NHKマイあさラジオで紹介されていた、予防医学研究者の石川善樹さんの、「疲れない脳の作り方 科学から見る瞑(めい)想」を、
石川先生の「働く人のためのマインドフルネス講座」から転載です。
https://cakes.mu/posts/12431
はじめに
ああ、今日も1日疲れたなーー。
よく口にする、あるいは耳にする言葉ですね。
しかし考えてみれば不思議なことです。肉体労働をしている人は減り、オフィスワークでもITの普及で生産性が劇的に上がりました。
生産性が上がるということは、同じ仕事をより短時間で終わらせることができるということです。
そうして余った時間の分だけ、わたしたちの生活も余裕ができるはずです。
でも、現実はまったく違います。
せっかく世の中が便利になって自由に使える時間が増えたにもかかわらず、わたしたちはせっせと予定を詰め込み、
四六時中人とつながって、あれもしなければ、これもしなければと追われるように生きています。
先日、こんな光景を目にしました。
電車の中で、通学途中の女子高生が、携帯電話をいじりながら友だちとこんな会話をしていました。
「うわー、LINEで○○からメッセージ来たよ」
「あ、やばい! △△からのメッセージに返事してなかった」
「あれ、わたしには△△からメッセージ来てない!」
「えー、ブロックしてるんじゃないの?」
わたしはその様子を見ながら、朝からこの調子だと学校に着くころにはヘトヘトになって、
とても勉強どころではないだろうなと思いました。
20世紀の心理学者たちは、「人間が1日に使える意思決定の量は限られている」ことを発見しました。
つまり、朝、どの服を着ていこうかとか、あるいはLINEでどう返事をしようかと意思決定するたびに、
わたしたちの心はすり減っていくのです。
1日に許された量の意思決定を使い果たすと、あとは理性ではなく欲望がわたしたちを支配するようになります。
その結果、余計な買い物をしたり、暴飲暴食をしたり、あるいはイライラして相手につらくあたったりするのです。
1日の終わりに「ああ、今日も疲れたな」と思わず口にしてしまうのは、そういうわけなのです。
では、どうすればよいのでしょうか?
答えは「疲れない脳をつくる」ことです。
幸いなことに、科学技術の進歩はわたしたちの脳への負荷を増やすと同時に、その負荷を減らすための方法をも、もたらしてくれました。
最新の脳科学の研究によれば、1日5分程度の瞑想がストレスを軽減し、免疫力を高める一方で、
さらには集中力や創造性を向上させてくれることがわかってきました。
もともとは仏教の修行者のものであった瞑想の習慣は、日々のさまざまな刺激に対してむやみに反応せず、
脳を疲弊させる「判断」の作業をいったん停止させるために非常に有効なのです。
瞑想によって自己の内面を静かに観察し、「いまここ」に集中することを最近では「マインドフルネス」と呼び、
生活や仕事の質の改善に役立てる動きが世界中でひろがっています。
たとえばグーグルは、社員のストレスを軽減し、生産性やクリエイティビティを高めるために
社員向けのマインドフルネス・プログラムを開発しました。
5万人の社員の10人に1人がこのプログラムに参加しているといいます。
グローバル企業の経営者、ウォール街のトレーダーのあいだでも、
心を落ち着かせてパフォーマンスを上げるために瞑想を実践する人が増えているといいます。
また、テニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチは毎日15分間瞑想することで自分のなかの「ネガティブな声の音量」を下げ、
本当に大切にしているものに集中できるようになったと自著で語っています。
マインドフルネスは、睡眠、姿勢、食事といった生活習慣を見直すことでさらに効果を感じやすくなります。
本書では瞑想によって得られる効果、その効果をさらに高めるための睡眠、姿勢、食事のあり方を、
最先端の科学的な裏付けとともに解説します。
最終章では、こうした習慣を取り入れることによって、疲れない脳をつくるための「1日の過ごし方」を紹介します。
そこに書かれたことを、まずは1週間実践してみてください。
「ああ、今日も1日疲れたな」という言葉を使わなくなっていることに気がつくでしょう。
そして驚くほど仕事のパフォーマンスが改善し、ストレスやイライラから解放されていることを実感できると思います。
まずは姿勢と呼吸から
疲れない脳をつくるために、いまこの瞬間からできることがあります。
とてもかんたんなことですが、ほとんどの人がやっていないことでもあります。
それは、背筋を伸ばして、深い呼吸をすることです。
現代人は呼吸が浅くなっているといわれていますが、その大きな理由のひとつは姿勢の悪さにあります。
ノートパソコンやスマートフォンを使うと、どうしても背中が曲がって猫背になりがちです。
背中が曲がっていると、横隔膜を使うことができないので、呼吸が浅くなってしまうのです。
呼吸は、その人の身体や感情のバロメーターです。ストレスやイライラは、浅い呼吸となってあらわれます。
十分な酸素が体にも脳にも行きわたらないのですから、心身が不調になるのは当たり前です。
「最近、ストレスがたまっているなあ」「体がすぐに疲れてしまう」と感じている人は、
いますぐ背筋を伸ばして、2、3分でもいいので、ゆっくりと深い呼吸をしてみてください。
深い呼吸のポイントは、ゆっくり吐くことです。鼻から5秒ぐらいかけて吸い、
吐くときは口からでも鼻からでもいいので、10秒から15秒かけます。
わたしたちの身体は、息を吸うときには交感神経が、息を吐くときには副交感神経が働いています。
交感神経は興奮や緊張状態にあるとき優位になるのに対して、副交感神経はリラックスした状態にあるとき優位になります。
ゆっくりと長く息を吐くことは、副交感神経を優位にするので、リラックスした状態を生み出しやすいのです。
息をゆっくり吐いているとき、体内に二酸化炭素がたまってきます。
血液中に二酸化炭素が行きわたると、幸せな気分をもたらす神経伝達物質であるセロトニンの分泌が増えていきます。
セロトニンには、気分や感情の高ぶりを抑えたり、衝動的な行動を抑制したりする効果があることが知られています。
つまり、脳内にこの物質が分泌されることによって、ストレスやイライラが取り除かれ、
心をゆったりとした状態に置くことができるのです。
1日のうちに、緊張状態や興奮状態にある時間が長いほど脳は疲れます。
ですから、意識して脳をリラックスさせてやる時間を増やすことはとても重要です。
1日に1回でもいいので、まずは姿勢と呼吸を整える時間をつくってみましょう。
とくに、プレゼンテーションや大事な商談、打ち合わせの前に呼吸を整えると、冷静な状態でのぞめるようになります。
背筋を伸ばして、深い呼吸をする——こんなかんたんなことを続けていくだけでも、脳の基礎力がはっきりと改善していきます。
(橋本追記)石川先生の「観察瞑想」も、昨年紹介した「マインドフルネス」の一種だそうです。
(当職のブログ)
マインドフルネス
2016年09月07日
「マインドフルネス」は、アメリカ精神医学会が推奨している、ストレス対処法の一つです。
(以下省略)