中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

「管理職の認識・理解が低い」?

2022年08月31日 | 情報

「昔なら当たり前と言われる」「管理者の理解低い」…進まない中小企業のパワハラ対策
2022/08/29 読売

職場でのパワーハラスメント対策が中小企業でなかなか進まない。改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に基づき、
4月から対策が義務化されたが、実施している割合は大企業の半分というデータも。
起きた場合の配置転換が難しく、経営陣の理解が高まらないことが要因とされ、対応を急ぐよう求める声が上がる。
2020年6月施行の改正法は、パワハラについて▽職場の優越的な関係を背景としている▽業務上必要かつ相当な範囲を超えている
▽労働者の就業環境が害される――と定義。
企業にパワハラの禁止や、そうした行為に厳正に対処することを就業規則などに明記し、周知することを義務づけた。
相談体制の整備や迅速な対処も必要で、大企業では施行時に適用され、努力義務だった中小企業も今年4月から義務化された。
中小企業で対象になるのは従業員300人以下の製造業や100人以下のサービス業など。
罰則規定はないが、違反した企業は労働局から指導や勧告を受け、従わなければ企業名が公表される。

事業に影響、二の足踏む経営者も
しかし、人材サービス大手のエン・ジャパン(東京)が3月に公表した調査結果(497社の人事担当者が回答)によると、
対策を実施している従業員50人未満の企業は45%で、1000人以上の企業(90%)の半分にとどまった。
課題として「管理職の認識・理解が低い」ことを挙げる企業が最多の55%で、
「パワハラがあっても『昔なら当たり前』と言われる」(不動産・建設業)などの意見があった。
関西の労働局の担当者は「パワハラが起きた時に、厳格な処分規定を設けていると、事業に影響が出かねないと心配し、
二の足を踏む経営者もいる。研修費などの負担を嫌がるケースもあり、なかなか進まない」と漏らす。

「経営リスクに」
厚生労働省は今年度、中小企業の担当者向けにハラスメント相談の応じ方に関する研修を計画。
動画で解説するウェブサイトも開設し、研修材料も提供している。
成蹊大の原昌登教授(労働法)は「パワハラが 蔓延する職場は生産性の低下や人材流出が必ず起きる。
経営者は重大な経営リスクになると認識し、目を背けてはいけない」としている。

「賞状」ではなく「症状」…新年会で成績けなす
従業員へのパワハラは後を絶たない。厚労省によると、2021年度に精神疾患で労災認定されたのは全国で過去最多の629人。
原因別ではパワハラの125人がワーストで、うち12人が自殺していた。
青森県八戸市の中小規模の住宅会社では18年2月、うつ病になった男性社員(当時40歳代)が自殺。
前月に行われた新年会で、上司が賞状を「症状」と言い換えた男性宛ての書面を用意し、
「大した成績を残さず、あーあって感じ」と営業成績をけなす嫌がらせをしていた。
男性の遺族が今年6月、約8000万円の損害賠償を求めて青森地裁に提訴し、同社はホームページで謝罪した。
今月23日には、上司のパワハラが自殺の原因だったと認めて裁判外で和解した。

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三菱電機の事案と同じです。

2022年08月30日 | 情報

三菱電機の事案と同じです。
労災認定⇒民事訴訟⇒敗訴または、和解
これが現在では労災事案の定型化した流れです。

賞状を「症状」と言い換え営業成績けなす…会社側、社員自殺の原因をパワハラと認める
2022/08/26 読売

青森県八戸市の住宅会社「ハシモトホーム」の男性社員(当時40歳代)が2018年2月、うつ病になって自殺したことを巡り、会社側が、上司のパワーハラスメントが原因だったと認めた。遺族側の代理人弁護士が26日、記者会見して明らかにした。上司は同年1月の新年会で、賞状を「症状」と言い換えた男性宛ての書面を用意。「大した成績を残さず、あーあって感じ」と営業成績をけなすなどの嫌がらせをしていた。

自殺を巡っては、労働基準監督署が労災を認定。遺族側は今年6月、約8000万円の損害賠償を求めて青森地裁に提訴したが、今月23日、裁判外で和解が成立し、訴えを取り下げた。会社側は遺族に謝罪して賠償金(金額非公表)を支払い、今後、関係者を処分する。

