中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

「Zoom」の奴隷

2020年06月11日 | 情報

小職も「Zoom」のお世話になっていますが、確かに、奇妙なストレス感がありますね。

在宅勤務の新技術、奴隷にならずに済むには?
2020/5/22 日本経済新聞

石油メジャーの英BPが新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)中にリモートワーク用ソフトウエアの利用を拡大して以来、リチャード・ヘロン氏はマイナスの影響を軽減することに専念してきた。同社の最高医療責任者として、米マイクロソフトの対話アプリ「チームス」やインスタントメッセージを使ったオンライン会議の量が、全社で過去3カ月間に3倍に伸びる様子を追ってきた。

「技術の奴隷にならずに、技術の力をうまく生かすことが難しい」と同氏は言う。「我々は、人がノートパソコンを使って働く時間を増やすのを容易にするのではなく、端末から離れて休憩するのを手助けすべきだ

ビデオ会議や電子メッセージ通信、データへの遠隔アクセスは多くの人が自宅で働く助けになり、ある意味では顧客や同僚、上司、経営幹部との接触を増やすことに貢献した。だが、ヘロン氏は、身体的、精神的な健康に与える影響を抑えるために、もっと多くの管理職がこうした技術の利用を見守るべきだとくぎを刺す。

同氏の警告は、世間に広がる大きな懸念を反映している。技術は生産性維持・向上の手段となり、スタッフの福利を改善する新しいツールを提供している。だが、これまで試されたことがなく、マイナスにもなりえる影響ももたらす。その多くは、今になって初めて明らかになりつつある。

英キングス・カレッジ・ロンドン教授で、軍隊でのメンタルヘルスを専門とするニール・グリーンバーグ氏は、技術は「人々が今、自分は自宅で働いているのか、オフィスで寝ているのか疑問に思う」ところまで在宅勤務生活を一変させたと冗談まじりに言う。


2年間分の技術変化
「新型コロナは2週間で、2年分の技術的変化をもたらした。メンタルヘルスの観点から言えば、その適切な使い方を理解することがうまくいっていない。我々は技術には慣れた。これからは、心理的に健全な働き方に適応していかなければならない」

最初の課題は、間に合わせの環境での在宅勤務が身体の健康に与えるプレッシャーに取り組むことだ。ロックダウンの開始以来、700人以上の従業員を対象に実施した英雇用研究所(IES)の調査では、回答者の3分の1以上が普段よりも首、腰、背中の凝りや痛み、違和感を感じていることが分かった。

「多くの場合、台所のテーブルでノートパソコンを使って仕事をしている」。英職業医学協会(SOM)のウィル・ポンソンビィ会長はこう話す。「ここから多くの難題がでてくる。ノートパソコンは、18時間も使うように設計されていないからだ」

同会長は、雇用主はパソコンのキーボード、スクリーン、マウスから人間工学的に設計されたデスクやオフィスチェアまで、仕事に適した設備をスタッフに提供するか、あるいはスタッフが経費請求できるようにすべきだと薦めている。

医療専門家は、筋骨格疾患などの身体的な症状は往々にして、根本的なメンタルヘルス問題の引き金であると同時に代理指標でもあると説明する。姿勢を変えたり、集中したパソコン作業を中断したりするために、スクリーンから離れる時間を設け、体を動かす必要があると指摘する。

英ロンドンを拠点とし、職場のダイバーシティー(多様性)と思いやりを訴える活動をしているピンキー・リラーニ氏は、リモートワークは思いやりを行動で示す必要性をさらに高めたと主張する。「みんなの本当の様子を知るために、私は毎日5回電話をかけている」。「ウィメン・オブ・ザ・フューチャー」というプログラムを立ち上げ、代表を務めているリラーニ氏は、「技術はとても人間味がないように感じることがある」と語る。

 

■「Zoom」でストレス

英サセックス大学で産業・組織心理学の上級講師を務めるエマ・ラッセル氏は、「Zoom(ズーム)」のようなオンラインビデオ会議ツールは、従業員に普段の仕事に加えてストレスの多い「感情労働」を強いると強調するスクリーン上での自分の反応と同僚の反応に集中するからだ。

同氏は、仕事と私生活を区別するために、日中に明確に定義された時間割を設け、理想的には自宅内の別の場所で過ごすことを推奨している。定期的にスクリーンから離れること、「ソーシャル・エチケット」の新たな規則を設けることも勧めている。こうした規則には、「人が絶えず自分の振る舞いを規制する必要を感じなくてもいいよう」、会議中にビデオをオフにすることも含まれるかもしれないという。

ラッセル氏の同僚のチディエベレ・オグボンナヤ氏が手がけた研究は、在宅勤務のインパクトが人によって大きく異なることを示している。多くの内向的な人を含め、在宅勤務を歓迎する人もいる。だが、あまりきちょうめんでない人などは、職場での監督がある場合よりも精神的ストレスが大きいと報告している。

デジタルツールは在宅勤務者の助けになり、マインドフルネス認知療法や認知行動療法を提供するアプリや、不安感、うつ、メンタルヘルス問題に対するオンライン支援を提供する「ビッグ・ホワイト・ウオール」のようなサービスが増えている。

だが、従業員向けオンライン福利厚生ツールを提供する英ベター・スペース創業者のジム・ウッズ氏は、「汎用的な解決策は存在しない」と強調する。瞑想(めいそう)アプリなど、大半の個人向けツールはスタッフのうち比較的少数にしかアピールせず、アプリの利用は一般的に時間とともに減っていくという。企業は従業員に予算を与え、広いサービスの選択肢から長期間にわたり自分で自由に選べるようにすべきだと話す。

ポンソンビィ氏は、アプリは良い職場関係の代わりにはならないと警鐘を鳴らす。「福利にとって最も重要なのは上司との関係だ。自分が評価され、よく処遇されているという感覚、公平感といったことが大事になる」と言う。「管理職は手っ取り早い解決策を求めているため、失望している」

同氏をはじめとした専門家は、技術は短期的には在宅勤務の難しさを和らげたかもしれないが、長期的な影響は不透明だと指摘する。人事評価管理コンサルティング会社マインド・ジムのオクタビアス・ブラック最高経営責任者(CEO)はこう話す。「人々が燃え尽き、対処できず、疲弊し、脱落するにつれて、生産性が劇的に落ち込むリスクがある。そうした事態がかなり進むまで企業は気がつかず、立て直すのは難しいかもしれない

 

By Andrew Jack2020521日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/

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