中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

入門編:④始めの一歩

2014年10月31日 | 情報
うつ病をはじめとする精神疾患ばかりではなく、全ての疾病に共通するのですが、
労働者にとって、疾病を克服して社会復帰するためには、
1.治療、2.生活、3.就労の三段階をクリアしなければなりません。

その第一歩の「治療」ですが、うつ病を克服するには、当事者に「ジャストフィット」する精神科医を探さなくてはなりません。
探さなければなりません。そして、当事者に「ジャストフィット」する精神科医にめぐり合わなければなりません。
当然のことではないですか、と部外者は安易に結論付けてしまいます。
しかし、現実は、簡単そうに見える作業が、実はとても難しい作業なのです。

当事者には、うつ病をり患しても、「自分はうつ病のような症状があるかも」といった、「病識」がありません。
専門機関(横浜市立大学病院精神科)の調査によると、自分ひとりで気付くことができていないことが分ります。

<うつ病の主要な症状>  自覚症状    専門家による問診
①身体症状
     睡眠障害     26%      94%
     疲労感      58%      89%
     首・肩のコリ   22%      84%
     頭重や頭痛    23%      66%
②精神症状
     意欲や興味の減退  4%      91%
     仕事能力の低下   3%      89%
     抑うつ気分     3%      70%
     不安や取り越し苦労 3%      58%


さらに、「頭痛がする」とか、「腹痛がある」とか、「体がだるい」といった自覚症状により、
精神科とは異なる科目の診療施設に行くことが多いのです。
少し古くはなりますが、専門家の調査データによると、うつ病患者が最初に行くのは精神科でなく内科が65%を占めています。

三木治:心身医学42(9):586,2002
心療内科のプライマリ・ケアにおける初診患者330例のうつ病実態調査。
Self-rating depression scale(SDS)45以上を示した患者161例の初診診療科
内科 64.7%
婦人科 9.5%
脳外科 8.4%
精神科 5.6%
心療内科 3.8%
耳鼻科 3.8%
整形外科 2.8%
その他 1%

精神科専門医を訪ねることも大変ですし、「ジャストフィット」する精神科医を探すことはさらに大変な課題になります。
小生が承知している事例でも、2か所目で「良い先生にめぐり合えた」なんていうのは幸運中の幸運で、
紹介された専門医を訪ね、何か所も捜し歩いて、ようやく「良い先生にめぐり合えた」というような事例はたくさん承知しています。
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入門編:③うつ病は治るのか

2014年10月30日 | 情報
入門編:①と入門編:②とを、比較して、違和感、疑問を感じませんでしたか?
それは、果たして「うつ病」は治るのか、という疑問です。

精神医学の専門家は、「うつ病」は治る病です、とはっきり明言されています。
一例として、精神科領域の権威のお一人である、産業医科大学教授の中村 純先生は、
「うつ病は治る病気であり、ほかの病気と同様に早期に発見して対策を講じることが重要だ。」(日経14.10.23夕刊)と述べています。
そして、拙著にも同様の記述をしました。それは、精神医学界の共通認識だからです。
『(3) 「うつ病」は治すことができます
  早期に発見し、早期に正しい治療を行えば、「うつ病」は治すことができる病気です。
 (4) 「うつ病」は、再発する可能性があります
 「アメリカ精神医学会」のデータによると、1回目の再発率が50%、2回目の再発率が70%、3回目の再発率が80%となっています。
  その他にもたくさんの調査データがあり、いろいろなデータが報告されていますが、
  どの調査にも共通していることは、『「うつ病」は、再発する可能性があり、しかもその可能性が高い』ということです。』

しかし、厚労省のHP「知ることからはじめよう・みんなのメンタルヘルス」及び「こころの耳」には、
「うつ病」について詳しく説明していますが、「うつ病は治る」とは、記述されていません。
参考までに、厚労省が発表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は、
「軽度」や「中程度」の患者を対象にしており、「重度」の患者さんは対象にしていません。
ということは、厚労省も暗に、「重度」の患者さんは難しい状況にあることを認めているのでしょう。