和解を受け、男性の妻は「社員の命を大切にする会社に変わってほしい」とのコメントを発表した。同社の橋本吉徳社長は「二度と同じ過ちが繰り返されることのないよう、徹底した再発防止策を講じる」とするコメントを出した。

(再掲)
新年会で「症状」手渡す 男性社員の自殺「パワハラ原因」遺族が住宅建築会社提訴 青森地裁
6/20(月) 河北新報

住宅建築業ハシモトホーム(青森県八戸市)の青森支店(青森市)に勤務していた40代の男性社員が自殺したのは、上司のパワーハラスメントが原因として、男性の遺族が20日、
会社と橋本吉徳社長に約8000万円の損害賠償を求める訴えを青森地裁に起こした。

・うつ病発症、労災認定
訴えによると、男性は2011年に入社し、注文住宅の営業を担当。
18年1月ごろ、上司の男性課長から携帯電話で「おまえバカか」といった内容のショートメールが複数回送られた。
同月開かれた会社の新年会の余興として、営業成績をたたえた賞状形式の「症状」が交付され、誹謗(ひぼう)中傷を受けた。
余興は課長が企画し、文面も考案したという。
男性は翌2月、青森市の自宅に駐車していた自家用車内で自殺した。青森労働基準監督署は20年12月、上司のパワハラで重度のうつ病を発症し、自殺の原因となったとして労災認定した。
遺族側の代理人弁護士が20日、青森市内で記者会見し「謝罪などを求めて会社側と交渉したが、会社は法的責任はないとしている」と述べ、交渉が決裂して提訴した経緯を説明。
「パワハラ防止対策が中小企業でも義務化された。個人の問題と放置せず、このようなことが二度と起きないように願う」と訴えた。
橋本社長は取材に「訴状を確認しておらず、現段階ではコメントできない」と答えた。

 

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定型化した流れです。

2022年08月30日 | 情報

労災認定⇒民事訴訟⇒敗訴または、和解
これが現在では労災事案の定型化した流れです。
以下に、三菱電機社のHPと、以前にも紹介していますが、
胆管事件を機に、まさに変身されたSANYO-CYP社のHPにアップされている両社のステートメントを紹介します。
しかし、苛斂誅求を極めても意味がありません。判断・評価するのはステークホルダーのみなさんです。

上司から「飛び降りるのにいい窓」遺書に残す…三菱電機の新入社員自殺、遺族と会社が和解
2022/08/26 読売

三菱電機(東京)の新入社員の男性が2019年8月、上司から「死ね」などと言われたと遺書に記して自殺した問題で、男性の遺族と同社が和解したことがわかった。遺族の代理人弁護士が26日、記者会見を開いて明らかにした。和解は23日付。
代理人弁護士や同社によると、和解の合意書には、同社が遺族に解決金(金額非公表)を支払うほか、再発防止に真剣に取り組むことなどが盛り込まれた。同社は役員や社員を対象にハラスメント防止研修などを行い、今後5年間、再発防止策の実施状況を遺族に報告することなどを誓約した。
男性は19年8月、社員寮近くの公園で自殺。現場に残されていた遺書には、上司から「死ね」「お前が飛び降りるのにちょうどいい窓あるで」などの発言を受けたことが記されていた。尼崎労働基準監督署が21年2月、上司のハラスメントが原因で精神疾患を発症したとして労災認定した。
遺族は「三菱電機は息子の死を無駄にすることなく、二度とこのようなことが起こらないよう改善してほしい」とのコメントを出した。三菱電機は「ハラスメント行為を絶対に許さないとの強い決意のもと、再発防止と組織風土改革に全力で取り組む」としている。


