記事は、学校の教職員のメンタルヘルス問題ですが、企業に就労する労働者にも参考になりますので、紹介します。
〇ストレス要因 公立校調査 「保護者対応」教員の重荷 理不尽な要求・苦情 「学校怖い」
2024/06/30 読売
全国の公立小中高校の教職員が加入する「公立学校共済組合」の調査で、強いストレスを感じている教職員の割合が2023年度、過去最高の11・7%に上った。特に保護者の過度な要求や苦情への対応に疲弊する教職員が増えており、負担を軽減する対策が急務だ。
順位に変化
夜や週末も
「平日夜や週末も保護者対応に追われた。学校に行くのが怖くて、つらかった」。関東地方の公立小学校に勤める男性教諭(35)は、教員4年目の秋を忘れられない。
担任した5年生のクラスで、休み時間に私物の破損を巡るトラブルが起きた。被害児童の保護者は「これは犯罪だ。相手を出席停止にしてほしい」と要求してきた。保護者会を開いて経緯を説明し、休み時間も子どもたちを見守るなど対策を取ったが、保護者の怒りは収まらなかった。
年度末まで対応に追われ、ストレスで朝、体が動かない日もあった。副校長に電話対応を代わってもらうといったサポートを受け、休職には至らなかったが、「同じようなことが起きたら、今度は耐えられるか分からない」と語る。
業務量過多
長時間勤務が常態化する学校現場では、うつ病などの精神疾患で休職する教員が年々増加している。文部科学省によると、公立学校では22年度、過去最多の6539人に上った。
共済組合は今回、16~22年度に「ストレスチェック」を受検した延べ約172万人分のデータを初めて分析し、ストレスの具体的な要因を調べた。
分析の結果、明らかになったのは「保護者対応」がストレス要因として高まっていることだ。22年度には12・4%が要因(二つまで選択可能)に挙げ、それまで4位だった「同僚との人間関係」を上回った。
東京都内の公立中学校に勤める50歳代の女性教諭は「最近、保護者の理不尽な要求や高圧的な態度が増えた。教育というサービスを受ける『客』の振る舞いで、 躊躇なく不平不満や怒りをぶつけてくる」と現場の実態を明かす。
「保護者対応」をストレスと感じる割合は、20~30歳代の教諭が高かった。若手にとって保護者のほとんどは年長のため対応が難しく、ストレスを感じやすいとみられる。
全体で、ストレスの要因として最も多かったのは、報告書の作成など「事務的な業務量」で、回答者の2割が負担に感じていた。次いで、「対処困難な児童生徒への対応」や学校の業務を分担する「校務分掌」を挙げる人が多かった。主なストレス要因は固定化され、長年解消されていない実態が浮かんだ。
やりがい
だが、共済組合の調査では、「働きがい」を感じている教職員は多かった。他業種の平均を50とした場合、22年度は男性の教職員が55、女性は57だった。
教員のメンタルヘルスに詳しい近畿中央病院(兵庫)の井上麻紀・公認心理師は「子どもの成長に関わりたいという熱意の表れだろう。一方で、やりがいや責任感で仕事を抱え込んでしまう側面もある」と危惧する。
実際、教職員の「やりがい」が多忙な学校現場を支えているとの声は多いが、「かえって仕事を減らす取り組みが進まなくなっている」とも指摘される。
共済組合の丸山洋司理事長は「授業の充実や子どもへの指導など、教員でなければできない仕事に集中できるよう、教育委員会や学校は、学校が担う業務の整理をより進めるべきだ。働きやすい職場づくりに努め、教職員のストレスを軽減してほしい」と訴えている。
校長OBを配置・弁護士から助言…国や自治体 対策急ぐ
教職員に理不尽な要求を繰り返す「モンスターペアレンツ」と呼ばれる保護者への対応を巡っては、国や自治体に支援の動きが広がる。
文部科学省は今年度、校長OBらを「学校問題解決支援コーディネーター」として配置して、学校を支援するモデル事業を始めた。学校と保護者だけでは解決が難しいトラブルを、双方から話を聞いて解決策を提示する。最近では、三重県が6月、県教育委員会に相談窓口を設置した。
学校が抱える問題に法的な見地から助言をする弁護士「スクールロイヤー」の導入も進む。2022年度時点では39都道府県教委が配置していた。文科省は3月、全国の教委にさらに幅広く活用するよう求める通知を出した。
高校教師で弁護士でもある兵庫教育大の神内聡教授(学校経営学)は「SNSで教員を個人攻撃したり、一方的に罵倒したりするなど一部の保護者が悪質化しており、学校だけで対応するには限界がある。警察の力も借りるほか、弁護士と学校が日頃から意思疎通を深め、子どもと教員の双方にとって良い解決法を目指してほしい」と求めた。
ストレスチェック 2014年の労働安全衛生法の改正で一定規模の企業などに義務付けられた。心身のストレス反応が強い場合は「高ストレス者」とされ、医師による面接が行われる。