中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

オンライン化を進めてください

2021年07月30日 | 情報

コロナ禍の影響で、衛生委員会の開催や産業医の活動のオンライン化が認められていることは、
周知の事実ですが、実際はどうなのでしょうか。
うまく対処できていますか?

まず、衛生委員会は、どのような形態で開催していますか?
衛生委員会(安全衛生委員会)は、常時50人以上の事業場では開催の義務がありますが、
リモートワーク率が高い事業場では、事実上開催できません。
そこで、厚労省通達(令和2.8.27付)で、オンラインでの開催が認められました。

ですから、オンライン開催できるネット環境がないので開催できませんという言い訳が
通らない状況にあります。オンライン開催できるネット環境を整えるか、
出来ない場合は、従来通りの仕様で開催しなければなりません。

そこでネット環境を整えるにはコストが嵩むので難しいという事業場に提案です。
「持ち回り決済」という方法は、如何でしょうか。

ただし、この方法は、事務局の体制がしっかりしていて、
従来より法令通りに開催出来てきたことが前提になりますが。

なお、この方式については、当局には確認していませんが、形式より実態が重要
(事実、「オンライン化」そのものが該当)ですので、
事業場の努力は、それなりに認められるものと考えます。

次に、産業医の職場巡視です。
これについても、厚労省通達(令和3.3.31付)で、産業医業務のオンライン化が認められました。
ただし、月1回(条件付きで2か月に1回)の産業医の定期巡視は、
従来通り実地で行う必要があります。
既に実施済みとは思いますが、とりわけ現場を持つ事業場では、
効率的な運用ができることになります。

具体的には、産業医と従業員とのオンライン面談が可能になりました。
リモートワークをしている従業員は、事実上自宅が「事業場」
(ただし、事業場の定義からは外れますが)ですので、
産業医による面談も積極的に進めていただきたいと思います。
「それは、」という指摘もありますが、産業医報酬との関係がありますので、
メンタルヘルスの問題を抱えるよりは費用上のメリットがあるという発想も必要です。

安全衛生関係の教育・研修についても、コロナ関連の話題をはじめ、
メール機能等を利用し、効率的に、継続性を意識しながら進めていただきたいと思います。

なお、当局への報告・申請についてもデジタル化が進められていますので、対応してください。

 

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年金は、「申請主義」

2021年07月29日 | 情報

年金は、「申請主義」ですから、申請しないと永久に受給できません。
ところが、殆どの従業員は、このことを知りませんので、
事業所・企業側は、的確に支援していただきたいと思います。

障害年金、うつ・がんも対象 申請漏れ多く時効は5年
2021年7月12日 日経

ケガや病気で生活に支障がある人がもらえる障害年金。受給者は拡大の一途だが、制度の理解不足から申請漏れがかなり多いとされる。仕組みと賢く受給するための注意点をまとめた。

知らずに未申請
都内の男性Aさん(46)は会社員だった30歳ごろ、職場の人間関係からうつ病となり退職、自宅でひきこもっていた。親類に「障害年金の対象かも」と助言されたのをきっかけに申請すると、14年前から障害2級の状態だったと認められ、年に120万円を受給できるようになった。ただ障害年金の時効は5年。遡って5年分はもらえたが、9年分の1100万円弱は時効消滅してしまった。

障害年金は目や手足の障害だけが対象だと思う人が多い。実際はうつ病など精神疾患、糖尿病といった内臓疾患やがんなど、傷病名にかかわらず、生活や仕事に支障がある状態になれば請求できる。Aさんの申請を手掛けた社会保険労務士の漆原香奈恵氏は「自分が対象になると知らず、申請しない人も多い」と話す。

障害年金は国民年金または厚生年金の被保険者(被保険者だった一部の人などを含む)が障害の状態に該当し、原則保険料の納付要件を満たせば受給できる。年金というと高齢期のイメージだが基本的に20歳以上なら受給対象だ。

受給者は2019年度で210万人を超え、15年間で3割弱増えた。半数強を占める精神・知的障害の増加が大きな要因。「ADHD(注意欠陥多動性障害)の若者が就職後のストレスで精神障害になり受給するケースもある」(社労士の内田健治氏)。コロナ禍の長期化でうつ状態の人は増えているとみられ、対象者は拡大している公算は大きい。