労務問題の再発防止および組織風土改革の取り組みについて
2022 年 8 月 26 日 三菱電機株式会社

https://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2022/0826.pdf

2019 年 8 月に当社の新入社員(当時)が亡くなられ、2021 年 2 月に尼崎労働基準監督署より労災認定されました。改めまして故人のご冥福をお祈り申し上げるとともに、ご遺族の皆さまに心からお詫び申し上げます。
当社は、痛ましい労災事案を重く受け止め、再発防止のための種々の施策を進めておりますが、この度、ご遺族に改めてお詫び申し上げるとともに、労務問題の再発防止を経営の最優先課題として引き続き全力で取り組むことをお誓いし、ご遺族との間で和解に至りました。
当社は、大切な従業員の尊い命が失われた事実を厳粛に受け止め、ハラスメント行為を絶対に許さないとの強い決意の下、2020 年 1 月から「職場風土改革プログラム」を展開し、全従業員が心身の健康を維持し、いきいきと働ける職場環境の実現に向けて、グループをあげて全力で取り組んでいます。
さらに、今年 4 月からは、新しい三菱電機の創生に向けた抜本的な組織風土改革を始動し、「上にものが言える風土」「失敗を許容する風土」「共に課題を解決する風土」の実現に向けて、日々、具体的な取り組みを進めているところです。
風通しのよい企業風土への変革、誰もがいきいきと働ける職場環境の実現に全力で取り組むことで、労務問題の再発防止を徹底するとともに、新しい三菱電機の創生に努めてまいります。

■主な取り組み
・ハラスメント教育強化と管理職任命時の見極め強化、管理職層への 360 度評価の導入
・全役員・全従業員によるハラスメント行為を行わない旨の宣言書提出
・意識調査を活用した定量的な職場風土分析と分析結果に基づく継続的な改善の実行
・個々人の負荷や職場内の人間関係、ストレスの状況などを確認する定期アンケートの実施
・相談窓口の充実(複線化)
・職場におけるハラスメント実態調査の定期的な実施と、申告案件について人事部門に加え外部専門家の窓口を新たに設置し、心理的安全性を確保した実態把握の実施
・ハラスメントに関する懲戒規則の改定、厳罰化と全従業員への周知徹底
・パワーハラスメント事例やパワーハラスメント相談件数等の従業員への適時適切な情報開示
・オープンな風土形成に向けた経営陣自らの変革(社長・執行役によるタウンホールミーティング、全執行役へのコーチングの実施)


SANYO-CYP社 HPより

https://www.sanyo-cyp.com/

2012(平成24)年、弊社の元従業員と従業員が胆管がんを発症したことが明らかになりました。厚生労働省の検討会では、この胆管がんの原因物質について、1996(平成8)年から2008(平成20)年の12年間にわたり、印刷機のブランケットと呼ばれる部分のインキを拭き取るために使用していた1、2-ジクロロプロパンを含む洗浄剤である蓋然性が高いという結論にとどめましたが、発症に業務起因性は認められるとして2013(平成25)年春に労働災害と認定されました。
改めまして、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、お亡くなりになられた方々、ご遺族の皆様、罹患され現在治療を続ける方々とそのご家族の皆様に、このような労働災害を発生させてしまったことを心より深くお詫び申し上げます。
あわせまして、災害に関して多大なるご心労、ご迷惑をおかけいたしましたお客様や同業他社様、地域の皆様方にも、心からお詫び申し上げます。
弊社としましては、これを真摯に受け止め、二度と労働災害を起こさないことを誓うとともに、安全安心な職場環境を維持し皆様に信頼される会社づくりを行ってまいります。
そして、弊社のような企業が二度と出ないこと、労働災害がこの世からなくなることを切に願います。

株式会社SANYO-CYP
代表取締役社長 兼 CEO
山村 健司

 

 

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安全配慮義務の不履行とは

2022年08月29日 | 情報

以下の要件がそろっている場合に安全配慮義務の履行を怠ったと判断されます。
〇その業務により事故や疾病が発生する可能性を予見できた。(予見可能性の存在)
〇危険を予見でき、結果を回避することも可能だったにもかかわらず、その努力を怠った。(結果回避努力の不履行)
それに、結果回避努力の不履行と事故・疾病の発生との間に、社会通念上相当な因果関係が認められる。(相当因果関係の存在)


