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「過労死ライン」超の残業

2016年05月25日 | 情報

厚労省公表の資料が発見できませんでした。新聞記事のみの紹介になります。
ただし、報道によると、「1万154社に調査し、1743社が答えた。」だそうですから、
回答率はわずか16%です。回答しない企業の殆どは、
「正社員の残業時間が「過労死ライン」の80時間を超えた」と想定しても良いでしょうから、
日本の企業の多くは、過労死ラインの80時間超えをしていると考えられます。

「過労死ライン」超の残業、2割の企業で 厚労省報告書
16.5.16 朝日

1カ月間の残業が最も長かった正社員の残業時間が「過労死ライン」の80時間を超えた企業は
22・7%にのぼることが、厚生労働省が16日公表した報告書で明らかになった。
過労死等防止対策推進法に基づき昨年12月から今年1月にかけて1万154社に調査し、1743社が答えた。
2014年度1年間の勤務実態について、1カ月間の残業が最も長かった正社員の残業時間を聞いたところ、
「80時間超~100時間以下」が10・8%、「100時間超」が11・9%にのぼった。
合計22・7%の企業に、過労死の労災認定基準の「月80時間」を超えて残業をする社員がいる結果となった。
従業員の規模別では、1千人以上の企業で「80時間超」の回答が5割を超えた。
残業時間が長くなるに従い、従業員にしめる病気休職者の割合が高くなる傾向もみられた。
厚労省の担当者は「過労死が多く発生するとの指摘がある業種について今年度は掘り下げて調査したい」としている。

過労死ライン超え 2割余の企業で
5月18日 NHK

長時間労働の問題について厚生労働省が調査した結果、
「過労死ライン」と呼ばれる月80時間を超えて残業をした従業員がいる企業は、
全体の2割余りに上り、なかでも従業員が1000人以上の企業では6割近くに上っていることが分かりました。
この調査は、過労死防止法に基づき長時間労働の実態を把握するため、
厚生労働省が去年12月からことし1月にかけて行ったもので、1743社から回答を得ました。
それによりますと、国が労災認定の基準とし「過労死ライン」と呼ばれる月80時間を超えて
残業をした従業員がいる企業の割合は22.7%でした。
なかでも従業員が1000人以上の比較的規模の大きい企業では56.9%に上りました。
業種別では、情報通信業が44.4%と最も割合が高く、
次いで、学術研究、専門・技術サービス業が40.5%、運輸業、郵便業が38.4%などとなっています。
また、従業員に対する調査では、残業時間が長いほど疲れがたまりやすい傾向がみられたということです。
厚生労働省は「運送業やIT企業など過労死が多いと指摘されている業種について、さ
らに深掘りして調査するとともに企業への監督や指導を強化していく」と話しています。

24%「過労死ライン」超…厚労省調査
毎日新聞2016年2月23日

厚生労働省は23日、長時間労働が疑われる企業5031事業所に対し重点監督を実施した結果、
74%にあたる3718事業所に労働基準法違反があったと発表した。

「問題」事業所5031カ所調査
46%の2311事業所で労使協定を超えるなど違法な時間外労働があり、
24%の1195事業所は厚労省が過労死のリスクが高まると位置づける「過労死ライン」(月80時間の残業)を
超え、過酷な長時間労働が浮き彫りになった。
重点監督は昨年11月、過去に労災申請があった事業所など長時間労働が疑われる企業に実施した。
過労死ラインを超えた事業所の時間別内訳は、月80時間超〜100時間以下=396事業所
▽同100超〜150時間以下=646事業所▽同150超〜200時間以下=115事業所
▽200時間超=38事業所−−だった。他に時間外労働賃金不払いが509事業所あった。

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