配偶者や子の加算も

受給で原則必要なのが保険料納付。初診日の前日時点で、初診日の前々月までの年金加入期間に3分の2以上保険料を納めている(免除・猶予を含む)か、前々月までの直近1年間に未納がないことが条件だ。「1カ月足りずに受給できない相談者もいた」(漆原氏)。コロナ禍で納付が厳しい場合も、必ず免除や猶予の手続きをとっておくことが大事だ。

障害の区分は状態の重い順に1~3級に分かれる。日本年金機構はホームページに1級なら「両手の機能に著しい障害」などの例を挙げている。ただし精神・内臓疾患など他の傷病でも、生活や仕事で同様に支障があれば同じ等級になる。「1級はベッドの周辺で1日を過ごす」というイメージだ。

初診日に厚生年金に加入していれば障害厚生年金、そうでなければ一定の条件で障害基礎年金の対象になる。障害基礎年金の2級なら、老齢基礎年金の満額と同額で21年度は年78万900円。1級はその1.25倍だ。18歳までの子がいれば加算される。1級で子が1人なら年約120万円だ。

障害厚生年金は加入期間(最低25年で計算)や収入で変わり、一定条件で配偶者の加算がつく。障害基礎年金ももらえるが、3級は障害厚生年金のみ。障害厚生年金1級で配偶者や子がいれば、基礎年金と合計で年200万円を超えることも多い。非課税なので大きな助けだ。しかし会社員時代に傷病が始まったのに診察を受けずに退社し障害基礎年金しかもらえない人も多い。初診日が厚生年金に加入している期間に入るよう退社前に必ず受診しておくべきだ。

もちろん可能なら仕事を続けたい。神奈川県の男性Bさん(56)は長く内臓疾患で寝たり起きたりの状態だが、リモートワーク中心に働き続けていた。「仕事ができていれば受給は無理」と思い込んでいたが、治療費が高額で生活に困窮した。社労士の相川裕里子氏の助力で申請すると、障害厚生年金2級が認められた。「症状や働き方しだいでは受給できることを知っておきたい」(相川氏)。厚生労働省の統計では障害厚生年金3級では6割が働いている。

受給には初診日がいつかを証明することが必要。通常はカルテを基に申請書類を作るが、カルテの保存期間は最後の受診から原則5年。5年を経過してから受給の可能性に気づいた場合、初診日の証明が難しいことがある。しかし相川氏は「5年以上カルテを保存する病院もあるし、廃棄されていても2番目以降に受診した病院のカルテ、民間保険会社への請求資料や第三者の証言などで初診日を証明できるケースもある。あきらめないことが肝心」と話す。

医師の診断書が重要

障害年金の請求の形は様々だ。まず知っておきたいのが、障害状態に該当するかどうかを判断する障害認定日。初診日から1年6カ月を経過した日、またはそれ以前に治療の効果が期待できなくなり症状が固定した日だ。認定日から長期間経過後に請求しても冒頭のAさんのように遡及して受給できることもある。ただし5年を超える分は時効消滅する。

認定日時点で不該当だったが、その後に重症化した場合は「事後重症」という手続きがあり、受給を請求した時点の診断書で判断する。認定日時点で制度を知らず、後で気付いて認定日の診断書が入手できない場合も対象になる

認定は書類審査だけで決まる。最も重要なのが医師の診断書だ。内田氏は「医師の前で無理に元気そうにしたことが診断書に反映され、障害が軽度と判断されてしまうケースもよく見られる」と注意喚起する。診断書に書かれる日常生活の様子などについて医師が正確に把握していないことも多い。本人や付き添う人が「日常生活に支障があることを診療の際にきちんと医師に説明することが大切だ」(内田氏)。

決定不満なら再審査も

受給の可否や等級は障害認定基準に基づき厚生労働相が決定するが、本人が思う状態と違う結果になり不満が残ることもある。その場合は「社会保険審査制度」を利用できる。最初の決定から3カ月以内に請求し、社会保険審査官による審査を受けられる。それでも不満なら、社会保険審査会に2カ月以内に再審査請求をする。障害年金の案件は審査会全体の8割程度に達する。