「この休日出勤認めたくねー」 上司から叱責された社員の自死、パワハラ認めず…遺族側が敗訴
8/22(月)  弁護士ドットコムニュース編集部

上司のパワハラが原因で従業員の男性(当時29歳)が自死したとして、男性の両親が勤務先の日本重化学工業と上司に対して
計約1億円の損害賠償を求めていた訴訟の判決が8月22日、東京地裁であった。品田幸男裁判長は原告側の請求を棄却した。
男性の父親・山口智さん(70歳)が、代理人の尾崎行正弁護士らと記者会見を開き「不当判決で、がっかりしました。
控訴して再度判断を仰ぎたい」と述べた。

〇自死につながる精神疾患まで認識できない
経理部だった山口さんの長男・天さんは、労働組合の仕事も兼務しており、
2017年ごろから短期間に出張が重なるなど、業務が増えていたという。
原告側は、上司から「この休日出勤認めたくねーんだけど」と言われるなどの叱責を受けて心理的な不調を抱えたとしている。
天さんは2018年11月の日曜日に自宅から飛び降りて亡くなった。
天さんが不調を訴えて、他の複数の上司に対して異動を希望していたにもかかわらず、
休職や部署異動などの対策を取らなかったことが「安全配慮義務違反」に当たると主張していた。
判決は、会社側は「天さんの精神状態になんらかの異変が起こっている可能性」に気づけたとしても、
自死につながる精神疾患までは認識できず、危険は予見できなかったと結論づけた。
また、上司の休日出勤に対する発言は「手続きを遵守するよう念を押す趣旨」で、
叱責等も不法行為とまでは評価できないなどとし、パワハラと認めなかった。

 

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コミュニケーション不全の時代

2022年08月26日 | 情報

中高年男性の孤立 注視を コミュニケーション不全の時代
本田由紀・東京大学教授(ほんだ・ゆき 東京大院教育学研究科博士課程単位取得退学、同大博士(教育学)。専門は教育社会学)
2022年8月2日 日経

ポイント
〇日本の中高年男性の友人の少なさが突出
〇社会関係の乏しさは排外主義につながる
〇旧来の男性優位の価値観からの脱却が鍵

大国による戦争や少数民族迫害など、いわば究極のコミュニケーション不全が世界で頻発している。日本社会でも、世代間や性別間などで分断や排除といった問題が多く指摘されている。現代はインターネットの発達などにより、コミュニケーションツールが豊富になったのとは裏腹に、ネット内ではむしろ炎上や対立などが日常化し、リアルでも他者への攻撃はあとを絶たない。

このような人々の間の分断は、社会の質を確実に損ねていく。社会学では、長きにわたって「社会関係資本」の重要性が指摘されてきた。「社会関係資本」とは、単純化して言えば、人間関係のネットワークや他者に対する信頼感を意味する。それが豊富であることは、個人にとっても社会全体にとっても良い結果をもたらす場合が多いという実証研究結果には、長年の蓄積がある。

日本における「社会関係資本」の実情を示す一つの調査結果を図に示した。これは、内閣府が日米と欧州の4カ国、60歳以上の男女に対して2020年12~21年1月に実施した調査で、親しい友人の有無をたずねた結果である。

日本の特徴として指摘できるのは、第1に、特に男性において「(同性・異性の友人が)いずれもいない」という回答が4割を占めており、日本の女性や他の3カ国の男女よりも著しく多いことだ。

第2に、日本の高齢の男女いずれについても「同性・異性の両方の友人がいる」という回答が、他国よりはるかに少ない。すなわち日本においては、特に男性で社会関係資本が希薄であり、また男女ともに社会関係資本の性別分離が明確であることがわかる。前回の15年調査と比べると、日本では同性の友人も減少したが、これはおそらく新型コロナウイルス感染症の拡大が影響しているのだろう。

図は60歳以上の高齢者が対象だが、同様の傾向は年齢層を広げても見いだされる。ISSP(国際比較調査グループ)の17年の日本調査では、「悩みごとを相談できるような友人の数」を質問している。社会学研究の村田ひろ子氏の分析によれば、そうした友人が「いない」比率を見ると、男性の場合20代以下、30代、40代では順に12%、14%、23%だが、50代、60代、70代以上では順に37%、36%、53%と、中高年齢層で明確に多い。