ですから、「寛解」とか「再燃」とか、「再発」という言葉があるのでしょう。
なぜか?それは、うつ病をり患する原因が、今日現在、残念ながらまだ解明されていないからです。
原因が分っていないから、治癒することもないと云うことなのでしょうか。

医学知識の素人である小生が、これまでの知識・情報を整理して、簡単に申し上げると、
「治る」人もいれば、「治らない」人もいる、ということなのでしょう。
「軽度」「中程度」の患者であれば、治癒することもあるのでしょう。
しかし、「重度」の患者さんは、治癒するどころか、寛解にいたるのも難しいのかもしれません。
企業のMH対策に取り組むみなさんにとっても、「うつ病は治るのか」というのは、初めに思い浮かぶ素朴な疑問だと思います。
みなさんは、精神科医のセミナーや産業医の先生から、たくさんの情報を得ていると思います。
一度試しに、専門家の先生に「うつ病は治る病ですか?」と聞いてみてください。





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クローズかオープンか(続編)

2014年10月29日 | 情報
10日の当ブログでは、「クローズかオープンか」というタイトルで掲載しました。
今日は、その続編です。

最近は、オープンで就職する事例が、多くなっていますが、
当事者お一人おひとりですべて対応が異なることを理解してください。
病名や回復状況、当事者の心情、働くことへの考え方等々で、方策はすべて異なるということです。

オープンで就職する事例が多くなったとは言え、一方でクローズで就職する事例もたくさんあるのも事実です。
その「クローズ」で就職する場合なのですが、
就職して早々に、当事者の意図することが実現せず、当事者の病歴が事業所内の拡散してしまうことがあるのです。

個人情報を漏えいするのは、多分、事業所内の関係者なのでしょう。
守秘義務は、医師のように法令によって厳格に規定さている職種もあれば、
社内規程により守秘義務を課せられている立場もあります。
関係者が、「守秘義務の順守」を安易に考えているしか、想定することができません。

個人情報が事業所内に漏れてしまえば、周囲の好奇の目にさらされることになるでしょう。
就職した当事者は、意図したことと異なる状況に遭遇するのですから、
就労意欲は極端に低下してしまいますし、最悪病状が再発してしまう恐れも考えられます。

当事者の選択肢は、以下の二つでしょう
・病歴をオープンにして、就労を継続する
・意図することと異なるので、退職を申し出る

多分、我慢して就労を続ける必要はないでしょう。新たな就職先を探すことになるでしょう。
そして、今度は、障害のキャリアを持つ人が安心して就職できる事業所を探してください。
最近、各地方行政において、相談できる機関がたくさんあるのは、心強い限りです。

なお、争いに持ち込むのは、当事者の自由ですが、たとえ勝訴しても
現実的に得るものはほとんどないことを理解してください。




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入門編:②言葉の解釈

2014年10月29日 | 情報
精神科領域に関心を持つためには、専門用語を少し理解する必要があります。

うつ病は「治る」と、精神科医は言います。
「治る」ことには、精神医学的に3つの意味があるそうです。
反応 治療によって症状が改善したこと
寛解 治療が継続しているもの」、症状がおおむねなくなったこと
回復 寛解の状態が半年以上続いていること
ー「人事担当者のためのMH復職支援 P61 亀田高志」より、引用

一方で、「治癒」という言葉があります。
「治癒」とは、治療を行わなくても、症状が出なくなり、問題がなくなったということ、だそうです。
経営者や人事労務担当がイメージする、「一般的に病気が治るということ」とは、この「治癒」を言います。

精神科領域では、「治癒」とか「完治」という言葉は使いません。
あくまでも、上述した「寛解」という言葉を使用します。
これは、「がん」「白血病」等についても同様だそうで、重篤な病気に共通して使用するそうです。

最近、「完全寛解」という言葉も耳にします。
「完全寛解」とは、例えばがん治療においては、ずしもがんの治癒を意味するものではない
治療への反応としてがんの徴候が全て消失すること、を言うそうです。

寛解、完全寛解、治癒、の違いが理解できましたか?