審査会で主張が認められる「容認」は毎年1割前後だが、請求を機に当初の決定が見直された結果、実質的に主張が通り請求を取り下げるケースもある。容認と取り下げの合計で2割以上になる年度も珍しくない。

認定手続きや再審査請求は社労士などの助けを借りるのも手だ。ただ障害年金で受給に成功すれば比較的多額の報酬を得られることも多いため、十分な知識のない社労士が新規参入している例もある。NPO法人「障害年金支援ネットワーク」では無料電話相談(固定電話からは0120・956・119)があり、必要なら全国の障害年金に詳しい社労士を紹介する。受給決定で、経済不安から無理に早期に復職する必要がなくなり症状悪化を防げる場合も多い。生活面の安心感から精神疾患が改善することもよくみられる。

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労災の認定基準を改定

2021年07月27日 | 情報

精神障害の労災認定基準の「業務による心理的負荷評価表」にパワーハラスメントが
明示されたのは、改正労働施策総合推進法が施行(2020年6月)され、
パワーハラスメントの定義が法律上規定されたことを踏まえてのことと理解しています。
しかし、介護職員だった男性は2016年3月頃からパワハラ行為を受けたと主張しています。
小職は、正式に法律を学んでいませんので、よくわからないことが度々あるのですが、
この場合は、「法令不遡及の原則」とは関係ないのでしょうか。
それとも、認定基準は、法令ではないからでしょうか?

報道によると、宮城労働局は、厚生労働省が労災の認定基準を改定して「パワハラ」を
付け加えたことを受け、直後に仙台労基署の不支給決定取り消しを決めています。
その後、仙台労基署が労災認定しています。
今回のケースは、小職も報道からパワハラがあったと認識できますので、
仙台労基署の判断は正しいのでしょうね。


上司の女性から「ばか野郎」、叱責4~5時間…介護職員の男性が自殺
2021/07/14 読売

仙台市太白区の医療法人「翠十字」に勤めていた男性職員(当時41歳)が自殺したのは、上司から受けたパワーハラスメントが原因だとして、男性の妻(48)らが法人に約6300万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が13日、仙台地裁(大寄麻代裁判長)であった。法人側は請求棄却を求めた。

訴状によると、介護職員だった男性は2016年3月頃から、仕事のミスを契機に上司の女性から「ばか野郎」などと、長くて4~5時間に及ぶ 叱責しっせき を受け、始末書の書き直しを繰り返し求められるなどのパワハラ行為を受けたと主張。男性はうつ病などと診断され、同年10月頃に自殺し、遺体で見つかった。

原告の代理人弁護士によると、法人側は答弁書で「長時間の叱責はしていない」「自殺との因果関係はない」と反論したという。


男性自殺は「上司のパワハラ」 仙台の医療法人に遺族が賠償請求へ
2021年05月29日 河北新報

仙台市太白区の医療法人「翠十字」でケアマネジャーとして勤務していた男性=当時(41)=が2016年10月に自殺したのは、上司のパワハラでうつ病を発症したことが原因だとして、仙台労基署が労災認定していたことが28日、分かった。男性の遺族側が明らかにした。遺族側は法人に損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こす方針。

遺族側の代理人弁護士らによると、男性は16年3月ごろから仕事のミスをきっかけに、上司からたびたび「ばかやろう」などと叱責(しっせき)され、長いときには5時間にも及んだ。何度も始末書の書き直しを命じられたこともあった。

男性は不眠、頭痛などの症状が現れ、6月にうつ病、重度ストレス障害などと診断された。退職して別の法人で働いていた10月に行方が分からなくなり、11月に遺体で発見された。自殺とみられるという。

男性の妻は17年9月、仙台労基署に労災を申請。18年9月に「上司からの叱責が執拗(しつよう)とまでは認められず、心理的負荷は中程度にとどまる」との不支給決定を受けた。不服として同11月、宮城労働局に不支給の決定を取り消す審査を請求した。

20年6月、厚生労働省が労災の認定基準を改定して「パワハラ」を付け加えたことを受け、宮城労働局は直後に仙台労基署の不支給決定取り消しを決めた。その後、仙台労基署が労災認定した。