女性では、「いない」比率が最も多い70代以上であっても27%にとどまり、60代で19%、より若い層では10%未満であることと比較しても、日本の、特に中高年男性の社会関係資本の少なさが突出しているといえるだろう。深刻な孤立であると言い換えてもよい。

社会的に孤立していても、充足感が得られていれば問題はないかもしれない。しかし同調査の40代、50代の男性において、「悩みごとを相談できるような友人の数」が2人以上の場合には「生活に満足している」割合は65%であるのに対し、1人以下の場合は46%と、約20ポイントの開きがある。

また、後期高齢者を対象とする調査データを分析した実践女子大学の原田謙教授の研究においても、特に男性において、友人数が少ない場合にメンタルヘルスや生活満足度が下がることが検証されている。さらには、悩みごと相談ができる友人が「いない」場合に、「排外主義的」な意識が高まるという計量分析結果を、成蹊大学の米良文花氏が示している。

ここからも、悩みごとを相談できるような友人が「いない」ことは中高年男性にとっても否定的な影響をもつことが推測でき、しかも「いない」比率が日本の中高年男性では相当程度高いのである。

さて、先のISSPの結果を考える上で重要なのは、「友人」ということに加えて「悩みごとを相談できる」という設問のワーディングである。「人前で弱みをさらけだしてはならない」ということは、日本に限らず、国内外に共通する「男性性」の重要な構成要素とみなされる。友人数の多寡には、学歴や就労形態、家族構成、団体所属、幼少期の経験など様々な要因が影響しているが、それらに加えて「男らしさ」の規範が、中高年男性の社会関係資本形成を阻害していることが容易に疑われる。

実際に、電通総研が21年に実施した「男らしさに関する意識調査」の結果では、「自分が抱える心配や不安、問題についてたくさん話す男性は、真に尊敬されるべきではない」という項目を「とてもそう思う」もしくは「そう思う」と答えた比率は、18~30歳と31~50歳ではそれぞれ34.6%、33.5%だが、51~70歳では42.3%と多くなる。

「私の両親は、本物の男は緊張したり怖いときでも、強く振る舞うべきだと教えた」割合についても、同じく若い方から順に27.9%、27.7%、35.2%と、中高年齢層でのみ高い。そして「人生の個人的・感情的な問題について気軽に話せる友人がいる」割合は、65.0%、52.0%、48.6%と、高い年齢層ほど直線的に下がるのだ。

同調査では、「男らしさ」の規範と社会関係資本の量との関係を直接的に分析しているわけではない。あくまで年齢層を媒介項とした間接的な関連ではあるが、日本の中高年男性における社会関係資本の少なさや性別分離の背後に、「男性性」の規範の問題が根強くあることの確実性は高いといえそうだ。

日本において、社会の中枢を占めるであろう中高年男性の自殺率の高さ、幸福度の低さの問題についてはたびたび指摘されてきた。「男らしさ」の規範を内面化して、仕事や収入で他者にまさることに高い価値を置き、ひとに弱音を吐かずにがんばる中高年男性は、自分をも他人をも追い込みがちである。

友人をはじめ援助のネットワークから孤立する傾向が国際的に見ても強い彼らを、どうすれば救えるのだろうか。

「男らしさ」から抜け出して、胸襟を開いて助けを求めることができる友人をつくったほうがよい、という提案は、年齢を経た人々にとってはあまり現実的ではないだろう。可能性があるとすれば、まず日本社会と自分を取り巻く大きなひずみ、きしみに気づくということではないか。

例えば7月13日に公表されたばかりの世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ指数」の22年版では、例年と同じく、日本の順位は146カ国中116位と低い(前年は156カ国中120位)。日本の順位を下げている理由は、女性が政治や経済などいわゆる公的な場に進出していないためだが、この面ばかりに焦点が当たってしまうことには注意が必要である。

われわれが関心を払うべきは、これまで述べてきた日本の男性、特に中高年男性に見られる特異性である。「男らしさ」に縛られ、コミュニケーションや人間関係から疎外されがちな日本の中高年男性たちは、日本が抱えるもう一つの巨大な「ジェンダー・ギャップ」だといえるだろう。

 

 

 

 

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