もう一つ、「再発」と「再燃」があります。
「再発」とは、
よくなってからしばらく経ってまた症状をぶり返すことを、いいます。
「再燃」とは、
治療中にまたその疾患が悪化すること、または、いったんよくなっても再び症状が出現することを、いいます。

次に、ICD10とDSMⅣがあります。
わが国の精神疾患の診断基準は、ふたつあります。
精神科専門医の世界においては、米精神医学会が定めた診断基準「DSM―Ⅳ」を採用しており、
厚生労働省をはじめとする行政、及び司法においては、WHOが規程する「ICD10」を基準にしています。
高名な精神科専門医に確認すると、両者にはほとんど差がないとのことでした。使い勝手の問題だそうです。
なお、アメリカでは、既にDSMⅤが公表されていますが、日本語訳が公表されていませんので、
今日時点では、DSMⅣを使用していますが、ⅣとⅤとでは大幅な変更はないそうです。

以上の言葉を知っておくと、うつ病の治療についての情報を誤解することなく、理解しやすくなります。




購入は、書店では取り寄せになります。アマゾンでは、送料無料で入手できます。
小売価格1,296円
著者:橋本社会保険労務士事務所代表 橋本幸雄
監修:精神科専門医・産業医 恵比寿メディカルクリニック院長 高岡 拓先生
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11月は、過労死等防止啓発月間です

2014年10月28日 | 情報
「過労死等防止対策推進法」の施行にともない、11月を「過労死等防止啓発月間」としています。
具他的な計画としては、
厚生労働省は、啓発月間の行事として11月14日に東京・霞が関の同省庁舎内で「全国過労死を考える家族の会」の
メンバーや弁護士らが出席するシンポジウムの開催を予定しています。

厚労省通達 基総発1003第1号(平成26年10月3日)
過労死等防止対策推進法に基づくシンポジウムの開催について

http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T141016K0020.pdf#search=
'%EF%BC%91%EF%BC%91%E6%9C%88%E3%81%AF%E3%80%81%E9%81%8E%E5%8A%B4%E6%AD%BB%E7
%AD%89%E9%98%B2%E6%AD%A2%E5%95%93%E7%99%BA%E6%9C%88%E9%96%93'

さらに、11月1日に、過重労働に関する悩みに無料で応じる電話相談を実施します。
午前9時から午後5時まで。
電話番号は、0120-794-713
都道府県労働局の担当者が話を聞き、相談内容に応じて、違法かどうかなどを助言します。
さらに、寄せられた相談をもとに、長時間労働を強いる企業などに対して、労基署が監督や指導を行います。

過労死防止法が成立 11月を啓発月間に
2014/6/21 日経

働き過ぎが原因で亡くなることを防ぐ対策を国の責務とする「過労死等防止対策推進法」が20日、参院本会議で採決され、成立した。
法律は勤労感謝の日がある11月を「過労死等防止啓発月間」と定めており、
厚生労働省は月間を今年から実施できるよう同月までの施行で調整を進める。
国の取るべき対策として(1)過労死の実態の調査研究(2)教育、広報など国民への啓発
(3)産業医の研修など相談体制の整備(4)民間団体への支援――を列挙。自治体や事業主には対策に協力することを努力義務とする。
法律は超党派の議員連盟が議員立法で提出した。〔共同〕

(参考情報)国・自治体の責務に−−関西大名誉教授・森岡孝二氏
9月3日 毎日

先の国会で過労死等防止対策推進法(過労死防止法)が成立した。
「過労死防止基本法制定実行委員会」の委員長として遺族らとともに立法措置を求めてきた森岡孝二・関西大学名誉教授に、
その意義や今後の課題を聞いた。【聞き手・東海林智、写真・梅田麻衣子】