医療法人側は「担当者がいないので答えられない」としている。


「パワハラで自殺」 遺族が提訴 「ばかやろう」と5時間叱責!
令和3年6月2日.毎日新聞

仙台市太白区の医療法人「翠十字」でケアマネジャーとして勤務していた男性(当時41歳)が2016年10月に自殺したのは、上司のパワハラが原因だったとして、男性の遺族が1日、同法人に約6300万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こしました。遺族側は、精神疾患を巡る労災の認定基準にパワハラが追加されて1年になるのに合わせて提訴したとしています。

訴状によりますと、男性は同法人の理事長らが経営する関連会社で、水素エネルギー開発の業務も行っていた2016年3月ごろから、仕事中のミスを理由に上司の部屋に何度も呼び出されるようになり、長いときは約5時間にわたり「ばかやろう」などと何度も叱責されました。うつ病などと診断され、同年6月に退職。別の法人で勤務していた10月に失踪し、11月に遺体で発見されました。

提訴後に記者会見した男性の妻は「心が折れるほど叱責するのはパワハラ。言動がどれだけ人を傷つけているか。夫だけではないと思うので、社会に広く知ってもらいたいと提訴した」と話しました。妻は2017年9月、労災を申請。2018年9月に仙台労基署がいったん不支給を決めましたが、妻は不服を申し立てていました。昨年6月、厚生労働省が労災の認定基準を改定。これを受けて宮城労働局は不支給決定を取り消し、仙台労基署が労災認定しました。同法人の代理人弁護士は「訴訟手続きにおいて、ご遺族側に当法人の主張に対する反論を求め、事実関係を解明したい」とコメントしています。

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労働時間の管理「適切」

2021年07月26日 | 情報

以下の報道内容からだけでは、情報が足りません。
原告側は控訴する方針とありますが、今後の裁判の成り行き注視しましょう。

労働時間の管理「適切」遺族敗訴 熊本地裁・過労自殺
毎日新聞 2021/7/22

肥後銀行(本店・熊本市)に勤務し2012年に過労自殺した男性(当時40歳)の妻(51)が
当時の取締役11人を相手に、労働時間を適正に管理する体制の構築を怠ったとして
計約2億6000万円を同行に損害賠償するよう求めた株主代表訴訟の判決で、
熊本地裁は21日、請求を棄却した。
中辻雄一朗裁判長は「銀行が構築・運用していた労働時間管理体制は合理的だった」と判断した。
原告側は控訴する方針。

男性は本店業務統括部で働いていた12年10月に命を絶った。
亡くなる直前1カ月の時間外労働は209時間に達していた。

中辻裁判長は、同行の当時の労働時間管理体制について
「実質的な自己申告制だったことを踏まえても国の基準に違反するとまでは言えず、
適正な運用を担保するために複合的・重層的な施策が採られていた」と指摘。
当時の取締役について「労務管理に関する内部統制システムを構築・運用する義務に
違反したとは言えない」と述べた。

判決を受け、妻は「労働時間管理体制が適切だったと述べているが、では、
夫はどうすれば長時間労働をしなくて済んだのか。疑問が残る
」と語った。
肥後銀行広報室は取材に「コメントしかねる」と答えた。

 

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(参考)「コロナ世代」を癒やせるか 

2021年07月23日 | 情報

「コロナ世代」を癒やせるか 精神と経済の傷深く
2021年7月12日 日経

「ロスト・ジェネレーション(失われた世代)」。この言葉が米欧に広まったのは、およそ1世紀前だという。米作家のアーネスト・ヘミングウェイが1926年に世に出した「日はまた昇る」などで知られるようになった。

2度の世界大戦や大恐慌の時代を生きた若い世代には、埋めがたい喪失感が残った。ケネディ元米大統領の暗殺やリーマン・ショックにも同じことが言える。そして新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)である。

命や暮らしの危機ばかりではない。感染症の拡大を防ぐ都市封鎖や行動規制は、90年代後半以降に生まれた「Z世代」から多くの機会や経験を奪った。「C(コロナ)世代」「コロニアル」「ベビー・ズーマー」――。たとえ呼び名が違っても、若い世代が負った傷の深さに変わりはない。

米金融大手バンク・オブ・アメリカが定義する世界のZ世代(96~2016年生まれ)は25億人で、全人口の32%。デジタルやバーチャルを好み、人権・環境問題に敏感な彼らの存在はひときわ異彩を放つ。総所得は現在の7兆ドル(約770兆円)から、25年には17兆ドルに膨らむ計算だ。

それは不平等や高齢化の割を食い、フラストレーションをため込む世代でもある。「スケープゴート(いけにえ)世代」「不安の世代」「悲運の世代」――。米紙ニューヨーク・タイムズがかつて、Z世代の名称を若者に募ったところ、暗い回答が相次いだ。

コロナ禍はこの世代にさらなる負荷をかける。ひとつは精神的な苦痛だ。友人との交流や課外活動を制限され、学業や就職も思うようにならない。成長途上の若者がストレスをうまく制御できず、心を病むケースが目立つ。

「ゆがんだニューノーマル」生じる

経済協力開発機構(OECD)によると、主要国で鬱病や鬱状態になる人の割合は、コロナ前のおおむね2~3倍に跳ね上がった。深刻なのはやはり若者と失業者だ。感染症で若い世代が追い詰められるさまを、国連児童基金(ユニセフ)は「ゆがんだニューノーマル(新常態)」と評した。

もうひとつは経済的な痛手である。学業の遅れや中断は個人の成功だけでなく、国の人的資本の蓄積も妨げる。世界銀行によると、初等・中等学校の5カ月間の閉鎖は、生徒の生涯所得を1人当たり1.6万ドル減らす要因となる。世界全体では10兆ドルの消失だ。

米セントルイス連銀は過去の趨勢から見て、米国民が19年時点で得られたはずの実質資産(中央値)を推計した。90年代生まれの実際の保有額は、理論値を50%下回る。金融危機の影響もあって、Z世代の資産形成はほかの世代より遅れていた。この悩みもコロナ禍で深まりかねない。

01年9月の米同時テロも、若い世代に苦難を強いた。米心理学者ジョナサン・カマー氏らの研究がそれを立証している。親に移動を制限された子どもや、失業者を出した家庭の子どもは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症率がそうでない子どもの3倍、2倍に上がっていたらしい。

米連邦準備理事会(FRB)のインフレ退治が引き金となった80年代初めの深刻な不況はどうか。このころに成人した若者の寿命は縮み、同時期に労働市場に参入した若者には所得の目減りや婚姻率の低下といった特徴がみられた。米経済学者ハンネス・シュワンツ氏らの分析である。

もちろんZ世代の全てが精神的・経済的なダメージを被るわけではない。インターネットやSNS(交流サイト)を自在に操り、新たな境地を開く彼らの柔軟性を、過小評価するのは危うい。

大恐慌に見舞われた米国の子どもたちにも「病理」と「適応」の二面性があったと、米社会学者のグレン・エルダー氏は74年の自著に記す。幼少期の経済的な困窮が成人後の健康や心理、生活に悪影響を与えた半面、ハンディキャップを埋める努力や自主独立の意欲をかき立てたというのだ。

この惨禍も似たような結果をもたらすかもしれない。米ピーターソン国際経済研究所によれば、20年1~9月期の新法人設立の申請件数は米国とトルコで前年同期比23%、チリで14%、英国で9%増えた。ピンチをチャンスに変えようと、思い切って起業に動く若者の姿が垣間見える。

ポピュリズム助長のおそれも

しかしZ世代の適応に頼り切り、病理を放置するわけにはいかない。メンタルヘルス(心の健康)対策や教育・雇用支援などが必要なのは、日本も同じだ

コロナ禍に遭遇した私たちは、感染症の封じ込めと正常な経済社会活動とのトレードオフ(相反関係)に悩まされてきた。あちらを立てればこちらが立たず、いまも正解を見いだせてはいない。

政府は東京都に4度目の緊急事態宣言を発令した。国民の命を守るのは当然だとしても、次の時代を担う若者や子どもたちに過度の犠牲を強いてはいないか。彼らの手足を安易に縛らず、人生の大事なピースを失わせずにすむ方法を何とか見つけられないものか。私たち一人ひとりが胸に手を当てて、問い直さねばなるまい。

中高年の有権者と政治家が影響力を行使する先進国の民主主義体制では、Z世代の声が届きにくい。その不満や憤りは、米欧などに巣くう左右のポピュリズム(大衆迎合主義)の燃料にもなる。

「コロナ世代」を癒やせるかどうかに、世界の未来がかかっている。心してかかるべき課題だ。

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