−−過労死が社会問題化してから四半世紀が経過し、
「KAROSHI」として国際的にも知られる異常な状況に歯止めをかける過労死防止法ができました。

 過労死や過労自殺は「あってはならない死」です。よくここまでこぎ着けたなというのが実感です。
2011年11月に被災者家族や弁護士、学生らで法制定を求める実行委員会を結成しました。
55万筆の署名を集め、道府県議会を含む全国121の地方議会で制定を求める意見書が採択されるなど運動が広がりました。
昨年6月には超党派の議員連盟が作られ、約130人が参加、法制定の大きな力になりました。

−−超党派の議員が動いた背景に何があったのですか。

 過労死は人災です。被災者家族らが中心になって熱心に議員を訪ね歩き、過労死の現状を伝えた結果、理解が広がりました。
また、法制定を求める院内集会に参加した議員のあいさつでは、身内や近しい人、
支援者らの間に過労死や過労自殺の被災者がいるという話が参加の動機として語られました。
「人ごとではない」という思いが危機感を持って広がったことも背景にあると思います。
国会の総意として防止法が成立したことは大きな意義があると思います。

−−法律ができたことで具体的にはどのような効果が期待できますか。

 この法律は、過労死の防止を国と自治体の責務として初めて定めました。
防止対策として調査・研究、啓発、相談体制の整備、民間団体の活動支援などを盛り込んでいます。
 例えば、調査・研究の分野では、個々の労災請求を詳細に検討して積み重ねていけば、
これまで見えていなかった長時間労働の健康への影響を具体的に解き明かすことができます。
深夜労働やシフト制、連続勤務や休憩時間のあり方がどのように健康被害につながるのか分かるかもしれません。
 また、現在、過労死認定=2=されている脳・心疾患以外の疾病、例えば糖尿病のような疾病に対する長時間労働の影響の解明も重要です。
これまで、長時間労働の実態があっても関連が解明されなかったケースでの労災認定に役立つでしょう。

−−防止対策は進むでしょうか。

 労災認定される過労死・過労自殺は「氷山の一角」と言われています。
全体像が見えてくれば、具体的な防止策も前進し、命を危うくする働き方への抑止につながっていくものと期待しています。
 その他にも、国や自治体による過労死の広報・教育活動や、11月の「過労死等防止啓発月間」を通じて、
過労死の防止を国民的課題として可視化することも期待できます。

−−法成立直後に、政府は労働者の一部を労働時間規制から除外する「新たな労働時間制度」を成長戦略に位置づけました。
長時間労働を助長するとの批判も根強くありますが。

 現状から見たら、逆立ちした提案です。正社員の労働時間は既に限界を超えるほど長くなっており、その抑制が求められています。
しかし、この制度は一部の人を労働時間規制の対象外とし、際限のない長時間労働を容認するものです。
また、働く人の命と健康を守るべきなのに、命と健康を経済発展の道具にしようとしています。二つの意味で逆立ちしていると言わざるを得ません。

−−除外の対象者は年収1000万円以上で専門的な仕事などと要件を挙げていますが。

 対象者の多くは、勤続20年ぐらいで40〜50代、部長や課長、それに準じる人々でしょう。
部下を指導、指揮する立場の人には出退勤の裁量があったとしても、部下が仕事をしている中で先に帰ることができるかと言えば難しい。
専門職というくくりも、日本の職務区分は大ぐくりです。専門分野があいまいで、多様な仕事を抱えているのが現実です。
いずれにせよ、労働時間規制から除外されれば、長時間労働から逃れるのは極めて難しい。
 また、労働者派遣法が派遣可能な職種を限定して始まりながら、後に全面解禁されたように、
いずれは年収要件も専門性の要件も緩和されることが予想されます。命の危険にさらされる労働者はあっという間に拡大するでしょう。
そうなれば、今以上にひどい状況を招いてしまいます。

−−過労死防止法ができたからといって手放しで喜べる状況ではないということですね。

 法の成立は、過労死防止対策の長く困難な道の入り口に立ったに過ぎません。
制定された法をどう生かすかは、国と自治体、事業主の責務であると同時に私たちの課題でもあります。
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